フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 FTX破綻と暗号資産市場での取り付け騒ぎの特性

FTX破綻と暗号資産市場での取り付け騒ぎの特性

2022/11/22

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

暗号資産市場の「取り付け騒ぎ(バンクラン)」

経営破綻した暗号資産(仮想通貨)取引所のFTXは、債権者リストの上位50位までに対して合計で31億ドルの債務を抱えていることが新たな裁判所資料で明らかになった。このリストにある債権者はすべて、FTXのプラットフォーム上で暗号資産を保有するなどしていたFTXの顧客である。そのうち最大の顧客の債権額は2億2,600万ドルに及んでいる。債権者の数は合計で100万を超える可能性が考えられている。

このニュースを受けて、個人投資家が巨額の暗号資産を失うリスクが改めて意識されたことから、暗号資産市場からの資金流出が強まり、FTX破綻後に小康状態にあったビットコインの価格は再び下落傾向を示して、足元では1万6,000ドルを割り込んでいる。2020年年末以来の最安値の更新も視野に入ってきた。

FTX破綻の背景にあるのは、適切なガバナンスの欠如、正確な財務情報の開示の欠如、顧客資金の無断流用、トークンを用いた錬金術的なリスクの高いビジネスの拡大、などであるが、破綻の直接的な引き金となったのは、顧客がFTXのプラットフォーム上に持っていた暗号資産を一気に引き出そうとしたことだ。その引き出しに応じることができる十分な準備をFTXは持っていなかったのである。これは、銀行に例えれば「取り付け騒ぎ(バンクラン)」である。

実は透明性が高い暗号資産市場

暗号資産市場での取り付け騒ぎと銀行の取り付け騒ぎとの大きな違いは、他の顧客の動向を把握できるかどうかである。銀行の取り付け騒ぎの場合には、過去には多くの顧客が銀行の店舗に押しかけて銀行預金の引き出しを行員に迫り、それが多くの人の目に触れた。しかし現状では、ネットやATMを通じた預金引き出しによって、他の顧客の預金引き出し行動は見えなくなっている。

ところが、暗号資産では一般的なブロックチェーンなど分散型元帳技術を用いた取引、いわゆる分散型金融(DeFi)のもとでは、他の顧客が資金を動かしたことが確認できる。取引情報はすべての参加者が確認できる状態に置かれているのである。

誰が取引しているのかについては必ずしも明確ではないが、暗号資産がどこからどこに移動したのかは確認できる。アドレスと名前を照合できれば、取引所間、暗号資産間の資金の動きを詳細に把握することが可能である。

透明性の高さが裏目に

一般には、「暗号資産市場は非常に透明性が低い」との見方が、今回のFTXの破綻によって一層強まったと考えられる。しかし実際には、暗号資産市場で投資家は、資産の流れや価格の変化に関する有益な情報を得ることができ、その点では透明性が高い市場と言えるだろう。銀行預金であればそうした動きは銀行と預金者でなければ分からず、他の預金者はそれを知ることはできない。

このように、従来型の金融システムよりも暗号資産市場の方が透明性が高いという側面がある。しかし、それが災いしたのがFTXの破綻ではなかったか。

FTXの財務に対する不信感が高まる中、ブロックチェーンのデータをウォッチする投資家らは、FTXに関連するウォレットからの資産引き出しなどの情報を監視し、その情報を随時ツイートしていたのである。それを通じて、投資家が他の投資家の資産引き出しの動きを察知して、資産引き出しの動きが一気に広がっていった。

バーナンキ元連邦準備制度理事会(FRB)議長らとともに2022年のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のダグラス・ダイヤモンド教授によると、銀行の取り付け騒ぎをあおる原因の一つは、他の人々が預金の引き出しに走るのではないかとの警戒心であるという。

FTXのウォレットからの資産の移動についての情報をきっかけにして、多くの個人投資家が資産を引き出す暗号資産の取り付け騒ぎが今回は起きた可能性がある。それは、資産の流れについての透明性が高い暗号資産市場の特性が関係していたのである。

銀行の取り付け騒ぎの研究と共に、暗号資産市場の取り付け騒ぎの発生のメカニズムについても今後は経済学の研究対象となっていくのではないか。

DeFiの純化が暗号資産市場の復活のきっかけか

他方、暗号資産市場の透明性については、FTXのような取引所が、顧客が暗号資産の引き出しに応じることができる十分な準備金を持っているかどうかについて情報を開示すべき、との意見がFTXの破綻後ににわかに高まっている。そうした情報が開示されれば、取引所のウォレットから資産を引きだせなくなるとの不安に駆られて、引き出しの動きが加速し、それが他の投資家にも一気に波及するような形で取り付け騒ぎに発展するリスクを減らすことができるかもしれない。

しかしその場合でも、その準備金が借り入れの担保となっている可能性などが排除できず、取り付け騒ぎ発生の防止に十分に役立たない可能性もあるだろう。

透明性をさらに高め、取り付け騒ぎのリスクを減らして暗号資産市場の信頼性と安全性を高めるには、FTXのような中央集権型取引所から、特定の条件が満たされると取引が自動的に実行される「スマート・コントラクト」で成り立つDeFiプロトコルへと移行していくことも検討されるべきだろう。暗号資産市場がよりDeFiに純化していく、というのが暗号資産市場の復活のきっかけとなるのかもしれない。

(参考資料)
"FTX Owes Its 50 Biggest Unsecured Creditors More Than $3 Billion", Bloomberg, November 20, 2022
"Crypto's Transparency May Be Part of the Problem Right Now(暗号資産市場の透明性、問題増幅の一因にも)", Wall Street Journal, November 21, 2022

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ