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米大手IT企業の人員削減と強めの雇用統計のギャップ:コロナ問題によるかく乱が続く米国労働市場

2022/12/05

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11月米雇用統計は強めも12月0.5%利上げ見通しは変わらず

12月2日に発表された11月分米国雇用統計は、総じて事前予想以上に雇用情勢の強さを示す内容となり、足元の金融市場で強まっていた米国経済の減速懸念、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めの修正期待を、ともに幾分後退させた。

雇用統計を受けて2日のドル円レートは、米国市場で133円台から一時135円台まで円安が進んでいる。12月13・14日の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが利上げ幅を従来の0.75%から0.5%に縮小させるとの見方は雇用統計を受けても揺らいでいないが、来年以降の金融政策については、引き続き不確実性が強い状況だ。

11月分雇用統計で、非農業部門の雇用者数は前月比26万3,000人増と市場予想の20万人増を上回った。失業率は前月と同水準の3.7%だった。また平均時間当たり賃金も前月比+0.6%上昇と市場予想の+0.3%程度の上昇を上回った。前年比は+5.1%と、前月10月の同+4.9%から上昇し、9月の水準に戻った。

レジャー・サービス業、ヘルスケア、政府機関で雇用が堅調に増加している。他方、小売業、運輸・倉庫業では雇用が縮小し、年末商戦の軟調ぶりを示唆した。雇用増加ペース、賃金上昇率ともに、今年前半と比べれば鈍化してきていることは明らかであるが、なおFRBのインフレへの警戒感を緩めるのには十分ではない。

大手IT企業のレイオフは従業員を過剰に採用した結果

ところで足元では、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックなどを運営するメタ・プラットフォームズなど大手IT企業やウォルト・ディズニーなどが、大幅な人員削減を発表している。他方で、今回の雇用統計が示唆するように、これらの人員削減が雇用情勢を目立って悪化させているようには見えない。

10月の「雇用動態調査(JOLTS)」(求人数と離職者数)で、10月末時点の求人数は1,030万人と9月の1,070万人を下回った。解雇された、または離職した人の数は139万人と、9月の133万人からはやや増えている。さらに、新規失業保険申請件数はここ数週間増加傾向にある。

これらの指標は、米国の労働市場が緩やかに悪化していることを示している。それでも、雇用情勢が一気に悪化する兆しは見られていない。それは大手IT企業で解雇された従業員が、次の職を比較的容易に見つけることができているためではないか。新型コロナウイルス問題の恩恵を受けた大手IT企業は、大量の雇用者を一気に採用した。それが行き過ぎ、従業員が過剰になったことが、今回の大量の人員削減の背景とみられる。

大手企業が解雇された従業員の受け皿に

アマゾンの従業員数は、新型コロナウイルス問題前の2019年12月期の79万8,000人から、2021年末には81万人増加して160万人余りに達した。メタは同じ期間に4万4,942人から7万1,970人に増加した。さらに今年7-9月期末時点では8万7,314人に達していた。

大手IT企業での解雇の対象者は、今のところ主に高収入・高学歴の従業員に限られているようだ。彼らは比較的容易に、次の転職先を見つけられるだろう。例えば、昨年のメタ従業員の給与中央値は29万2,785ドルとかなりの高水準である。一方、アマゾン従業員の中央値ははるかに少ない3万2,855ドルであるが、解雇の対象となっているのは、倉庫作業員のような低賃金の単純労働者ではなく、小売り・デバイス・人事部門などの高賃金の従業員である。

大手IT企業が大量採用する中で、今まで思うように採用が進まなかった大手企業が、今度は大手IT企業が解雇した従業員の受け皿になっている。このように考えると、足元で起こっている大量解雇と新規雇用の増加という一見矛盾した状況は、新型コロナ問題で大きく歪んだ労働者の業種別、分野別の分配が、適正な姿へと戻っていく一種の正常化の過程で生じている現象とも言えるだろう。

企業、労働者共にポストコロナの新たな産業構造を見極め切れていない

ただし、労働市場がこれで正常化したとは言えないだろう。新型コロナウイルス問題は、サービス支出からモノへの支出など、個人の消費行動を大きく変えた。これが産業構造の変化を引き起こしているが、その最終的な落ち着きどころはまだ見えていない。

そのため、企業は将来の成長に見合った適切な雇用の確保がなおできず、過剰な採用が生じてしまう。その結果、思うように採用ができなかった企業は、大手IT企業の人員削減によって労働力が供給されると、採用できるうちにと急いで採用しようとするのではないか。しかし、それもまた、新たな雇用の過剰を生んでしまう可能性があるだろう。

他方、コロナ問題で職を失った人は、ポストコロナの新しい産業構造のもとで、勝ち組となる産業、企業を見極めようと再就職に慎重だろう。そのため、労働供給がなかなか増えず、それが深刻な人手不足と賃金上昇につながっている面があるのではないか。

このように米国の労働市場は、新型コロナウイルス問題によってなお大きくかく乱されており、その結果、雇用統計は、景気を判断するうえでの指標性が低下してしまっていると考えられる。

米国経済は、この雇用統計を除けば総じて減速感が強まっている。そうした中、指標性が低下した雇用統計を従来通りに重視してFRBが金融引き締めを進めていくと、今回は景気を過度に悪化させてしまうオーバーキルのリスクが高まることになるだろう。

(参考資料)
"Layoffs? What Layoffs?(米労働市場、実際に解雇は増えているのか)",Wall Street Journal, December 1, 2022
”Mega-Companies Messed Up America’s Job Market. They’re Doing it Again.(米巨大企業の人員削減、雇用市場にはプラスかも)”, Wall Street Journal, November 29, 2022

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