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グラスゴー金融同盟(GFANZ)設立1年で壁に:段階的な移行をしっかりと助けることが金融の役割

2022/11/09

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加盟金融機関からの反発が強まるGFANZ

昨年英国で開かれた国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)で、大きな成果の一つとなったのが、カーボンニュートラルの実現を金融面から推進する、「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」と呼ばれる金融機関の有志連合の正式発足だった。それを主導したのは、前イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏だ。世界45か国の500社を超える金融機関が加盟し、資産規模は約130兆ドルに及んだ。日本からも大手銀行、保険、アセットオーナー、運用機関等が参加を決めている。

しかし、GFANZ発足から1年経って、加盟金融機関の間には不満が強まり、一部には脱退の動きも見られ始めた。GFANZをもう一度実効性のあるものに立て直すことができるかが、現在開かれているCOP27での注目点の一つである。

この1年の間に生じた大きな環境変化は、ウクライナ問題をきっかけとするエネルギー危機である。エネルギー源として石炭への回帰が広がる中、化石燃料への資金供給を一気に減らすことは難しくなった。さらに、政治家や規制当局からの圧力が高まったことで、米銀大手は脱炭素化ルールが厳しすぎると感じ始め、反発を強めているのである。

国連の基準を満たすことは必須でないと修正

金融機関の反発を生じさせるきっかけとなったのは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が示した"Race to Zero"基準を順守することが、GFANZ設立時に定められていたことだ。そこでは、以下のような点が求められている。

  • 2050年までに、スコープ3を含む全排出量のネットゼロを達成するため、科学的根拠に基づくガイドラインを活用する
  • 今後10年間で排出量を50%前後削減する2030年の中間目標(2030 interim target)を設定する
  • ネットゼロに向けた移行戦略を策定し、公表する
  • 目標達成に向けた進捗を透明性のある形で毎年開示する
  • オフセットを活用する場合は、厳格な規制を適用する

さらに、国連の主要機関がGFANZ加盟企業に対して今年夏に発表したガイドラインが、加盟金融機関の強い反発を招いた。そのガイドラインには、銀行は化石燃料企業への資金提供を制限し、新規石炭事業への融資をやめるべきだ、とする勧告が盛り込まれていた。

これを受け、JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカなど米銀大手は、GFANZからの脱退も辞さない構えを見せたという。銀行側は、勧告は行き過ぎであり、訴訟リスクをもたらすと反論した。そして、国連が拘束力のある基準を独自に決めることはないとの確証を得られない限り、脱退も辞さないと告げたという。

こうした事態を受けてGFANZは、国連について「すべての加盟機関は連携しなければならない」としていた規定を修正し、国連など他の組織については「助言や指針に留意する」とルールを緩めることを強いられた。国連の温室効果ガス削減運動「Race to Zero(ゼロへのレース)」への協力を引き続き推奨するものの、その基準を満たすことは必須ではないとしたのである。

改めて問われる移行(トランジション)における金融の役割

二酸化炭素の排出量が多い環境負荷の高い企業やプロジェクトに対して、一律に融資の打ち切りを求める方針について、金融機関のなかで見直す動きが出てきている。そのきっかけとなったのは、ウクライナ問題によって生じたエネルギー危機、石炭回帰などである。

10月に米資産運用大手ブラックロックは英議会の環境監査委員会(EAC)で、石炭や石油、ガスへの投資を中止するつもりはないと説明した。自社の役割はカーボンユートラルの移行を目指す顧客を支援することであり、その手段を決めることではない、との考えなのだろう。英銀大手HSBCも、既存の石油生産元への継続的な投資が必要だと主張している。

仮に国連の勧告のように、新規石炭事業への融資を一気にやめてしまうような場合、現状では、エネルギー危機を深刻化させ、経済を混乱させる可能性があるだろう。また、石炭火力発電が二酸化炭素排出量を抑えた新たな技術に基づく投資を行うことが資金面から妨げられ、古い石炭火力発電を使い続けざるを得なくなり、二酸化炭素排出量削減の取り組みにむしろ逆行してしまう可能性もあるだろう。

金融機関の役割は、環境負荷の高い企業やプロジェクトへの投融資を一気にやめることではなく、企業が段階的に二酸化炭素の排出量を減らし、最終的にカーボンニュートラルを達成できるよう、その移行(トランジション)をしっかりと資金面から助けることにある。

こうした脱炭素に向けた金融、あるいは金融機関の本来の役割を、GFANZ1年のこの時期に、COP27の場で改めて真剣に議論する必要があるだろう。

(参考資料)
"Big Banks and U.N. Green Finance Group Clash in Alliance(脱炭素化支える金融有志連合、米銀大手が反発)", Wall Street Journal, October 28, 2022
「世界の金融機関、脱炭素移行へ現実路線-逆風下で結束に乱れも」、2022年11月2日、日本経済新聞電子版
「ブラックロック、化石燃料への投資を中止せずと英議会で説明」、2022年10月19日、ロイター通信

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