フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 広がるインフレ手当の支給:支給総額は666億円

広がるインフレ手当の支給:支給総額は666億円

2022/11/21

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

インフレ手当に取り組む企業は4社に1社

物価高が家計を圧迫する状況が続く中、従業員に対して物価高に配慮した特別な手当て、いわゆる「インフレ手当」を支給する企業が増えている。帝国データバンクが11月17日に公表した調査結果によると、小規模企業を含む調査対象企業のうち、インフレ手当を既に支給した企業は全体の6.6%となった。また、支給を予定している企業の割合は5.7%、検討中の企業は14.1%となった。合計すれば、26.4%と全体の4社に1社がインフレ手当に取り組んでいることになる。

インフレ手当に取り組む企業のうち、「一時金」で支給と回答した企業は66.6%、一定期間月額給与に上乗せする「月額手当」と回答した企業は36.2%であった(複数回答)。

支給総額は666.3億円、個人消費押し上げ効果は166.6億円

一時金の平均支給額は5万3,700円である。経済産業省の「2021年企業活動基本調査速報」によると、2021年3月時点での総従業員数は、推定で1,879万8,247人である。インフレ手当を月額手当として複数月にわたって支給する企業についても、その総額の平均が一時金によるインフレ手当の支給額の平均と等しくなるとしよう。その場合、インフレ手当の支給総額の推定値は、一時金の平均支給額の5万3,700円と総従業員数の1,879万8,247人を掛け合わせて1兆95億円となる。

実際にインフレ手当を既に支給した企業は全体の6.6%であることから、インフレ手当の支給総額は666.3億円となる。このうち個人消費に回るのは25%程度と推定されることから、個人消費押し上げ効果は166.6億円である。

また、インフレ手当を支給する予定、あるいは検討している企業を含めたインフレ手当に取り組む企業は全体の26.4%であることから、それがすべてインフレ手当を支給すると仮定する場合には、インフレ手当の支給総額は、2,665.1億円、個人消費押し上げ効果は666.3億円である。これは、年間名目GDPの0.01%に相当する。

企業は固定給の引き上げに引き続き慎重

このように、インフレ手当を支給する企業は増えてきているが、実際の支給が個人消費に与える影響は比較的軽微であり、足元で前年比4%に迫る消費者物価(除く生鮮食品)の上昇による所得目減り分を補う効果は小さい。

先行きの経済情勢に対する不透明感が強まる中、企業はベアの引き上げには慎重である。日本では、ベアは一度引き上げれば、引き下げることが難しく、長期にわたって企業にとっての固定費となり、収益を圧迫する可能性があるためだ。

今年の物価高を反映して、来年の春闘ではベアは1%程度まで引き上げられることが見込まれるが、足元の物価上昇に比べればかなり低い水準である。また、ベアの上振れも1年限りのものとなろう(コラム「消費者物価4%が視野に:賃金と物価の好循環は起こらない(10月消費者物価)」、2022年11月18日)。

インフレ手当支給が物価高の痛みを和らげる効果は小さい

企業は、自社のレピュテーションを意識して、物価高という従業員にとっての逆風に配慮する姿勢を見せる一方で、長期にわたって企業の収益環境に重しとならないように考える。その結果、企業は固定給の引き上げに代わってボーナスやインフレ手当といった一時金の支給に前向きになっていると考えられる。

ただし従業員にとっても、一時的な所得は、長期化する恐れがある物価高への懸念を和らげる大きな助けとならない。ベアのような恒常的な所得の引き上げと比べて、一時金による所得増加は、個人消費に回る割合が半分程度にとどまると考えられる。そのため、インフレ手当支給の広がりが、物価高による消費者の痛みを和らげる効果は小さいのである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn