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問題先送りの公算が高まる防衛費増額の財源確保

2022/11/30

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増税による防衛費増額の財源確保に自民党内で強い反発

岸田首相は11月28日に、従来の防衛費に研究開発やインフラ整備などを加えた安全保障関連経費を、2027年度時点で現在の名目GDP比で2%とするように財務、防衛両大臣に指示した。増額分は4兆円程度になると見込まれる。

他方、「幅広い税目による国民負担が必要」とする有識者会議の報告書に従って、岸田首相は恒久財源を確保する考えだ(コラム「防衛費増額の負担は現役世代で広く分かち合うべき(防衛力強化の有識者会議報告書)」、2022年11月24日)。岸田首相は「まずは歳出改革」を進めたうえで、歳入面で「安定的に支えるためのしっかりとした財源措置は不可欠だ」として、増税を示唆している。

これを受けて自民党内では、防衛費増額の財源議論が本格化している。事前に予想された通り、保守派を中心に増税に対する強い反発が巻き起こっている。有識者会議の報告書や岸田首相は「歳出削減」を優先する、と説明しているが、歳出削減で防衛費増額の4兆円程度の財源を捻出できるとは考えにくいことから、最終的には増税を恒久財源とするかどうかが最大の論点となる。

党内からは、いずれ恒久財源を確保するにしても、まずは、国債発行で賄うべきであり、直接的な国民負担となる増税は反対、との意見が強い。

本格的な財源確保の議論は来年に先送りか

政権内では、法人税率の引き上げを主な財源とし、それ以外にも個人所得増税、たばこ増税などが検討されているとみられる。防衛力強化のための防衛費増額は、その利益を得る現役世代の間で分担して負担すべきだろう。この点から、将来世代の負担を高める国債発行ではなく、増税で賄うことを検討すべきである。

しかし、自民党内で増税に対する強い反発が出ていることから、2023年度税制改革案に増税策を盛り込むことは、日程的にもかなり難しい。そこで、2023年度の防衛費増額分は一時的な財源で賄い、本格的な財源確保の議論は来年に先送りする可能性が高まっている。

2023年度の一時的な財源確保策として政府が検討し始めたのは、新型コロナウイルス対策で厚生労働省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金と外国為替介入に備えて管理している外国為替特別会計の剰余金の活用である。

政府は2つの剰余金の活用を検討

外国為替資金特別会計は、外国為替相場の安定のために設けられており、円売り・外貨買い介入に伴って取得した外貨を資産、円を調達するために発行した政府短期証券を負債として保有している。さらに、保有外貨資産の利子収入等を歳入、政府短期証券の利払い等を歳出とし、その差額が剰余金となる。内外金利差を背景に、今年度予算では1兆3,000億円程度の剰余金の発生が見込まれている。

為替資金特別会計の剰余金は、一部を翌年度の外国為替資金特別会計に繰り入れるとともに、一部を一般会計に繰り入れる規定となっている。2021年度には剰余金が2兆2,000億円あまり発生し、このうち1兆4,000億円あまりが一般会計に繰り入れられた。

この外国為替資金特別会計の剰余金のうち、翌年度の外国為替資金特別会計に繰り入れられた部分を一般会計の繰り入れに回すというのが、外国為替特別会計剰余金の防衛財源への活用ということなのだろう。ただし、1兆3,000億円程度と見積もられている2022年度の剰余金を仮にすべて一般会計に繰り入れても、その金額は2021年度の1兆4,000億円と変わらず、新たに財源を確保することにはならないのではないか。

また鈴木財務大臣は、国公立病院を運営する2つの独立行政法人、国立病院機構、地域医療機能推進機構の積立金を防衛財源に活用する考えも示している。政府は新型コロナウイルス感染症対策の病床確保のため、医療機関に手厚い補助金を支給した。しかし、受け入れ患者数が想定より少なかったことなどから利益剰余金として積み上がっており、2021年度時点の積立金は、国立病院機構で819億円、地域医療機能推進機構で675億円、合計で1,500億円程度に膨らんでいる。

鈴木財務大臣は、これらの利益剰余金を前倒しで国庫返納するように求めている。 両機構の剰余金は中期目標(5年間)最終年度にあたる2023年度の経営状況を踏まえ返納額を決める仕組みとなっていることから、返納を前倒しするためには、法改正が必要となる可能性があるようだ。

最終的に国債発行で賄う形となる可能性

5年間の防衛費増額の初年度となる来年度では、1兆円弱の増額が必要となるだろうが、上記の剰余金の活用だけでその資金を捻出することは難しい。しかも、剰余金の活用はそもそも一時的な財源確保に過ぎない。

そこで、将来世代への付けとならないように60年をかけて償還される通常の国債ではなく、ごく短期間で償還する「つなぎ国債」を発行して、一時的に財源を確保することが検討されるのではないか。

しかし、来年に議論を先送りしても、防衛費増額を増税で恒久的に賄うことで、与党内あるいは野党の賛成が得られる保証はない。そのため、財源の議論は迷走し、さらに先送りされていく中、一時的な財源確保の手段とされたはずの「つなぎ国債」が通常の国債で借り換えられ、結局は、防衛費増額分は新規国債発行で賄われることになってしまう可能性が相応にあるだろう。しかし、それは大いに問題である。

防衛費増額分を国債発行で賄えば、それは遠い将来にわたって国民への負担増となり、世代間の負担の公平性の問題を生む以外に、将来の成長期待の低下を通じて企業の設備投資の抑制などを生じさせ、経済の潜在力を低下させてしまうだろう。それによる国力の低下は、結局のところ、防衛力の低下にもつながってしまうのである。

(参考資料)
「防衛財源に赤字国債論 GDP比2%、首相指示受け 外為特会の剰余金も検討」、2022年11月30日、朝日新聞
「防衛費、年内決着は不透明=岸田首相指示、自民に財源先送り論」、2022年11月29日、時事通信ニュース
「防衛財源「相当大きな問題」=与党税制協議会を初開催―23年度改正」、2022年11月28日、官公庁情報(時事通信)
「防衛にコロナ・外為剰余金 政府、財源捻出で調整開始 GDP比2%へ増税議論 つなぎ国債」、2022年11月29日、ブルームバーグ

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