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2023年度税制改正:目玉はNISAの拡充か

2022/10/19

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2023年度税制改正の議論が本格スタート

自民党税制調査会は10月11日に、「インナー」と呼ばれる幹部の非公式会合を開いた。ここから、2023年度税制改正に向けた議論が本格的に始まる。会長は岸田派の宮沢洋一氏が続投し、小委員長には自民党最大派閥である安倍派の塩谷立氏が就任した。また同派からは新たに福田達夫前総務会長も加わる。積極財政の安倍派の影響力が高まることが、2023年度税制改正にどのように影響するかが注目されるところだ。

宮沢会長は会合後に、複数のメディアのインタビューに答えている。そこから浮かび上がってくるのは、2023年度税制改正には、少額投資非課税制度(NISA)が盛り込まれる可能性が高く、それが目玉となることだ。他方、防衛費増額やグリーントランスフォーメーション(GX)戦略など中長期の重要課題に対応した税制改正の議論は、2023年度税制改正には盛り込まれず、議論は来年以降に先送りされそうだ。

NISAの拡充とエコカー減税見直しが柱に

岸田政権が掲げる「資産所得倍増計画」推進のため、NISAの拡充策が検討されている。金融庁は2023年度の税制改正要望として、NISAの抜本的拡充などを要望している。

宮沢会長はインタビューの中で、現在3種類のNISAのうち、「つみたてNISA」の拡充を進める、と言明している。年40万円までの投資枠の拡大や20年間の非課税期間の延長等を念頭に置いている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)についても、早ければ2023年度税制改正で、加入可能年齢を現状の65歳未満から引き上げる考えを表明している。

また、2023年4月に期限が迫る「エコカー減税」制度(自動車重量税)を2023年度税制改正で見直す考えについても、宮沢会長は明らかにしている。税優遇の適用基準を現行の制度よりも厳しくして対象車種を絞る。国が定める燃費基準の達成度合いが低いハイブリッド車(HV)などの減税幅を縮める方向だ。他方、電気自動車(EV)については現行の高い税優遇が維持される方向である。政府が掲げるカーボンニュートラル目標の実現を意識して、HVやガソリン車で免税や減税のハードルを上げることで、メーカーの技術革新を促す狙いがある。

防衛費増額には法人増税、所得増税などが選択肢に

自民党は、防衛費を5年以内にGDP比で2%以上を念頭に増やすよう求めている。2022年度当初予算は5.4兆円、GDP比1%であるが、これをGDP比2%にするには、向こう5年間で5兆円規模の財源の手当てが必要となる。

宮沢会長は、防衛費増額の財源を「国債で対応するのはあまりにも無責任だ」と指摘し、まずは歳出削減を優先すべきだと強調している。しかし、歳出削減で5兆円を捻出することはかなり難しい。そこで宮沢会長は、「それなりの税収が期待されるのであれば、それなりの大きな税を考えていかなければならない」と述べ、法人増税、所得増税が選択肢になるとの考えを示している。消費税については、「社会保障の大変重要な財源で防衛費というわけには恐らくいかない」と述べ、選択肢には加えない考えを明らかにしている。

自民党内では、防衛費増額を法人増税で賄う考えが広がりを見せている。しかし、保守派を中心に国債増発で賄うとの主張は根強いものとみられ、今後の党税制調査会での議論が注目されるところだ。ただし、2023年度税制改正で防衛費増額の財源が手当てされる可能性は低く、議論は来年以降に持ち越される方向だ。

炭素税などのカーボンプライシングの議論も先送り

温暖化ガスの排出に金銭負担を求める炭素税などのカーボンプライシングについて宮沢会長は、「どういう債券や国債が発行され償還するかという話になって初めて税の出番になる」と説明している。政府は脱炭素分野の財源として「GX経済移行債」(仮称)を検討中であるが、宮沢会長はその詳細な設計が年内には決まらないとの見通しも明らかにしており、その結果、炭素税導入が、2023年度税制改正に盛り込まれることがないと示唆している。

ただしこれは議論が逆であるように思える。「GX経済移行債」は、恒久財源を決めたうえで、制度整備によってその財源確保できるまでの短期間の財源を賄う「つなぎ国債」であるはずだ。まずは、GX政策の恒久財源を確保する議論を先に進めるべきだ。

企業に脱炭素の取り組みを促すカーボンプライシングとしては炭素税だけではなく、Co2排出量取引制度の整備なども考えられるが、政府は20兆円のGX投資を打ち出しており、その実施には恒久財源を確保することが必要だ。

「1億円の壁」問題と金融所得課税の議論

岸田首相は政権発足当初、所得が1億円を超すと実効税率が下がる「1億円の壁」問題を是正するために、所得税の最高税率よりも税率が低い金融所得課税制度を見直すことで、高額所得者の税負担を高め、税の公平性を高める考えを示していた。しかしその後、株式市場への悪影響などに配慮し、金融所得課税の見直しの議論はトーンダウンさせたのである。

ただし、金融所得課税の見直しとは限らないが、「1億円の壁」問題の是正については「相当議論したい」と宮沢会長は意欲をみせた。そして、「高額所得者の所得税の負担のあり方を見直す」考えを明らかにしている。

しかし、2023年度の税制改正に、金融所得課税の見直しを含む「1億円の壁」問題の是正策が盛り込まれる可能性は低そうだ。金融所得課税の見直しではなく、高額所得者の税率引き上げで対応することも可能である。

公明党との意見調整によって議論が修正されうる

2023年度に実施あるいは来年以降に継続的に議論される、NISA拡充、防衛費増額、GX投資の財源問題、「1億円の壁」問題などについては、自民党税制調査会を中心とする自民党内での議論だけでなく、連立与党の公明党との調整によって議論の方向性は変わってくる。公明党は、格差縮小を最優先課題としつつ、税制改正の議論を自民党にぶつけてくるだろう。

公明党の西田税制調査会長は、富裕層への課税強化に取り組む考えを示している。相続税の課税対象期間を延長し、生前の分割贈与が富裕層の節税対策に使われる仕組みを見直したい考えである。また「1億円の壁」問題については、所得が10億円を超えるような超富裕層には、「所得税の負担率を上げていく改革があってもいい」と指摘している。さらに、富裕層の蓄財に使われないように、NISAの大幅拡充には慎重な姿勢だ。

2023年度税制改正では、自民党の税制調査会は、「資産所得倍増計画」、「貯蓄から投資へ」、「GX投資拡大」、「人への投資促進」といった、成長戦略に重きを置いた税制改革を議論する。これに対して公明党は、「格差縮小」という左派的な政策課題の実現に重きを置いて議論する傾向があり、そもそも両者の狙いが大きく異なっている面がある。

さらに防衛費増額の財源確保問題については、そもそも公明党は防衛費増額に慎重とみられることから、議論はかみ合わない可能性が考えられる。

2023年度税制改正について自民党の議論は、NISAの拡充とエコカー減税見直しが柱となる一方、その他の大きな課題は先送りとなる方向性が見えてきている。ただし、12月上旬から中旬に「与党税制改正大綱」という文書にまとめられるまでの間には、公明党との意見調整によって議論が修正されうる可能性があり、なお不確実性が残されている。

(参考資料)
「防衛費、法人増税は「選択肢」 自民税調会長、人への投資は負担軽く」2022年10月15日、日本経済新聞
「エコカー減税の基準厳しく、絞り込み検討 自民税調会長」2022年10月15日、日本経済新聞電子版
「相続税の節税防止 富裕層の課税強化を検討 公明税調会長」2022年10月15日、産経新聞
「自民税調会長 「防衛費増へ恒久財源」 法人・所得増税 検討示唆」2022年10月15日、読売新聞
「金融所得課税の強化 議論 自民党 税制調査会長 宮沢洋一氏」2022年10月15日、読売新聞
「防衛費、消費税の活用否定」2022年10月18日、日本経済新聞

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