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技能実習・特定技能制度の見直し議論:外国人人材の積極活用を成長戦略に

2022/11/29

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人権問題も含め課題が多い「技能実習制度」の見直し

外国人が日本で働きながら技術を習得することを支援する「技能実習制度」の見直し議論が本格化する。同制度を「特定技能制度」と一本化することも視野に入れ、今後検討が行われる見通しだ。政府は両制度の見直しを検討する有識者会議を設置し、年内に初会合を開く。来年秋までに最終報告をまとめる予定だ。

技能実習制度の下で日本に滞在する実習生は、2022年6月末時点で約32万8,000人いる。今年9月時点で6,070万人の雇用者全体の0.5%程度を占める。

技能実習制度は、新興国の経済発展に向けて技術供与などを目的に、つまり国際貢献の一環として1993年に創設された。現状では90程度の職種で最長5年働くことができるが、原則転職ができず、家族の帯同も認められていない。

技能実習法には「労働力需給の調整手段として行われてはならない」と定められているものの、実際には、本来の制度の目的とは異なり、人手不足への対応として多くの企業が利用してきた経緯がある。

さらに、賃金の未払いや人権侵害の問題も少なくないほか、実習生が出身国の送り出し機関などに「手数料」や「保証金」を支払うために多額の借金を負うため、国内での処遇の低さや労働環境の過酷さと相まって、日本国内での失踪や不法就労につながっている、との問題も指摘されてきた。米国務省は各国の人身売買についてまとめた報告書の中で、日本の技能実習制度が人権侵害の温床になっている、との見方を示している。

こうした中、外国人技能実習生の保護を強化した技能実習適正化法が2017年11月に施行され、現在5年を迎えている。同法には一定の効果があったとの評価がある一方、「安価な労働力」として利用される傾向は変わっていないとの批判もある。そこで今回、技能実習制度の存続自体が議論され始めたのである。

特定技能制度への外国人人材のシフトは進んでいない

一方、技能実習制度が抱える問題を踏まえて2019年4月に運用が始まったのが特定技能制度である。人手不足対策の観点から、外国人人材を初めて正面から受け入れることになった制度と言えるだろう。

同制度は、人手不足の12分野で労働者を受け入れている。同じ業種なら転職も可能で、最長5年間の在留を認める「1号」と、家族の帯同や在留資格の更新ができ、永住にも道を開く「2号」とがある。技能実習を終えた後、同制度を活用して日本に残って働くことも可能である。

特定技能制度が導入された時点で既に、多くの問題を抱える技能実習制度から外国人人材を特定技能制度に吸収させていくことは想定されていた。ただし、実際にはあまり進んでいない。2022年6月時点で、特定技能は9万人程度と、実習生約32万8,000人の4分の1程度にとどまっているのである。

そこで、制度として両者を一本化することが検討され始めたのだろう。特定技能制度には2023年度までの5年間でおよそ34万5,000人の受け入れ上限がある。これは、両制度の現時点での外国人人材の合計数にほぼ等しい。

人手不足解消という日本側の都合だけを考えてはいけない

技能実習制度を技能実習制度に吸収させて一本化することは適当だと思うが、他方で、国際貢献としての技術供与という目的をなくしてはならず、新たな制度のもとでもそれをしっかりと残していくことが重要である。

さらに、外国人人材を受け入れる日本企業側も、人手不足の解消を狙うだけでなく、技能の習得を支援するという意識を持つことが重要なのではないか。

2022年3月に公表された入国管理庁の委託調査では、来日目的として、「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」よりも、「スキルの獲得・将来のキャリア向上のため」を挙げる外国人が多いという結果が得られた。技能の習得という目的が、外国人人材の勤労意欲を支える重要な部分を占めているとすれば、企業側が技能の習得を支援することは労働生産性向上などにもつながり、企業側にもメリットを生む。

日本では過去30年間、名目賃金がほとんど上昇していない一方、過去10年間は日本銀行の大幅な金融緩和の影響で、他通貨に対して円安がかなり進んだ。他方、この間にアジア諸国では賃金の上昇が進んだことから、アジア諸国の外国人にとって、日本で稼ぐ給与を自国通貨に換算した場合、その金額はかなり目減りしており、日本で働くことのインセティブは低下してしまっているはずだ。

そうした中で、日本が良質な外国人人材を確保していくには、人手不足解消といった日本側の都合だけを考えていてはいけないだろう。より時間をかけて技能を習得するニーズに応えるためには、現在の特定技能2号の枠を大幅に拡大し、外国人人材のより長期間の滞在を可能にしていくことも必要なのではないか。

成長戦略の一環で外国人人材の受け入れ枠拡大の検討を

労働不足が深刻な業種に外国人人材を受け入れていくことで、人手不足による成長の制約を緩和し、景気の天井を一時的に押し上げることはできるだろう。しかし、人手不足は主として景気循環の中で生じる現象であり、そこを外国人人材で一時的に緩和しても、日本の成長率のトレンドは変わらない、そうであれば、日本国民の(実質)賃金上昇率のトレンドを押し上げ、生活水準の向上につなげることも難しい。

この点から、外国人人材を日本側の都合で人手不足の緩和に利用するのではなく、安定的に受け入れ枠を拡大していくことが重要となるのではないか。外国人人材は労働力である一方、日本に滞在する限り、消費も増やす。需要、供給の両面から日本の成長力の向上に貢献するだろう。その結果、先行きの成長見通しが高まれば、企業は設備投資を増加させ、それが労働生産性向上をもたらすことで、日本の労働者の実質賃金の増加、生活水準の向上にも貢献するはずだ。

外国人人材の持続的な受け入れ増加については、日本の労働者の労働環境に与える影響、社会的な影響などの観点から、慎重意見が少なくないことも確かである。そのため、国民的議論をさらに丁寧に重ねていくことが重要だろう。

ただし、技能実習・特定技能制度を見直したうえで、外国人人材の活用を積極化していくことは、政府が目指す日本経済の潜在力、成長力向上に寄与するのではないか。政府は制度見直しの議論と並行して、外国人人材の積極活用を成長戦略の一環と位置付けて、前向きに検討を進めることを期待したい。

(参考資料)
「技能実習見直しへ議論=特定技能に一本化視野―政府」、2022年11月26日、時事通信ニュース
「技能実習「廃止も選択肢」 特定技能制度と一本化 外国人受け入れの課題、自民・古川司法制度会長に聞く」、2022年11月25日、日本経済新聞
「技能実習、存続か廃止か 有識者会議設置」、2022年11月23日、朝日新聞 
「技能実習適正化法5年 やまぬ搾取に厳しい視線 「歴史的課題」解決へ 政府、年内にも有識者会議」、2022年11月10日、東京新聞
「外国人労働者政策、現状と課題(中) 人材育成掲げ「選ばれる国」に 万城目正雄・東海大学教授(経済教室)」、2022年11月3日、日本経済新聞

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