FTX破綻で顧客は資産を取り戻すことができるか?:法整備が暗号資産の信頼回復の第一歩
FTXのずさんな経営実態が明らかに
FTXのあまりにもずさんな経営実態が次々と明らかになっている。同社が連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請したことに伴い、新たに最高経営責任者(CEO)に就任したのがジョン・J ・レイ氏だ。同氏は、2001年に破綻した米エネルギー会社エンロンの処理を統括するなど、経験豊かな企業再建の専門家である。
同氏が11月17日に裁判所に提出した資料によると、FTXでは資金流用や不適切な会計処理が横行しており、完全な企業統治不全に陥っていた、と報告されている。レイ氏は「私のキャリアにおいて、これほどまでの企業統治の完全な失敗、信頼できる財務情報の欠如を見たことはない」とも説明している。そうした経営状況は、FTXが会社再建のために新規資金を調達するのを困難にし、再建までの道のりを険しいものとするだろう。
前CEOのバンクマンフリード氏は、自身が所有する投資会社「アラメダ・リサーチ」に対する融資に、FTXの顧客資産100億ドルをひそかに流用した。FTXの新経営陣は、暗号資産7億4,000万ドルの所在を特定して保全したが、それは顧客資産のごく一部に過ぎない。レイ氏によると、FTXは顧客からの預かり資産をバランスシート上の資産に載せていなかったという。
また、FTXは破産法適用申請の日に正式な承認なく引き出された3億7,200万ドルなどについても新経営陣は回収を試みている。
複雑に絡み合うFTXの関連事業体間の資金の流れ
また、裁判所に提出した資料によると、アラメダ・リサーチの関連会社はFTXの関連会社に23億ドルを融資し、前CEOのバンクマンフリード氏と共同創業者の2人が、アラメダ・リサーチから累計で16億ドルの融資を受けていた。複雑に絡み合うFTXの関連企業間での資金の流れは、その全容解明に時間がかかりそうだ。
レイ氏は、FTXの経営が「経験の浅い、極めて少数」の人々に委ねられていたと指摘している。FTXグループの多くの企業では、取締役会を一度も開いたことがなかったという。またレイ氏が確認した財務報告書のほとんどは監査を受けておらず、監査済みのものについても、メタバース「ディセントラランド」上の会計事務所が手掛けたために「かなりの懸念」があるという。
さらに、支払い請求の承認がチャットルーム上で絵文字で行われ、またFTXの資金を社員やアドバイザーらが住宅購入などに私的に流用する、などといった問題も次々に露呈されている。
暗号通貨は顧客のものか、FTXのものか
チャプター11の適用申請を受けて、顧客がFTXのプラットフォームに保有していた暗号資産を、最終的にどの程度取り戻すことができるかは、投資家が今後の暗号資産投資のリスクを考えるうえで非常に重要となるだろう。
銀行預金であれば、仮に銀行が破綻しても、顧客は一定程度を取り戻すことができる。銀行預金は連邦預金保険公社(FDIC)の保護対象であるためだ。しかし、暗号資産の場合には、そのような規定はない。そのため、取引所が破綻すると、連邦破産法手続きに則って顧客は資産の回収を図るしかなくなる。
チャプター11の下では、会社からの資産回収は停止される。そのうえで、顧客が債権者としてどの程度の資産を取り戻すことができるかについては、裁判所の決定を待たねばならない。
その際に重要となるのは、暗号通貨が顧客のものなのか、FTXの所有物なのかについての裁判所の判断である。それについてはまだ判例がない。
最近の暗号資産を巡る破綻のケースでは、セルシウス・ネットワークとボイジャー・デジタルという暗号資産貸出業者の2社は、それぞれのプラットフォーム上の暗号資産はすべて会社側の所有物であると主張した。最終判断はまだ示されていないが、裁判所側は現状のところでは、それぞれの会社の言い分を認めている。
規制の導入も含め新たに法整備が進むことが暗号資産の信頼回復の第一歩に
仮に暗号資産が会社側の所有物と認められると、それは会社の他の資産と一緒にまとめられ、最終的にすべての債権者向けに分割されることになる。その場合、顧客は弁済順位が比較的低い無担保請求権を持つ、と見なされることになる。他方、暗号資産が顧客の所有物と認められれば、より多くの資産を回収できる見込みが出てくるのである。
残された問題には、FTXの破綻前に顧客が引き出した暗号資産をどのように扱うか、という点もある。これについては、裁判所がFTXに対して、引き出された分の返還請求を認める可能性があるだろう。FTXの破綻前に資産を引き出した顧客と、資産を引き出すことができなかった、いわゆる逃げ遅れた顧客とを同等の扱いとするためだ。
取引所など暗号資産関連業者が破綻した場合の、顧客資産に関する法的処理については全く制度が確立されていないのが現状だ。それが、暗号資産市場や投資に対する新たな不信感を投資家の間に産んでいる。
FTX破綻処理の過程で、合理的な処理のプロセスが選択され、それが今後の判例となること、あるいは事業者に対する新たな規制の導入も含めて法整備が進んでいくことが、暗号資産に関する投資家の信頼回復の第一歩となるのではないか。
(参考資料)
「情報BOX:FTXの破産法申請、予想される今後の展開」、2022年11月18日、ロイター通信
「FTX、資金流用・会計不備で「完全な統治不全」 新CEOが報告」、2022年11月17日、ロイター通信
「アラメダ、FTX前CEOらに5740億円融資-幹部や関連会社にも資金」、2022年11月18日、ブルームバーグ
「FTX「前代未聞の経営」 裁判所資料で新CEOが批判 記録不十分、資金流用疑い」、2022年11月19日、日本経済新聞
執筆者情報
新着コンテンツ
-
2024/12/13
消費関連の弱さが目立つ日銀短観(12月調査)と懸念される先行きのトランプ関税の影響:日本銀行の早期追加利上げは揺るがず
木内登英のGlobal Economy & Policy Insight
-
2024/12/13
井上哲也のReview on Central Banking
-
2024/12/13
ECBのラガルド総裁の記者会見-Changing commitment
井上哲也のReview on Central Banking