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FTX破綻で米業界主導の規制導入の流れは頓挫か:暗号資産は商品か証券か

2022/11/16

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「暗号資産は商品か(有価)証券か」で変わる規制の姿

FTXの経営破綻をきっかけに、暗号資産(仮想通貨)に対する規制強化の議論が改めて高まっている。

米連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長(金融規制担当)は11月15日に、議会上院の銀行住宅都市委員会で証言し、暗号資産の取引に「効果的な監視が必要だ」とした。現時点では、FTXの経営破綻が金融システムに与える打撃は限定的だが、それは時間の経過とともに変化する可能性があるとした。さらに、「イノベーションを阻害したくないが、規制が緩かったり遅れたりすると、リスクテイクや底辺への競争を促進し、消費者や企業、経済を危険にさらし、新たな製品やサービスに対する消費者や投資家の信用を失墜させることになる」と警鐘を鳴らした。そのうえで暗号資産関連事業者に、他の金融サービス事業者と同じような規制を課すのが必要、との認識を表明している。

米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は9日、FTXの経営破綻は個社の要因にとどまらず、業界全体のリスクから生じたものだと説明している。FTXの例が示すように、暗号資産業界では同じ会社が暗号資産の取引、マーケットメイク、預金受け入れ、トークン発行など、様々な役割を担っていることがリスクを高めている。仮に、FTXが暗号資産の取引(交換)業務だけを行っていれば、ここまで成長することはなかった一方、破綻することもなかっただろう。

そのうえでゲンスラー委員長は、暗号資産業者が事業者登録して証券関連法の適用対象になることの重要性を改めて強調した。

バイデン大統領は今春、暗号資産に関する包括的な規制を視野に、各政府機関に対して、暗号資産・ブロックチェーンに関する問題点を洗い出すように命じた。これを受けて、暗号資産に関する規制強化の動きが活性化されたのである。

米国内で長らく議論されてきたのは、「暗号資産は商品か(有価)証券か」という点だ。どちらに分類されるかで、規制の姿が大きく変わってくる。商品よりも証券とされ、証券取引法が適用される場合には、概してより厳しい規制となる。ゲンスラー委員長は、証券取引法による規制を主張してきた。米国では、暗号資産を巡り、規制当局間の縄張り争いが長らく繰り広げられてきたのである。

「暗号資産は商品」という考えに基づく規制は頓挫か

FTXの経営破綻が起こるまでは、議会では「暗号資産は商品」という考えの下で、規制導入の議論が進んでいた。それは、上院農業委員会でまとめていた、超党派での暗号資産関連法案だ。

同法案は8月に米商品先物取引委員会(CFTC)の意見を盛り込み、民主・共和両党の農業委員会のトップが提出したものだ。仮想通貨の時価総額で首位のビットコインと2位のイーサリウムをCFTCの監督下に置くことを想定していた。

同法案が農業委員会で策定されているのは、「暗号資産は商品」という考えに基づいているためとみられる。これに対してゲンスラー委員長は、過去90年にわたり証券市場を律してきた既存の法規制を損なうとして、農業委員会の法案を強く批判していた。上院農業委員会は10日、超党派の暗号資産関連法案を今週に審議するとしていたが、FTXの経営破綻を受けて審議日程を撤回した。

FTXの創業者バンクマンフリード氏が働きかけた規制導入

「暗号資産は商品」という考えに基づく比較的緩い暗号資産の規制に議会が傾いていた背景には、暗号資産業界によるロビイスト活動の影響が大きいと考えられる。「暗号資産は(有価)証券」との考えの下、証券関連法が適用されれば、厳しい規制によって暗号資産業界の収益は大きく損なわれる可能性がある。そのため、暗号資産業界は先手を打って比較的緩い暗号資産の規制の導入を促したのである。CFTCであれば、SECと比べて規模が小さく影響力も小さい。

他方、一定程度の規制の導入は、暗号資産業界の信頼性を高めることにつながり、より多くの顧客を呼び込むことで、むしろ利益の拡大につながるという読みもあったのだろう。

そうした業界のロビイストの中心人物だったのが、実は、FTXの創業者でCEOのバンクマンフリード氏であった。バンクマンフリード氏は2021年12月に米議会で開かれた暗号資産に関する公聴会に出席し、その後はワシントンを頻繁に訪れて、規制当局者らと会談するようになった。今回の中間選挙においては3,980万ドルを寄付した。

フィナンシャルタイムズ紙によると、バンクマンフリード氏と関連会社による政治献金額は、2021年、2022年の合計で7,200万ドルに達したという。オープンシークレッツ・ドット・オーグによると、同氏は国内で6番目の政治献金者であり、著名投資家ジョージ・ソロス氏に次ぐ民主党の資金提供者だという。

バンクマンフリード氏が作り出した、暗号資産業界にとって都合の良い規制導入の流れを、FTXの経営破綻によって自ら打ち砕いてしまった感がある。

規制導入とともに分散型金融(DeFi)の育成が責務に

今後、暗号資産関連法案が抜本的に見直され、ビットコインとイーサリウムがSECの管轄下に置かれるようになると、暗号資産事業者は証券ブローカーとしての新たな登録が必要になるなど、様々な厳しい金融規制がかかってくる。その分、取引コストが増えれば、投資対象としての暗号資産の魅力が減じることになり取引は縮小するだろう。暗号資産市場は、今後の米国での規制の議論にかなり神経質になるだろう。

仮に、「暗号資産は(有価)証券」との考えの下、証券関連法が適用され、厳しい規制が導入されれば、暗号資産市場が一度大きく縮小するだろう。その後に、厳しい法規制の下で、分散型金融(DeFi)というイノベーションを潰さずにいかに世の中の役に立つように育てていくかが、規制当局の重要な責務となる。

(参考資料)
"How FTX's Sam Bankman-Fried Went From Crypto Golden Boy to Villain(FTX創業者、救世主から悪役への顛末)", Wall Street Journal, November 14, 2022
"FTX Collapse Sets Back Crypto Agenda in Washington(FTX崩壊で仮想通貨規制が頓挫、強化論に勢い)", Wall Street Journal, November 15, 2022
「暗号資産の「監視が必要」―FRB副議長が議会証言」、2022年11月16日、共同通信ニュース
「バーFRB副議長、暗号資産による金融システムへの影響を懸念」、2022年11月15日、ロイター通信ニュース
「DJ-仮想通貨の混乱は金融システムへの警鐘=FRB副議長」、2022年11月15日、ダウ・ジョーンズ債券・為替情報
「仮想通貨は有価証券か 米国で線引き論争、序列に影響も」、2022年11月10日、日本経済新聞電子版

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