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米国労働需給は緩やかに緩和(9月雇用統計):11月0.75%の利上げ継続の観測強まる

2022/10/11

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賃金上昇率の低下傾向は明らか

米労働省が10月7日に公表した9月雇用統計は、雇用増加ペースが低下傾向、労働需給のひっ迫が緩和する傾向にあることをそれぞれ示唆した。しかし、そうした動きは依然緩やかであり、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ姿勢に修正を迫る内容とならないとみられる。

FRBが11月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で、4回連続で0.75%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)を実施するとの見方が強まり、同日の米国市場で株価は続落、長期金利は上昇した。さらにドル円レートは一時145円台半ば近くまで円安が進んだ。

9月の非農業部門雇用者増加数は26万3,000人となった。市場の事前予想の25.5万人増加をわずかに上回った。増加数は8月の31万5,000人から鈍化し、また、2022年前半の月平均44万人超をかなり下回っている。他方、失業率は3.5%と前月から0.2%ポイント低下し、7月の水準に並んだ。

最も注目されるのは時間当たり賃金上昇率であり、9 月は前月比+0.3%、前年同月比+5.0%となった。前年同月比上昇率は今年3月の+5.6%をピークに着実に低下している。全体として雇用統計は、労働需給のひっ迫が緩和する傾向にあり、賃金上昇圧力が低下傾向を辿っていることを示している。しかし、FRBにとっては、鈍化しているとはいえ、なお安定した雇用者増加ペースが続いており、物価上昇率が目標値に向かって着実に低下していく姿は見えていない。

労働関連統計はコロナ問題でかく乱されており指標性は低下か

労働関連統計は、新型コロナウイルス問題によって依然として大きくかく乱されており、指標性を失っている、あるいは景気に対して遅効性が強まっている可能性が考えられる(コラム「景気減速下で続く米国労働市場堅調の謎」、2022年8月31日)。他方、労働関連の指標でも、8月の雇用動態調査(JOLTS)によると、求人件数は1,010万件と、前月から110万人の大幅減少となった。これは失業者1人につき求人数が1.7件であることを意味するが、7月の2.0件から減少しており、企業にとって労働者の確保が容易になってきていること、つまり労働需給のひっ迫緩和を示唆している。

FRBが雇用統計に重きを置いて経済・物価の状況を判断し、急速な利上げを続ければ、景気を著しく悪化させてしまうオーバーキルのリスクは高まるのではないか。

また、雇用統計、物価統計など足元の経済指標は、事前予想を上回るものが少なくないが、その事前予想自体に下方バイアスがあるのではないか。事前予想との比較ではなく、数値自体で判断すれば、経済活動や物価上昇率は鈍化傾向にあることを示唆するものが多いと思われる。

FRBの利上げ姿勢変化の観測が浮上するのは今年12月から来年初め頃か

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は7日に、インフレを引き下げ、経済活動をより持続可能な形に均衡させるためには、FRBにはなすべきことがまだ多く残されている、との考えを示している。また米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は同日、「インフレは過度に高すぎる」と語っている。雇用統計を受けても、当局者のタカ派姿勢は変わっていない。

他方で、ウォラーFRB理事は6日に、インフレ率がFRBの目標である2%を大幅に上回っていることを踏まえると、自身を含む当局者の見解が次回11月の会合までに大きく変わることはないだろうと述べる一方、11月の会合まで4回連続で0.75ポイントの利上げを実施した後は、利上げペースを緩める方向で議論を始めることを示唆している。

FRBが利上げペースを0.25%まで落とす、あるいはFOMC毎の連続した利上げをやめ、様子見姿勢に転じるとの観測が金融市場に広がれば、それは、長期金利の低下、ドル安などのきっかけとなり、金融市場の雰囲気を一変させるのではないか。

今後の経済、物価指標、あるいは世界の金融市場の動向にもよるが、12月から来年初め頃に、そうした状況が見られ始める可能性を見ておきたい。

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