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FTXの経営破綻は暗号資産全体の信頼低下と資金流出に

2022/11/18

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FTXの経営破綻で暗号資産市場での選別が強まったのか

FTXの経営破綻は、暗号資産市場全体の信頼性を損ね、暗号資産市場全体からの大量の資金流出を引き起こしている。一口に暗号資産といっても多様であり、法定通貨に結び付くことで価値を安定させているテザーのような「ステーブルコイン」もあれば、価値の裏づけがないビットコイン、イーサリアムもある。また、発行された暗号資産の取引が特定組織によって管理される「中央集権型」もあれば、「分散型(DeFi)」もある。

今回問題となったFTXが発行したトークンFTTは、明確な価値の裏づけがない暗号資産であり、それは「中央集権型」で管理されていた。そのため、FTXの破綻をきっかけに暗号資産市場で選別が強まり、「ステーブルコイン」、「DeFi」へと資金が移動していってもおかしくないところだ。しかし実際にはそのようにはなっていない。

日本経済新聞(情報サイトのコインマーケットキャップ)によれば、10月末に694億ドルあったテザーの時価総額は、11月16日時点では660億ドルと、約5%減少した。「ステーブルコイン」は、暗号資産市場投資の待機資金の受け皿の役割を担っている。法定通貨と連動した「ステーブルコイン」はボラティリティが低く、投資妙味を欠く。そのため投資家は、現金(法定通貨)を「ステーブルコイン」に替えてウォレットに置き、タイミングを見計らって価格変動が大きい暗号資産に投資するのである。

ステーブルコイン、分散型暗号資産からも資金流出

FTXの経営破綻が、価格変動の激しい暗号資産の信頼を損ねただけなのであれば、資金は暗号資産業界の安全資産とも言える「ステーブルコイン」に移るだけのはずだ。しかし実際には、「ステーブルコイン」のテザーからも資金流出が生じている。「ステーブルコイン」の信頼性にも疑問が広がっているためだ。

今年5月に「ステーブルコイン」の「USテラ」が暴落した際に、「ステーブルコイン」の中でもアルゴリズムで価値の安定が確保されていた「USテラ」とは異なり、裏付け資産を持つテザーは価格の大幅下落を免れた。しかし、テザーについても、情報開示が不十分で、十分な裏付け資産を持っていないのではないかとの懸念から、価格は一定程度下落したのである。今回FTXの経営破綻によって、そうした問題が再び蒸し返され、テザーからの資金流出につながっているのだろう。

FTXの経営破綻をきっかけに、投資家は他の中央集権型取引所から資金を引き揚げている。しかし、DeFiで管理される暗号資産からも資金は逃げているのである。

MakerDAO(メーカーダオ)、Aave(アーベ)、Curve(カーブ)などといったDeFiプロトコルは、特定の条件が満たされると取引が自動的に実行される「スマート・コントラクト」で成り立っている。FTXの関連投資会社であるアラメダも、アーベでテザーを借り、カーブでそれを売っていた。

DeFiで管理される暗号資産の時価総額は現在430億ドルで、3月末時点の水準を既に74%下回っている。価格の下落に加えて、資金の引き出しが起きているのである。イーサリウムでは、時価総額の減少率が30%にも達している。

FTXのように中央集権的ではないDeFiプロトコルで取引される暗号資産は、相対的に透明性が高いはずであるが、それでも資金流出は起こっているのである。

暗号資産市場はすべてが密接に結びついた一つのエコシステム

ステーブルコインとそれ以外の価格変動が激しい暗号資産、さらにDeFiで管理される暗号資産と中央集権型暗号資産は、まさに一体となって成長してきた。暗号資産のすべてがお互いに密接に結びついたエコシステムであり、そこで巨大な信用リスクである暗号資産が膨張を続けてきたのである。投資家もすべてが一体のものと認識しているため、暗号資産市場内での選別のような動きは起こりにくいのだろう。一度信頼が失われれば、暗号資産全体から資金が大量に流出するのである。

さらに、今後の暗号資産や取引所の規制についても、「ステーブルコイン」とそれ以外の価格変動が激しい暗号資産、DeFiで管理される暗号資産と中央集権型暗号資産は、区別されずにすべて一体で進められることが見込まれる。

「USテラ」の暴落後、規制の対象は「ステーブルコイン」に集中していた。日本では、「ステーブルコイン」の中でもアルゴリズムではなく、裏付け資産を持つものを対象とする新たな規制が、今年6月に世界に先駆けて導入された。

しかし、FTXの経営破綻をきっかけに、規制の対象は一気に暗号資産市場全体に及ぶようになるだろう。そうなれば、暗号資産のタイプに関わらず、すべての暗号資産に厳しい規制が適用され、一様に投資収益の期待が低下することになる。

足元でみられる暗号資産市場全体からの資金流出の背景には、このような事情もあるのだろう。

(参考資料)
"FTX Debacle Could Drag Down Decentralized Crypto Too(FTX破綻、分散型暗号資産にも打撃か)", Wall Street Journal, November 16, 2022
「ドル連動の仮想通貨に不信の目、FTX破綻余波続く」、2022年11月16日、日本経済新聞電子版
「仮想通貨の引き出し加速 FTX破綻で資産保全危ぶむ」、2022年11月16日、日本経済新聞電子版

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