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FTX破綻後の暗号資産業界の自浄作用は期待できるか:分散型金融(DeFi)のイノベーションを最大限活用

2022/11/15

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杜撰かつ不正な顧客の資産管理

経営破綻した暗号資産(仮想通貨)取引所大手のFTXは、暗号資産市場の信頼性を大きく損ねたが、それは同社が、明確な価値がないトークンFTTを使ってビジネスを拡大させる「錬金術」的なビジネス手法を用いていたことに加え、杜撰かつ不正な顧客の資産管理を行っていた実態が明らかになったためである(コラム「再び激震が走る暗号資産(仮想通貨)市場:大手取引所FTXの破綻懸念」、2022年11月11日、「混乱広がる暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの経営破綻:繰り返された問題」、2022年11月14日)。

同社は、顧客資産を分別管理することなく、それを不正に流用して関連投資会社アラメダ・リサーチへの融資を行っていた。さらに、暗号資産をインターネットとつながった状態の「ホットウォレット」で管理していたことが、ハッキングによる資産流出によって明らかになった。

しかしFTXの日本法人は事情が異なる。FTX Japanは法令にのっとり、暗号資産についてはインターネットと切り離された「コールドウォレット」で管理し、また、米ドルなどの法定通貨は日本の信託口座で分別管理を行っている、と説明している。

世界に先駆けて進んだ日本の暗号資産法整備

FTXトレーディング・インターナショナルは、破産申請前日の10日時点で約90億ドルの負債に対し、流動資産は9億ドルに過ぎなかったという。その後ハッキングによって、顧客が保有していた暗号資産約3億7,100万ドルが不正に流出したことも踏まえると、口座から引き出すことができなかった、いわゆる逃げ遅れた顧客の資産の相当部分は失われることになるだろう。しかし、日本法人については、事情が大きく異なるのではないか。

国内では、東京に拠点があった暗号資産取引所のマウント・ゴックスの2014年の経営破綻をきっかけに、暗号資産業界の規制が強化された。金融庁は2017年に交換業者の登録制を導入した。さらに、2021年のコインチェック事件をきっかけに、顧客と業者の資産の分別管理のほか、顧客の資産が不正アクセスで流出するのを防ぐため、インターネットから切り離した「コールドウォレット」での管理も義務づけた。今年にはステーブルコインに関わる法規制も導入されたのである。

このように、日本は他国に先駆けて法整備を進め、さらに金融庁がしっかりと業界をモニタリングしてきたことが適切であったことが、今回明らかになったのではないか。これは他国の手本ともなり、今後、世界で暗号資産業界での規制強化を推進させる原動力ともなるだろう。

新しい金融の世界を切り開いていくという高い志

ただし、規制強化だけで暗号資産業界の信頼性が回復する保証はない。業界全体の意識改革や、自らルールを生み出していくような自浄作用が必要だろう。

FTXの買収案を撤回し、FTX破綻の引き金を引いた世界最大の暗号資産取引所バイナンスはFTXについて、「ユーザーの資産を誤った方法で管理する企業は、時間とともに自由市場から排除されていくと信じている」と、破綻は当然とばかりの突き放した説明をしている。

また同社の長鵬CEO(最高経営責任者)は11月14日に、「われわれは新しい業界におり、この1週間、業界は狂乱状態に陥った」、「一定の規制を必要としており、これを適切かつ安定した方法で行う必要がある」と述べ、規制強化を受け入れる考えを示している。

他方で同氏は、「この業界には消費者を保護し、すべての人を守る役割があると思う。つまり、規制当局だけではない。規制当局にも役割はあるが、100%彼らの責任ではない」とも語り、業界としての信頼回復に向けた取り組みの重要性も説いているようだ。今後は、規制当局と業界とが協調して、信頼回復に取り組んで欲しいところだ。

ただし、顧客、業者共に通常の金融業界では得られない大きな利益を、ルールが異なる暗号資産市場で得ることを強く目指している間は、暗号資産業界から不正はなくならず、また、暗号資産が本来持つ、ブロックチェーン技術などに基づく分散型金融(DeFi)のイノベーションはいつまでも十分に生かされないのではないか。

業界が自浄作用を発揮するには、通常の金融ではできないDeFi独自のイノベーションを最大限生かし、新しい金融の世界を切り開いていく、という高い志が求められるのではないか。

(参考資料)
「暗号資産業界には明確な規制必要、バイナンスCEOが指摘」、2022年11月14日、ロイター通信
「FTX Japan、顧客資産は分別管理 自社の資産状況も公表」、2022年11月14日、ロイター通信

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