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米国中間選挙でインフレが民主党の強い逆風に:選挙後も米国のドル高容認姿勢はしばらく継続

2022/10/31

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バイデン大統領の支持率低迷が中間選挙に影

米国の中間選挙が、いよいよ11月8日に迫ってきた。連邦議会上院の議席の3分の1(34議席)、および下院の全議席(435議席)が改選される。現状は民主党が、大統領の職、下院での過半数の議席、上院での実質的な過半数の議席を占める「トリプルブルー」の状況にある。中間選挙で民主党が上下両院、あるいはそのどちらかで議席の過半数を失い、政権と議会の「ねじれ」が生じるかどうかが注目されている。選挙戦終盤にかけて、野党・共和党に追い風が吹いている模様だ。

中間選挙は一般に現政権の評価を反映する傾向が強いとされる。今回は、バイデン政権1期目、2年間の評価である。歴史的に見れば、中間選挙で野党が議席を伸ばす傾向が見られる。

バイデン大統領の支持率は低迷を続けている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の最新の世論調査によると、バイデン大統領の仕事を評価するとの回答は45%と、3月の42%から改善はしたものの、なお低水準にとどまる。他方、54%は評価しないと回答している。また、ロイターとイプソスが10月10-11日に実施した世論調査によると、バイデン大統領の仕事を評価するとの回答は40%で、5~6月の36%の低水準に再び接近している。

こうしたバイデン大統領の支持率低迷が、民主党にとっては中間選挙の行方に影を落としている。米紙ニューヨーク・タイムズと米シエナ大が10月9~12日実施した世論調査によると、下院選挙での共和党候補への支持率が49%と、民主党候補の45%を上回っている。タイムズ紙は、「バイデン大統領への不満を背景に、無党派層、特に女性が共和党支持に傾いている」と分析している。

下院では僅差で優位にある民主党が現有議席を失う可能性が高く、過半数を失う可能性もある状況だ。上院では両党が同数の議席を分け、現在の拮抗した状況が続きそうだ。

有権者は物価高への不満を募らせる

米公共ラジオNPRとマリスト大学の9月下旬の世論調査では、「投票時に最も考慮する問題」について問われている。インフレ、民主主義擁護、中絶、移民、医療の5つの選択肢の中で、「インフレ」との回答率が37%と最大である。次に「民主主義擁護」の27%、「中絶」の13%となっている。

民主党は弱点とも言える「インフレ」の問題から有権者の目をそらすため、「民主主義擁護」、「中絶」などを争点にする戦略をとってきた。ロシアや中国から民主主義を守る姿勢を政権はアピールしている。さらに、憲法上の中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を最高裁が6月に覆したことをきっかけに、民主党は中絶権擁護の姿勢を有権者にアピールしている。

しかし、有権者は物価高騰への不満をかなり強めている。これに関しては、バイデン政権が発足直後に打ち出した経済対策が遡って批判されている面もある。バイデン政権は2021年3月に総額1.9兆ドルの大型経済対策法を成立させた。また同年11月には5年間で1兆ドルを投じるインフラ投資法も成立させた。これらについて、過大な財政拡張策が物価高を助長した、との批判が出ている。

他方、バイデン大統領は今年7月にサウジアラビアを訪問し、原油価格の上昇を抑えるために増産を要請したが受け入れられなかった。さらに、サウジアラビアを含むOPECプラスが10月5日に日量200万バレルの協調減産に合意したことで、バイデン大統領はメンツを潰され、その原油価格抑制策は空振りに終わってしまった。

物価の変動を調整した実質賃金はバイデン大統領の就任以来で4%程度減少している。これはリーマンショック(グローバル金融危機)の時期を上回る大幅な落ち込みであり、米国民の不満を高めている。

選挙後も米国のドル高容認姿勢は変わらず

物価高への対応としては、現在、バイデン大統領は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに任せるしか手はない状況だ。中間選挙の結果に関わらず、政権がFRBの利上げ策を支持し、両者が物価高対策で連携する構図はしばらく変わらないだろう。

米国は他国からドル高容認を批判されている。他国では通貨の安定のためには米国に追随した大幅利上げの実施を余儀なくされているが、それは、自国の経済に打撃となっている。米国が利上げのペースを調整し、急速なドル独歩高を修正して欲しいと多くの国は考えている。

しかし現状では、ドル高は物価抑制効果を持つため、米国のドル容認姿勢は中間選挙後も変わらないだろう。

中間選挙後にはFRBの政策が評価される

しかし今後、米国の景気減速の兆候がより明確になっていけば、政府とFRBとの間で物価高対策を巡る温度差が広がることになるのではないか。政権はより景気に配慮した金融政策運営を望むようになるだろう。また、輸出企業の競争力への悪影響を高めるドル高を食い止める観点からも、金融引き締めの修正に期待するようになるのではないか。他方でFRBは、景気を犠牲にしてでも物価高が定着しないように、金融引き締めを継続する姿勢をしばらく維持するだろう。

中間選挙の結果ねじれが生じれば、バイデン政権の経済運営はより行き詰まることになる。その場合、金融市場ではFRBの金融政策に経済のかじ取りを期待する傾向が強まるのではないか。この先FRBが、経済、金融の大きな混乱を回避しつつ、物価の安定を回復することができれば、金融市場におけるFRBの政策手腕に対する評価は高まり、ねじれ現象への不安も一定程度緩和されるだろう。

他方、FRBの急速な利上げが、経済、金融の大きな混乱をもたらしてしまう場合には、その評価は大きく低下してしまう。政権、FRBともに安心して経済政策運営を任すことができない、頼れるところがない、との不安が、金融市場の不安定化を増幅してしまう事態も考えられるところだ。

金融市場の関心は既に、中間選挙後のFRBの金融政策運営と経済、金融情勢に向けられている。選挙後には、政府に代わってFRBの金融政策が金融市場で評価に晒されるのである。

(参考資料)
"Inflation and the Midterm Elections(インフレと米中間選挙)", Wall Street Journal, October 14, 2022
"Senate Midterm Map Shaped by Abortion and the Economy(米中間選挙迫る 上院の争点は「中絶・経済」)", Wall Street Journal, September 16, 2022
「11月中間選挙の投票先、共和が民主を逆転 米紙調査で」、2022年10月18日、日本経済新聞電子版
「米中間選挙2022:来月8日投開票 物価高騰、政権に逆風 バイデン氏、争点化回へ躍起」、2022年10月17日、毎日新聞

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