フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 予想外の円高進行:円安の終わりの始まりか

予想外の円高進行:円安の終わりの始まりか

2022/11/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

円は1週間で2008年以来の大幅上昇

11月10日に発表された米国10月CPI(消費者物価指数)が事前予想と比べて下振れたことから、金融市場では先行きの米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ見通しが下方修正された。それを反映して、同日の米国市場でドル円レートは、1ドル146円台前半から140円台前半へと一時6円近くも円安修正が進んだ(コラム「繰り返された米国CPIショックと円安修正の持続性」、2022年11月11日)。

さらに11日の欧米市場では、円は対ドルでさらに急伸し、一時は138円台前半と、8月31日以来の高値を付けている。先週は5%余りもドル安・円高が進行し、円は1週間で2008年以来の大幅上昇を記録したのである。

10月CPIに対する金融市場の反応は過剰であろう。今回のCPI統計は確かに事前予想を下回ったが、CPI全体では前年同月比+7.7%、コアCPIは同+6.3%と依然としてかなり高い水準であり、それが顕著に低下する傾向は未だ見られていない。他方、FRBがより重視するのはPCE(個人消費支出)デフレータであり、また、変動の激しい単月の経済統計で政策を決めることは考えにくい。

ドル円は金利差で決まっていることを改めて確認

足元での為替の変動で注目したいのは、ドル円レートは米国の金融政策の見通しの変化による影響を大きく受けていることが改めて確認された、という点である。今年3月以降、歴史的な円安が進む中で、その背景には日本の国力の低下、エネルギー価格上昇による貿易・経常収支の悪化、国債・通貨への信認低下など、日本経済の構造的な問題があるとの指摘が多くなされてきた。

円安を機にこうした問題への対応を進めることは非常に良いことだ。しかし、円安進行の原因はそこにはない(コラム「円安は国力低下のせいではない」、2022年10月25日)。

多くの日本人は為替市場で起こっていることを円安の問題と認識しているが、世界全体で見ればドル独歩高の問題である。対ドルでの円安進行のうち、大半はドル高によるものだ。

主要通貨の中で円は最弱通貨であり、ドル高に加えて円安の要素も部分的にはある。しかし、それは他国のように日本銀行が金融引き締めを実施していないことによるものだろう。いずれにせよ、ドル高円安の進行は、FRBの急速な利上げとそれを受けた米国長期金利の上昇、あるいは日米長期金利差によって説明できる。

他方、「リスク回避の円高」という円の長年に及ぶ決定要因は、依然として続いていると考えられる。来年、世界経済が大きく減速し、株価下落など金融市場が不安定化すれば、円が買われやすくなる。これがFRBの利下げ観測による米国長期金利の低下が重なれば、来年には急速な円の巻き戻しが生じるのではないか。

利上げ幅縮小への期待が10月CPIに対する為替市場の過剰な反応の底流に

日本銀行の金融政策姿勢が変わらないのであれば、金利差要因で決まる傾向が強いドル円の当面の行方は、FRBの金融政策姿勢で決まることになる。

ただし、10月CPIの数字だけで、FRBの利上げ姿勢が大きく変わるとは思えない。前FRB議長のイエレン米財務長官は11日に、10月CPIを「良好な数字」と評価しつつも、一つの指標の単月データに依存し過ぎないように注意を促した。「コアインフレは想定されていたよりずっと低かったが、一方で、住居費は高い数字が続いているのも事実だ」と述べている。

他方、米ボストン連銀のコリンズ総裁は、「インフレ沈静化の仕事はまだ終わっていないが、これまでの一連の大幅利上げによって金融引き締めが行き過ぎるリスクは高まった」と、CPI統計が発表される前に受けたインタビューで指摘している。

このように、FRB内では、物価高騰に対する警戒感を大きく緩めている訳ではないものの、今までの大幅利上げの影響が遅れて表れることで、米国経済が大きく悪化してしまう「オーバーキル」のリスクを感じる向きが増えている。そのため、前回米連邦公開市場委員会(FOMC)では、先行き利上げ幅を縮小させる考えが示唆されたのである。そして金融市場は、12月のFOMCでFRBは利上げ幅を0.75%から0.5%に縮小させるとの期待を強めている。

こうした利上げ幅縮小への期待が金融市場で強まったことが、10月CPIに対する為替市場の過剰な反応の底流にあったのだろう。

「円安の終わりの始まり」

しかし、0.5%はなお大幅な利上げである。FRBの利上げ姿勢が従来と比べて明確に後退し、それを受けて米国の長期金利が明確にピークをつけるまでドル高円安の流れが転換したとは言えないだろう。

この先の経済指標によって、再びFRBの利上げ姿勢に対する金融市場の見方は変化し、ドル高円安方向に振れる余地は残されているように思われる。ドル高円安の流れが転換するには、FRBの利上げ幅が0.5%ではなく0.25%まで縮小する、との観測が高まることが必要なのではないか。0.25%がいわゆるマジックナンバーである。

それが生じるタイミングは最短で12月のFOMC後、遅くとも来年1-3月期とみておきたい。それまでの間にドル円が再び150円台に突入する可能性は残されているだろう。しかし、もはや160円台に入る可能性はかなり低下したと言えるのではないか。

歴史的な円安進行も、既に終盤戦、あるいは最終局面に入っていると考えられる。「円安の終わりの始まり」である。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ