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3期目入りの習近平国家主席の経済政策

2022/10/12

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共産党大会で「習近平思想」が生まれるか

中国共産党の第19期中央委員会第7回総会(7中全会)が、9日に北京市内で開幕した。ここでは、10月16日から始まる第20回党大会に向け、政治や経済の基本方針を示す報告を行うほか、党の最高規則にあたる「党規約」の改正案が審議される。習近平国家主席(総書記)の理論や思想が盛り込まれた規約改正案が承認される見通しだ。

中国共産党大会では習近平国家主席が、党のトップとして異例の3期目入りを果たすかが最大の焦点であるが、実際のところ、その可能性はかなり高い状況である。そうした中で注目されるのは、3期目入りとなり、習国家主席の政治的権威が一層高められるだけでなく、思想面での権威付けも図られるかどうかである。

2017年の前回の党大会では、習国家主席の名前が付いた「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という指導思想が、行動指針として明記された。今回は、それが「習近平思想」に短縮されるとの見方がある。党規約に明記されている指導思想のうち「思想」に個人の名前だけがついているのは、建国の父とされる毛沢東の「毛沢東思想」のみである。「習近平思想」となれば、習国家主席の権威が毛沢東に並ぶことになる。

党大会を前に感染対策厳格化

16日の共産党大会を前に、中国各地では、新型コロナウイルス対策が厳格化されている。政府は、北京で感染を広げないこと、いわゆる首都防衛を最優先しているとみられるが、北京から数百キロ離れた山西省永済市では、新規感染が確認されていない中でも事実上の都市封鎖(ロックダウン)が発動された。また上海市や江蘇省蘇州市も9日までに大規模なPCR検査を始めた。

中国は7日まで国慶節(建国記念日)の大型連休だった。その時期に人の移動が高まることで感染リスクが高まることを政府は警戒していた。そこで政府は、連休中に省をまたぐ移動を行うことを自粛するよう呼びかけたのである。その結果、遠距離の移動を避ける傾向が強まり、旅行サイト中国大手の携程集団によると、今年は地元や近場の旅行を選んだ人の比率が全体の65%を占めたという。

中国の文化旅遊部は7日に、国慶節連休中の国内旅行者数が延べ4億2200万人となり、前年同期比で18.2%減少したことを明らかにしている。国内観光収入は26.2%減である。新型コロナウイルス流行前の2019年の同時期と比較すると、それぞれ60.7%、44.2%の水準にとどまっている。大型連休中の経済損失は小さくない。

強まる中国経済の逆風

中国政府は2022年の成長率の目標を+5.5%とした。しかし、その達成はほぼ困難となっている。世界銀行が9月下旬に発表した新興国の経済見通しによれば、2022年の中国の実質成長率は+2.8%で、4月の前回予測値の+5.0%から大幅に下方修正された。今まで、政府の成長率目標が達成されなかったことはなかった。党大会後の政権にとって、経済の立て直しは最重要課題となるだろう。

成長率の下振れは一時的なものとは言えず、潜在成長率は近年の+6%~7%程度から、ここ数年で一気に+4%~5%程度まで低下してしまった可能性があるのではないか。成長率の大幅な下振れは、雇用・所得環境の悪化から社会の不安定化につながる可能性もあり、政府としても看過できない問題だ。

ところで、足元の経済環境の悪化は、習近平国家主席の肝いりの政策によって引き起こされた面があることは否定できないのではないか。まず、一時的に経済活動を犠牲にしても感染を抑え込むという「ゼロコロナ政策」の影響は大きい。2020年の感染拡大の当初は、中国が他国よりも短期間で感染の抑え込みを実現し、それを世界にアピールできたという政府の成功体験が、その後も続く「ゼロコロナ政策」堅持につながっているようにも見える。

ただし、足元での経済活動の下振れや株価下落など金融市場の不安定化をもたらしているのは、「ゼロコロナ政策」の影響だけではない。「共同富裕」の理念のもとで政府は、不動産価格の高騰を煽り、巨額の利益を手に入れた不動産会社に対して、銀行借り入れを絞って、経営を一気に悪化させた。それは、個人の住宅購入の急減、住宅価格の下落の逆資産効果による消費不振も生じさせている(コラム「深まる中国の住宅不況:日本のバブル崩壊の経験は生かされるか」、2022年9月8日)。

さらに、IT産業、教育産業などに対する統制強化は、民間企業の活動を委縮させ、株価の調整をもたらした。それは「チャイナリスク」として海外投資家に認識され、海外から中国への資金の流入にも悪影響を与えている。

先進諸国との経済政策及び安全保障政策上の軋轢は一層激化か

経済活動に逆風となっている一連の経済政策は、中国共産党大会での自身の3期目入りを意識し、一層の権威付けを狙って、習近平国家主席が主導してきたものと推察される。経済に悪影響を与えているそうした経済政策が、党大会後に経済の安定に配慮して修正されるかは、大いに注目されるところだ。

党大会で3期目入りを確実にするための実績づくりとして、このような政策が行われたのであれば、実際に党大会で3期目入りが確定すれば、それを修正する余地が出てくると考えることもできる。

しかし、既に見たように、党大会で「習近平思想」が確立されれば、習近平国家主席が掲げる「共同富裕」などの理念に基づく経済政策を、誤りだったとして修正することは一層難しくなるのではないか。そのもとで、中国の潜在成長率が急速な低下傾向を辿れば、政府は海外市場の開拓をより急ピッチで進めて、国内経済の不振を補おうとするだろう。

そのため、習近平国家主席の3期目は、デジタル人民元を国際決済で利用し、人民元国際化の起爆剤とする施策、一帯一路政策の再構築など、より海外市場に目を向けた対外拡張的な経済政策運営となるだろう。その過程では、中国と先進諸国との間で、経済政策上及び安全保障上の軋轢は、一層激化するのではないか。

(参考資料)
「共産党大会2022:習氏思想、格上げか 党規約改正へ 7中全会開幕」、2022年10月10日、毎日新聞
「中国・中国共産党大会前に9日から重要会議」、2022年10月9日、NHK

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