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為替介入の実施で一時円安の修正が進む

2022/10/24

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海外市場での為替介入

10月21日の日本時間の深夜に、政府は再び為替介入に踏み切った。20日の東京市場で円は1ドル150円台に乗せ、32年ぶりの円安水準を更新した。さらに21日にも円安の流れが続き、海外市場で一時1ドル=151円90銭台にまで達していた。ところが同日午後11時40分ごろに突然ドル安円高の流れに変わり、一時1ドル144円台と1時間ほどの間に7円程度も円高が進んだのである。

政府は介入の有無を明らかにしていないが、各メディアは、政府が為替介入を実施したと報じている。確認されているところでは、為替介入は9月22日に実施されて以来、2回目である。

予想外であったのは、東京市場の時間帯ではなく海外市場の時間帯で為替介入が行われたことだ。海外市場の時間帯での為替介入は、海外の中央銀行に委託して行う「委託介入」が一般的だ。各国が協調して為替介入を行う協調介入の場合には、この委託介入を行うことが容易だ。しかし、今回のような単独介入では、他の中央銀行に為替介入を委託するのは簡単ではない。一部報道によれば、欧州中央銀行(ECB)は、21日に為替介入を実施していないことを明らかにしている。米連邦準備制度理事会(FRB)が日本からの強い要請で委託介入を実施したのだろう。

予想外に大きかった為替介入の短期的な影響

9月22日の初回の為替介入時には、一時5円程度、対ドルでの円高が進んだ。今回はそれを上回る7円程度の幅となった。為替介入は初回の効果が最も大きくなりやすい、という一般的な傾向に照らせば、これは予想外である。

効果が予想外に大きかった理由は4つある。第1に為替市場は東京市場での為替介入を強く警戒していたため、海外市場での為替介入の実施はサプライズであったこと、第2に、東京市場と比べて海外市場ではドル円の取引は少ないため、為替介入の効果が大きく出やすかったこと、第3は、為替介入の規模が大きかった可能性があることだ。

さらに第4の理由として、FRBが利上げペースの縮小を議論するとの観測記事を受けて、米国の長期金利が低下し、ドル安円高の圧力が生じたタイミングに合わせて為替介入が実施されたことで、効果が高められたことだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は21日に、FRBが11月1~2日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の追加利上げを実施するとともに、12月の会合で利上げペースを縮小させる可能性をどのように市場に伝えるべきかを議論する公算が大きい、と報じた。

FRB内で利上げ幅縮小に向けた議論

今回の介入によって一時的には円安の流れが食い止められたが、その効果が持続することはないだろう。日本銀行が為替の安定に配慮する金融政策に修正することがない限り、政府による為替介入だけで円安の流れを止めることは難しい。

円安の流れを変えるのは、FRBの利上げ姿勢の変化である。FRBが利上げのペースを明確に縮小させるとの見方が広がれば、米国長期金利の上昇が一巡し、日米長期金利差の変化に大きく影響を受けるドル高円安の流れも一巡するだろう。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙も報じているように、FRB内部では、経済への悪影響にも配慮して、利上げ幅の縮小を検討する向きが出始めている。このことは、3月以来の大幅な円安が終盤戦に入ったことを意味するのではないか。

ただし、FRB内部での意見は未だ分かれているうえに、11月のFOMCで議論される可能性があるのは、連続で0.75%幅の利上げを実施した後、12月のFOMCで0.5%に利上げ幅を縮小することである。

今年年末から来年1-3月期が円安一巡のタイミングか

しかし、金融市場では12月のFOMCで0.5%の利上げが既にコンセンサスとなっている。利上げ幅が0.25%まで縮小するとの見方が浮上しないと、FRBの利上げ姿勢が大きく変わったことにはならず、米国長期金利の上昇一巡、ドル高円安の一巡には至らないだろう。また、今後、経済・物価指標が上振れれば、0.5%への利上げ幅縮小の議論も先送りされてしまう。

それでも、FRBが0.25%まで利上げ幅を縮小させるとの見方が金融市場に広まる時期は、近づいているのではないか。経済・物価市場の下振れ、海外での金融市場の不安定化、海外からの米国の大幅利上げとドル高進行への批判の高まり、の3つの合わせ技が、FRBが利上げ幅を明確に縮小させることに、いずれはつながるだろう。

そうなれば円安の流れは一巡すると考えられるが、その時期は今年年末から来年1-3月期とみておきたい。

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