フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 スタートアップ育成5か年計画と資産所得倍増プラン:新しい資本主義の各施策の一体化に期待

スタートアップ育成5か年計画と資産所得倍増プラン:新しい資本主義の各施策の一体化に期待

2022/11/30

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

日本型イノベーションの創出を目指すべき

11月28日に開かれた第13回「新しい資本主義実現会議」では、「スタートアップ育成5か年計画」と「資産所得倍増プラン」の2点が決定された。昨年10月に第1回会合が開かれた同会合は、一時議論が停滞していた感もあったが、今年10月以降は開催の頻度も高まり、より具体策がまとめられるようになってきている。

スタートアップの育成については、現在国会で審議されている第2次補正予算に、過去最大規模となる1兆円が計上される。さらにこの5か年計画では、2027年度にスタートアップへの投資額10倍超(10兆円)、ユニコーン100社、スタートアップ10万社創出、シリコンバレーなど海外への派遣人数1,000人、などといった数値目標が多く掲げられている。

ただし重要なのは、そうした数値目標の達成ではなく、最終目標の達成である。イノベーションの創出を通じた日本経済の生産性向上、成長力強化が最終目的であり、スタートアップの数を増やすことなどが最終目的ではない。スタートアップが新しい技術や新しい産業を生み出すことが期待されることから、スタートアップを支援するのである。

ただし、この5か年計画は、スタートアップが新たな技術やビジネスモデルで短期間のうちに急成長を遂げ、新産業をリードする米国のGAFAのイメージに、かなり引き摺られているのではないか。グローバルスタートアップキャンパスの創設、起業家育成のためのシリコンバレーなどへの派遣などの施策からは、そうしたことが強く感じられる。もっと日本の実情を踏まえて、日本型イノベーションの創出を目指すべきではないか。

既存の大企業が生み出す新技術を可能な範囲でオープン化

日本では、資金力がある大手企業からイノベーションが創出される傾向が強いことから、そうした点にも配慮した日本型のスタートアップ支援、イノベーション創出支援が工夫されても良いのではないか。

5か年計画の中でも、「オープンイノベーションの推進」が3本柱の一つと位置付けられており、既存の大企業がスタートアップをM&Aし、また協業することで新技術を導入していくことも目指されている。それは評価できる点だ。

他方、既存の大企業が生み出す新技術を、可能な範囲でオープン化し、社会全体の生産性向上につなげていく、という意味での「オープンイノベーションの推進」も日本では重要なのではないか(コラム「イノベーションはどこから生まれるのか?:新しい資本主義のスタートアップ支援策」、2022年8月10日)。

それは、企業にとっては技術の流出であり他社に恩恵をもたらすことになる「外部経済」を意味する。そのため、政府がそれに関与し支援する必要が出てくる。政府が主導してオープンイノベーションの枠組みを作り上げていく必要もあるのではないか。

「人への投資」の施策とも連携

これは政府が新しい資本主義の施策として、リスキリングなど企業の「人への投資」を支援するとともに、労働の流動化を進めようとしていることと重なる。新たな技能を身に着けた労働者を他企業、他産業に移動させることで産業構造の高度化を促し、生産性向上を図るのである。

個々の企業が生み出す新技術を社会全体に広まるイノベーションに高めるためには、「人への投資」の施策とも連携し、技術と労働の流動化を同時に進めることが有効となるのではないか。スタートアップ支援だけでなく、こうした点も含めたより包括的なイノベーション創出支援を政府は今後推進すべきだ。

個人マネーを企業の成長につなげる

スタートアップ育成計画には、スタートアップを資金面で支える国内ベンチャーキャピタルの育成、海外投資家、ベンチャーキャピタルの呼び込みなども含まれている。この点と関わってくるのが、新しい資本主義の柱の一つである資産所得倍増プランだ。個人が提供するリスクマネーを、企業の成長に利用していく考えである。

今回の実現会議では、5年間で少額投資非課税制度(NISA)の口座数及び投資額をそれぞれ5年間で2倍にする計画が示された。投資上限の引き上げ、投資期間の恒久化、制度の恒久化を通じて、投資額2倍の目標は達成可能であるかもしれない。しかしそれでも、NISAの投資規模は家計金融資産全体の2.8%に過ぎず、「貯蓄から投資へ」を大きく推進させることにはならない。

NISAの倍増にとどまらず、個人金融資産を株式市場に向かわせ、企業の成長を支えるような取り組みを、より広範囲に進めていく必要がある(コラム「NISA倍増だけで終わらせるな(資産所得倍増計画)」、2022年11月25日)。

「新しい資本主義」の各施策をより一体化すべき

個人が株式投資を拡大させるには、NISA拡充など税制面での支援だけでは十分ではなく、日本経済と企業の成長力が高まり、株式投資の期待収益率が高まることも必要となるだろう。この点から、「貯蓄から投資へ」、「資産所得倍増計画」は、「スタートアップ育成」、「人への投資」、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略、気候変動リスク対応のグリーントランスフォーメーション(GX)など、新しい資本主義の他の成長戦略の施策と一体的に推進していくことが求められる。

個々の施策に目標数値を設定し、予算をつけるだけでは、「新しい資本主義」が目指す成長力強化と所得増加は実現できない。それぞれの施策を組み合わせて推進することで初めて、成長力と所得が両輪のように相乗的に高まっていくだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ