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1ドル150円を超えて円安が進行:円安の一巡には米国金融政策姿勢の修正を待つしかない

2022/10/20

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為替介入後に円安はむしろ加速し150円台に突入

10月20日の東京市場で、ドル円レートは1ドル150円台に乗せ、32年来の安値水準を更新した。今年3月以降、ドル高円安傾向が続いており、3月22日には120円台、4月28日には130円台、9月1日には140円台にそれぞれ乗せていた。

120円突破から130円突破まで1か月と6日、130円突破から140円突破まで4か月と3日、140円突破から150円突破まで1か月と20日、それぞれかかった。9月22日に政府が24年ぶりとなる円買い為替介入を実施して以降、円安進行のペースは逆に加速しているのである。

次の節目となるのは1ドル160円20銭だ。この水準を超えて円安が進めば、1986年以来、実に36年ぶりの円安水準となる。これは1985年のプラザ合意以降、先進国が協調してドル高修正を実施していた時期にあたる。

仮に、140円から150円までのペースで先行き円安が進めば、12月中旬には160円に達する計算となる。

為替介入には制約があるのか

政府の為替介入は、9月22日以降、明確に確認されている範囲内では行われていない。過去の為替介入では、一度政府が為替介入に踏み切ると、しばらくは断続的に、時には毎日のように為替介入が実施されることが多かった。それと比べると、今回の為替介入姿勢は非常に慎重であり異例である。

これは、日本政府が円安の流れを食い止める、あるいは円高方向に変えるための介入ではなく、G7の合意を尊重して、「為替レートの過度の変動や無秩序な動き」が生じる場合にそれをけん制する狙いで実施することを為替介入実施の条件としていることが理由なのではないか。あるいは、米国当局から事前に為替介入実施の承認を取り付けた際に、そのような条件を付されたのかもしれない。

為替介入が協調介入の場合であれば、海外市場で大きく円安が進んだ際に、日本は海外当局に要請して委託介入を実施できる。しかし今回のような単独介入では、それができない。日本側の材料によって、東京市場の取引時間で円安が大幅に進む局面でしか政府が為替介入をできないのであれば、介入実施の機会はかなり限られてしまうだろう。ドル円レートの大きな変動は、日本よりも海外要因で引き起こされるケースが多いからだ。

このような点が、今回の為替介入策を大きく制約することになり、過去の為替介入時と比べてもその効果を削いでる面があるのではないか(コラム「32年ぶりの円安水準で浮かび上がる過去と異なる為替介入策:各国で強まる米国金融・為替政策への批判」、2022年10月14日)。

注目される各国でのドル高懸念の強まり

円買い単独介入の効果は限られ、円安の流れを食い止めることは難しい。せいぜい時間稼ぎの効果しかない。

仮に日本銀行が為替の安定に配慮した金融政策運営を実施すれば、両者の合わせ技で、少なくとも現状よりは効果を発揮できるだろう。しかし、日本銀行は、現状では為替市場に配慮した政策修正の可能性を強く否定しており、そうしたポリシーミックス(政策の組み合わせ)が実現する可能性は低い。

そのため、円安の流れが一巡するためには、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースが明確に落ちるなど、その政策姿勢の変化が確認されることが必要となる。この観点から注目されるのは、先般のG7財務相・中央銀行総裁会議で、ドル高進行とそれを引き起こす米国の急速な利上げに対する不満が各国の間で一気に強まったとみられることだ(コラム「国際協調の揺らぎを示唆したG7共同声明:各国はドル独歩高に強い不満」、2022年10月13日)。

FRBがそうした他国の批判を受け入れて、政策姿勢を変更することは直ぐには考えにくいが、先行きは急速な利上げに歯止めを掛けていく一因となるのではないか。

1ドル160円の手前で円安に歯止めが掛かるか

景気減速と物価上昇圧力緩和の兆候、英国市場混乱など海外金融情勢の不安定化といった要因に、既にみた海外からの米国の金融・為替政策に対する批判の高まりといった3つ目の要因が重なると、いわば合わせ技で、いずれ、FRBの大幅利上げ姿勢に変化を生じさせることも考えられる。

そして、FRBの利上げ幅が0.25%に縮小するとの期待が強まる時点で、米国の長期金利の上昇は一巡し、ドル高円安の流れが一巡することが期待される。今年12月のFOMCまではFRBは大幅な利上げを続ける可能性は高く、その場合、FF金利は4%台半ばから後半の水準に達する。

ただしその場合、FRBが注目している短期金利と18か月の国債利回り(現時点で4.6%程度)が逆転し、逆イールドが生じる可能性がある。FRBがこれを景気悪化と先行きの物価上昇率の低下を示唆するものと考えれば、利上げペースを明確に縮小させることを検討し始めるきっかけとなる可能性がある。これがFRBの政策姿勢を修正させる4つ目の要因である。

FRBの政策姿勢は、今後の経済・物価指標を中心に上記の4つの要因に左右されようが、早ければ12月のFOMC後から来年1-3月期にかけて、利上げペースを明確に縮小させるとの観測が金融市場で強まり、円安の流れにようやく歯止めが掛かっていく可能性を見ておきたい。

この先は、米国で景気減速傾向が次第に強まる中、ドル高進行のペースも徐々に低下していくことを前提に、年末から来年初めのタイミングで、1ドル160円の手前で円安に歯止めが掛かる、と現状では考えておきたい。

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