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世界が心配して見守る中国ゼロコロナ政策の行方

2022/12/06

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世界が注視するゼロコロナ政策

厳格な政府のゼロコロナ政策に対する中国国民の反発が各地で強まっている。その背景には、過度に行動を制限されたことへの国民の不満ばかりでなく、経済的な不満もあるだろう。

中国での若年層の失業率は、今年、過去最高水準に達した。ゼロコロナ政策の一環として実施されているロックダウン(都市封鎖)が、失業率を押し上げているのである。

中国全体の失業率が5.5%にとどまっているのとは対照的に、ロックダウンが実施された上海では、7月に失業率が20%にまで上昇した。若年層の失業率は、その後も20%近辺で高止まりしており、ロックダウンが若者の経済状況に持続的な悪影響を与えていることがうかがえる。

ゼロコロナ政策が中国経済に与える悪影響を懸念しているのは、中国の国民ばかりでない。それによる中国での需要鈍化や工場停止によるグローバルサプライチェーンの混乱は、他国経済に大きな打撃となる。この点から、他国も中国国内での感染状況やゼロコロナ政策の行方を注視している。

ゼロコロナ政策の背景には中国の病院システムの脆弱さ

経済活動に深刻な打撃を与える厳格なゼロコロナ政策を中国政府が続けている背景には、そうした手法で中国政府がコロナ問題の初期の段階で感染抑え込みに成功し、それを世界にアピールしてきたことがある、と考えられる。その政策を修正することは、習近平国家主席が主導して進めてきた政策が誤りだったと認めることになってしまうだろう。

しかし、中国政府は厳格なゼロコロナ政策を続ける理由を、そのようには説明していない。武漢で最初の感染例が報告されてからの3年間、当局者はゼロコロナ政策を維持する理由として、中国の病院システムの脆弱さを常に挙げてきた。 2020年に医学誌クリティカル・ケア・メディシンに掲載された研究によると、中国の集中治療室(ICU)の病床数は人口1,000人当たり3.6床と、香港の7.1床、シンガポールの11.4床を大きく下回る。

中国本土よりも医療体制が良いはずの香港でも、感染による死亡率が世界最悪の水準にまで上昇した。この香港の例に基づいて試算すると、政府がゼロコロナ対策を解除すれば、130万~210万人の命が危険にさらされる可能性があるという(生命科学調査会社エアフィニティ)。

病院システムの脆弱さへの対応として、政府は病院のベッドなど医療資源を拡大するための投資を増やしたが、それは初期の段階で既に減速している。資金は徐々に費用のかさむゼロコロナ政策など新型コロナ関連の規制へと使われるようになっていったのである。

ワクチン接種率の低さも問題

病院システムの問題に加えて深刻なのは、中国でのワクチン接種率の低さである。これも、感染時の死亡率の高さの背景の一つであり、政府がゼロコロナ対策を解除することの大きな制約となっている。

当局は今まで大規模検査の実施や感染者の隔離施設建設などに追われており、ワクチン接種拡大への取り組みも停滞しているとされる。中国ではワクチン接種率も追加接種率もともに低く、過去の感染による免疫獲得も広がっていない。政府によると、ワクチンの追加接種を受けた中国人は60%に満たず、さらに80歳以上の追加接種比率は40%にとどまるという。

特に、高齢者のワクチン接種率の低さが感染者の高い致死率につながっている。接種率の低さの理由として、ワクチン接種の必要性についての認識不足、ワクチンの安全性に対する懐疑的な見方、副作用に対する警戒感などがあるようだ。

また、現在のウイルス株は以前のものより重症化率が低くなってきた一方、ワクチン接種証明があっても、感染検査の繰り返しを免れることはできず、また濃厚接触者が感染した場合でも隔離免除が保障されることもないと考えられている。つまり、費用対効果の観点からワクチン接種を拒む人も少なくないようだ。

ロックダウンなど厳しいゼロコロナ政策は、経済的な打撃も含めてかなりコストが高くつく政策だ。ワクチン接種率の拡大を優先した方が、より低いコストでより高い感染抑制効果を発揮できるように思われる。

中国のワクチンの有効性に対する疑問も

さらに海外では、中国のワクチンの有効性に対する疑問も高まっている。中国政府は欧米のコロナワクチンを承認することを拒み、主に中国医薬集団(シノファーム)と科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が生産する国産ワクチンに頼ってきた。両社のワクチンはいずれも世界保健機関(WHO)の承認を受けているものの、ウイルスの毒性をなくしたタイプの「不活化ワクチン」である中国製のコロナワクチンは、米モデルナや独ビオンテック、米ファイザーが開発した「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と比べて有効性が劣る、と指摘されている。

バイデン政権の新型コロナウイルス対策チームのトップが、中国製ワクチンより効果が高い外国製ワクチンを輸入しない限り、中国政府はコロナ感染拡大を制御できない、と警鐘を鳴らしている。他方、習近平国家主席は、中国国内で欧米のコロナワクチンを利用することを引き続き拒んでいるとの報道がある。

ゼロコロナ政策に対する抗議活動が中国各地に広がる中、政府はゼロコロナ政策をようやく緩める兆しも見られてきた。しかし単に規制を弱めるだけでは感染はさらに拡大し死亡者も増えるなど、問題は解決に向かわないだろう。問題解決には、使用するワクチンの見直しやワクチンの接種率の拡大が必要となるのではないか。

2020年には他国に先駆けて感染拡大を抑え込み、また国内でのワクチン開発を早期に進めて、それを海外に広める「ワクチン外交」を大々的に広げてきた中国の面影はもはやない。

中国のゼロコロナ政策の影響は自国経済にも影響が及ぶことから、他国はそれを批判というよりも、もはや心配の目で見守っているのが現状だ。中国のゼロコロナ政策が、2023年の世界同時不況の大きなきっかけを作ってしまう恐れも出てきた。

(参考資料)
"China Missed a Window to Be Better Prepared for Covid-19 Surge(中国、新型コロナ感染急増に備える機会逃す)",Wall Street Journal, December 2, 2022
「米政府、中国に欧米製ワクチンの導入を推奨」、2022年12月2日、フィナンシャルタイムズ
「中国のゼロコロナ抗議、背景に若者の高い失業率」、2022年12月2日、フィナンシャルタイムズ

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