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繰り返された米国CPIショックと円安修正の持続性

2022/11/11

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CPI統計に対する市場の反応は過剰か

米国のCPI(消費者物価)統計に金融市場が大きく反応する「CPIショック」が連続して生じている。今までは、事前予想と比べてCPIが上振れたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ見通しを上方修正する動きが金融市場に広まったが、11月10日に発表された10月分CPIでは逆に、数字が予想比下振れたことで、利上げ見通しが下方修正された。

10月CPIは前年比+7.7%と4か月連続で低下し、今年1月以来の低い水準となった。金融市場がより注目するコアCPIは前月比+0.3%と、前月の同+0.6%から鈍化し、また、前年同月比は+6.3%と3か月ぶりに下落した。

このCPI統計に米国金融市場は大きく反応し、株高、債券高、ドル高が一気に進んだ。10日のダウ平均株価は前日比1,200ドルの大幅高となった。またドル円レートは、146円台前半から140円台前半へと一時6円近くも円安修正が進んだ。

足元での米国CPI統計に対する金融市場の反応は、やや過剰すぎるように思われる。統計そのものの評価よりも、事前予想との乖離に大きく反応する傾向が強い。今回のCPI統計は、確かに事前予想を下回ったが、CPI全体では前年同月比+7.7%、コアCPIは同+6.3%と依然としてかなり高い水準だ。しかも、それが顕著に低下する傾向は未だ見られていない。

金融市場はこの統計がFRBの政策姿勢に大きな影響を与えると考えるが、FRBがより重視するのはPCE(個人消費支出)デフレータである。そして、変動の激しい単月の統計で政策を決めることはあり得ない。

0.25%までの利上げ幅縮小はまだ見えていない

10月のCPIでは、当初物価高騰を主導した新車の価格上昇率が着実に低下し、また中古車の価格は、下落率を加速させている。衣料品も下落基調にある。消費者物価上昇率は、緩やかに低下トレンドにあると考えられる。

他方、家賃の上昇率は加速傾向にある。家賃は物価全体に遅れる傾向があり、さらに、消費者物価指数の3分の1と大きなウエイトを持っている。家賃が遅れて上昇を始めたことは、消費者物価上昇率の低下も緩やかにしか進まない可能性が高いことを示しているのではないか。こうした中でFRBが、物価高に対する警戒を大きく緩めるためには、経済指標がかなり弱くなることが必要だが、それはまだ見られていない。

FRBは12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を0.75%から0.5%に縮小させる可能性が高まっている。しかし、0.5%でもまだ大幅であり、0.25%まで縮小しないと、FRBの利上げ姿勢が大きく変わったとは言えないだろう。

FRB内部では、大幅な利上げに慎重な発言も聞かれ始めた一方、物価高騰を抑え込むために大幅な利上げを続けることを主張する声も少なくなく、意見は分かれている。

再び1ドル150円台の可能性は残るが歴史的円安は終盤戦に

FRBの利上げ幅が0.25%まで縮小することが強く意識された時点で、金融市場は大きな転換点を迎え、米国の長期金利の上昇及びドル高傾向は一巡すると見込まれるが、現状ではまだそこには至っていない。その転換点に至る時期は、12月のFOMC後から来年1-3月期とみておきたい。

ドル円レートは足元で1ドル142円台である。FRBの政策姿勢の大きな変化がまだ確認されないなか、今春以来のドル高円安の流れはまだ終わったとは言えないだろう。再びFRBの利上げ観測が強まることで、150円台まで再び円安が進む可能性は残されている。

ただし、それを超えて160円台に突入する可能性は小さくなったのではないか。今年の日本経済、金融市場を大きく特徴づけた歴史的円安も、いよいよ終盤戦に入ってきた。

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