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暗号資産ブームを終焉させたFTX破綻と米国利上げ

2022/11/18

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FTXの経営危機でビットコインは暗号資産ブーム前の水準まで下落

FTXの経営危機は、同社の問題にとどまらず、暗号資産全体を大きく揺るがすきっかけとなった。それが暗号資産の信頼性を大きく損ねたことに加えて、この先、暗号資産全体に対して規制が一気に強化されていき、収益期待が大幅に下がるとの見方が投資家の間に広がったためである(コラム「FTXの経営破綻は暗号資産全体の信頼低下と資金流出に」、2022年11月18日)。

代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格は、11月7日の高値から11月9日の安値まで、わずか2日の間に約25%も下落した。足元ではやや小康状態を保っているが、その水準は1万7,000ドル程度と、ちょうど2年前の2020年11月頃の水準である。この時期は、暗号資産ブームが始まる直前であり、その水準までビットコインの価格が下落したということは、暗号資産ブームの終焉を象徴的に示しているのだろう。

新型コロナウイルス問題が暗号資産ブームを生んだ

2020年年末に暗号資産ブームが始まるきっかけとなったのは、その年の初めに本格化した新型コロナウイルス問題だ。感染リスクを避けるために、個人は巣籠り傾向を強め、空いた時間で株式投資を活発化させた。米国のロビンフッターが代表格であるが、彼らは株式と同時に暗号資産投資も拡大させるようになっていったのである。

さらに、2020年3月には、感染問題で悪化した経済や金融市場環境を安定化させるために、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を一気に0%程度まで引き下げる、大幅な金融緩和を行った。この結果生じた超低金利環境が、暗号資産市場には強い追い風となったのである。超低金利の下では、金融資産に投資した場合の期待収益率は大きく低下し、またボラティリティ(価格変動率)も低下するため、なかなか大きな収益機会は得られなくなる。そこで、リスクを覚悟のうえで、ボラティリティが高い暗号資産投資を拡大させる向きが増えたのである。

この2つの経路を通じて、新型コロナウイルス問題が暗号資産ブームを生み出したという側面がある。

米国利上げが暗号資産ブーム終焉の背景に

ところが、新型コロナウイルス問題が緩和され、個人の巣籠り傾向は次第に弱まっていった。さらに、今年3月にFRBが物価高対応のために利上げ(政策金利の引き上げ)を始めた。政策金利は足元で4%程度まで一気に引き上げられている。この結果、米国の1年物短期国債などは4%台後半まで上昇している。

FTXは、顧客が預け入れた暗号資産に年率8%程度の利息を保証していた。しかし、もはや短期国債など安全な資産で年間4%台後半の収益が確実に得られる金利環境となったのである。そのため、暗号資産から金融資産に資金の移動が起き始めた。

金融市場の混乱の先駆けか

このような金融環境の大きな変化が背景にあったがゆえに、今年5月の「USテラ」の暴落や今回のFTXの破綻をきっかけに、暗号資産ブームは一気に終焉を迎えることになった。

ただし、金利上昇で打撃を受けるのは、暗号資産だけではない。低金利下で資金を集め、価格が上昇していたハイイールド債や証券化商品など高リスク資産にも大きな逆風となるはずだ。現状では、暗号資産市場ほどの混乱は見られていないが、今後、金利急騰の影響によって米国経済が悪化し、企業の信用リスクが高まれば、金利上昇と相まって、こうした高リスク資産も大きな価格調整に見舞われる可能性があるだろう。

そうした高リスク資産を多く保有しているのは、ヘッジファンド、投資信託、ETF(上場型投信)などのファンドだ。高リスク資産の価格が下落を始めれば、ファンドの顧客は資金を引き揚げ始め、それに応えるために、ファンドは手持ちの多くの金融資産を投げ売りせざるを得なくなる。それは、金融市場全体の大きな混乱に繋がりやすいだろう。

こうした点から、今回のFTXの破綻でより決定的となった暗号資産ブームの終焉は、今後引き起こされる可能性がある金融市場全体の混乱の先駆けとなったのではないか。

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