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年明けに再開される「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は3月末までで2,460億円:出口戦略も重要に

2022/11/28

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「全国旅行支援」は年明けに再開

10月11日に開始された新たな観光需要喚起策「全国旅行支援」は、12月27日宿泊分までで終了となる。感染拡大のリスクに配慮して、人の移動が激しくなる年末年始の時期の前に制度を終了させるのである。

他方、斉藤鉄夫国土交通相は11月25日の閣議後記者会見で、「全国旅行支援」を年末に一度休止した後、年明け以降も継続すると発表した。補助金による割引率は、年内には旅行代金の40%であるが、年明けにはこれを20%へと引き下げる。上限は、鉄道、バス、タクシー・ハイヤー、航空、フェリーなど交通手段とセットになった交通付旅行商品では一人一泊当たり8,000円を5,000円に、それ以外は日帰り旅行を含め5,000円を3,000円にそれぞれ引き下げる。

あわせて、行き先の都道府県内の土産物店などで使えるクーポン券については、1人1泊あたり平日3,000円を2,000円に引き下げ、休日は1,000円に据え置く。

年明けの実質的な割引率は15.1%で年内の半分に

以下では、年明けの「全国旅行支援」の経済効果を試算してみたい。事業期間は、来年1月10日から年度末の3月31日までの81日間と仮定する。

観光省「旅行・観光消費動向調査(2021年)」によると、日帰り旅行の一人一回当たりの平均旅行支出額は17,328円だ。年明け後の「全国旅行支援」では日帰り旅行では3,000円までが割引適用の上限となる。さらに、これに1,714円(平日2,000円、休日1,000円を一週間の曜日日数で案分)分のクーポンが付与されることを考慮すると、実質的な割引率は13.4%と計算される。

他方、宿泊旅行については、一人一回当たりの平均旅行支出額は49,323円である。一日当たりの平均支出額を仮に日帰り旅行と同じとすれば、平均宿泊数は2.8日となる計算だ。さらに支援の上限が5,000円、また1,714円(平日2,000円、休日1,000円を一週間の曜日日数で案分)分のクーポンが付与されることを考慮すると、実質的な割引率は15.7%となる。

旅行全体での平均割引率は15.1%となる(図表)。年内の「全国旅行支援」での平均割引率は30.8%と推定されたことから、年明け後の割引率はその半分程度にまで引き下げられる計算だ(コラム「「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は4,464億円」、2022年10月11日)。

図表 年明け後再開される全国旅行支援による割引率の推計

年明けの旅行支出押し上げ効果は2,462億円。年内分と合わせて6,926億円

ところで、内閣府の分析によると 、サービス消費の価格弾性値は-0.8である。これは、価格が1%低下すると実質サービス消費が0.8%増加する傾向があることを意味する。「全国旅行支援」制度のもとでは、上記の計算のように、旅行費用が15.1%引き下げられる。これは、旅行支出を12.08%(15.1%×0.8)増加させる。

観光省「旅行・観光消費動向調査によれば、2021年の年間旅行支出増額は9兆1,835億円である。「全国旅行支援」制度によってこの支出が12.08%増加するとすれば、その金額は年間1兆1,094億円となる。

年明け後の「全国旅行支援」制度が実質的81日間続くとすれば、その間に増加する旅行支出額は2,462億円(年間名目GDPの0.05%程度)と推定される。これは、年内の「全国旅行支援」による旅行支出押し上げ効果の推定値4,464億円の55%程度となる(コラム「「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は4,464億円」、2022年10月11日)。

年内実施分と来年実施分を合計すると、旅行支出(消費)押し上げ効果は6,926億円(年間名目GDPの0.13%程度)となる。

感染状況に応じた柔軟な制度の見直しと出口戦略が重要に

国民の間で新型コロナウイルスの感染に対する警戒感が徐々に薄れる中、国内旅行も明らかに回復傾向にある。また水際対策の緩和によって、海外旅行客も急速に増えてきている。その一方で、感染再拡大のリスクはまだ相応に残されている。水際対策緩和が感染リスクに与える影響についても、まだ慎重に見極める必要があるだろう。そのような中で、財政資金を用いて国内旅行を敢えて支援する必要が本当にあるかについては疑問も残るところだ。

ただし、年末年始の時期に「全国旅行支援」を停止することは評価できる。2020年の「Go Toトラベル」は感染拡大を助長しているとの批判を浴びて、事実上頓挫してしまった。過去2年間は、人の移動が活発になる年末年始の時期に感染の急拡大が起きている。

上記の試算のように、「全国旅行支援」制度によって、一定程度の消費刺激効果が生じることは明らかである。今後は感染の動向、不正利用の動向、あるいは県ごとに運用が異なることで混乱などが生じないか、等を慎重に見極めることが重要だ。そして、感染状況などの環境変化に応じて、制度の終了や段階的縮小を柔軟に判断していくべきだろう。

また、いたずらに制度を延長するのではなく、出口戦略も常にしっかりと考えていくことが重要だ。

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