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深刻な不動産不況が続き逆風が強まる中国経済

2022/10/20

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恒大グループなどデベロッパーの経営不振が連鎖的な悪影響

中国国家統計局は10月18日に予定していた7-9月期のGDP統計の発表を延期すると、前日に突如発表した。その理由についての説明はされていない。16日に開幕した共産党大会、さらに3期目入りを確実にしている習近平国家主席に配慮して、景気減速を裏付ける数字の発表を控えた、との見方が出ている。

中国政府は今年の中国の成長率目標を+5.5%としているが、その達成はほぼ不可能となっている。世界銀行が公表した見通しでは、今年の中国の成長率は+2.8%である。

今年の中国の成長率の下振れには、現在も続くゼロコロナ政策の影響が大きい。しかし、そればかりでなく、昨年から続く不動産不況の影響も深刻である。政府が銀行からの借り入れを制限したことで資金繰りが悪化した不動産デベロッパーの恒大グループは、政府の管理のもと再建の取り組みを続けている。しかし、関連業種に連鎖的に悪影響が波及する動きは止まらない。

住宅建設が完了する前に住宅購入資金を支払ったにも関わらず、恒大グループなどデベロッパーが資金繰りの悪化に直面したことで住宅建設が進まないケースが増加した。そのため、新規の住宅購入を見合わせる動きが続いている。政府の規制による銀行借り入れの制限とこの住宅販売収入の双方の急減速を受けて、デベロッパーの資金繰り悪化はさらに加速し、建設業者などへの債務返済が滞っている。

デベロッパーは、用証書(IOU)と呼ばれる商業手形を発行することで、請負業者や建設会社などへの現金支払いを、数か月~1年先延ばしすることが広く行われていたという。そのため、デベロッパーは請負業者や建設会社などに巨額の短期債務を抱えていた。

建設関連サービスや建築資材を扱う企業は、恒大グループなどデベロッパーから債務の返済を受けられず、財務が悪化している。そのため取引先企業への支払いに窮する企業が増え、幅広い業種、企業に連鎖的な悪影響が広がっているのである。

住宅支援策の効果は見えず

中国政府は住宅市場を支援するため、国慶節の休暇(10月1日~3日)の前に各種政策打ち出した。9月29日には、1軒目の住宅を取得するための新規住宅ローン金利の下限を今年末まで段階的に引き下げる、あるいは撤廃することを可能とする措置を決めた。さらに9月30日には、個人住宅の買い替えを促進するために、今年10月1日から来年12月31日まで、既に保有している住宅を売却し、売却から1年以内に住宅を購入した納税者に、売却時の個人所得税を還付する優遇策を発表した。

しかし、中国不動産指数システム(CREIS)のデータによると、10月1~7日の中国主要70都市における新築住宅販売は前年比-44%の大幅減となっており、住宅支援策の効果はまだ見られない。

中国の不動産分野で社債のデフォルトが増加

中国の住宅不況は、世界の金融市場にとってもリスクとなっている。JPモルガンによると、新興国の高利回り社債の年初来のデフォルト率は、10.3%に達している。ロシアでのデフォルト増加を主因に欧州新興国のデフォルト率は21.7%に上昇する一方、中国の不動産企業の経営悪化でアジア全体のデフォルト率も12.8%に達した。

さらに、デベロッパーが大半を占める中国のドル建てジャンク債の価格は、足元で最安値を更新している。ブルームバーグ社の指数によると、中国のドル建てジャンク債は額面1ドルに対して、17日には55.7セントの水準にある。

経済に逆風となる政策は継続される見通し

そもそも、住宅需要が悪化している最大の原因が、デベロッパーの経営不振によって、購入代金を支払っても実際には入手できない、との消費者の強い不信感にあるとすれば、金利、税制面で住宅購入を支援しても住宅需要はなかなか回復しないだろう。

他方、恒大グループなどデベロッパーを政府が直接救済すれば事態は改善するだろうが、それでは従来の政策方針を修正し、それが誤りだったと認めることになってしまう。デベロッパーへの統制強化は、不動産価格を高騰させ個人の住宅購入を難しくさせるとともに、巨額の利益を上げる経営を改めさせることが目的だ。これは、習近平国家主席の「共同富裕」の理念に基づく政策と考えられる。

現在開かれている共産党大会で、習近平国家主席の政治的地位のみならず思想的地位も確立されれば、その理念、思想に基づいて施行されてきた政策が修正されることは、一層難しくなるだろう。その場合、デベロッパーや関連業種の経営不振が住宅不況をより深刻にさせ、中国経済への逆風が長引くのではないか(コラム「3期目入りの習近平国家主席の経済政策」、2022年10月12日)。

それ以外にも、習近平国家主席が主導してきたと考えられるゼロコロナ政策、IT産業・教育産業への統制強化なども継続し、経済の逆風が続くことになるのではないか。さらに、来年にかけては、世界が景気後退入りする可能性もある。また、中国の人口減少、米国の対中デカップリング政策の影響なども加わるのである。

習近平国家主席が異例の3期目入りを果たすタイミングで、中国経済はまさに歴史的な逆風に晒されることになるだろう。

(参考資料)
"China Evergrande's Debt-Crisis Fallout: Losses, Layoffs and More Defaults(中国恒大危機、デフォルトの連鎖止まらず)", Wall Street Journal, October 17, 2022
「新興国の社債不履行、第3四半期も拡大 中・ロの不動産で急増」2022年10月11日、ロイター通信ニュース
「中国 個人の住宅購入支援 ローン金利見直しや撤廃」2022年10月25日号、国際貿易

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