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岸田政権のスタートアップ支援と米国でのSPACの衰退

2022/12/07

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岸田政権は当初SPACを利用したスタートアップの迅速なIPOを目指した

岸田政権はスタートアップの支援を、「新しい資本主義」推進の柱の一つに据えている。11月28日に開かれた第13回「新しい資本主義実現会議」で「スタートアップ育成5か年計画」が示されるなど、ようやく具体先が固まってきている(コラム「スタートアップ育成5か年計画と資産所得倍増プラン:新しい資本主義の各施策の一体化に期待」、2022年11月30日)。

スタートアップ支援は、実は岸田政権がその発足当初から掲げている政策課題だ。経済政策全体が、当初は賃上げを通じた所得再分配に偏っていた中、スタートアップ支援は成長力強化を図る異例の政策だったと言えるだろう。その際に示していた具体的な施策の一つが、当時米国でブームとなっていた特別買収目的会社(SPAC)を活用したスタートアップの迅速なIPOだった。

SPACは、未公開会社の買収を目的として設立、上場される法人のことを指す。設立、上場の時点では、自らは事業を行っていないため、「ブランク・チェック(白紙小切手)」、「空箱」とも呼ばれる。株式市場から資金調達を行い、これを使って未公開会社を買収する。SPACの合併は通常のIPOよりも迅速で、監視の目も少ない。そのため、電気自動車(EV)の新興企業など、比較的リスクの高い企業が株式公開をするための魅力的な手段となった。

米国のSPACはバブルからバブル崩壊へ

米国ではSPACのスポンサーにはスポーツ選手など著名人が名を連ね、SPACがどのような企業を買収するのかが全く決まっていない段階から、SPACにかなり高い値がつく傾向が見られた。価格上昇期待から、ヘッジファンドや個人投資家がSPACに資金を投じたのである。

ところが、SPACの株価が急騰する一方、SPACが将来性の高いスタートアップを見出し、IPOをさせるという、本来期待された役割は十分に果たされなかった。2021年に見られた米国SPACのブームは、コロナショックを受けた2020年の大幅な金融緩和が生み出したバブル、という性格が強かった。2022年に金融引き締めが急速に進む中、そのブームは終焉したのである。

こうした米国での状況を受けて、「スタートアップ育成5か年計画」でのSPACの記述はかなり限定的な分量にとどめられたうえ、「導入した場合に必要な制度整備について、国際金融市場の動向を踏まえ、投資家保護に十分に配慮しつつ検討を進める」と、慎重な表現となった。

SPACが合併した企業の株価は大きく下落する傾向

SPACリサーチによると、2015年から2020年の間には、スポンサーがコミットした資金の4分の3が企業の株式となった。ところが、2021年以降は市場環境が悪化し、2021年と22年に調達された58億ドルのうち、50億ドルはすでに清算されたか、清算の危機に直面しているという。

SPACリサーチの最新データによると、2022年現在までに48のSPACが清算され、さらに40が年内に清算が予定されている。SPACが期限内に企業の合併を実施できない、あるいは合併について投資家の賛同が得られなければ、SPACは清算され、投資資金は投資家に返却される。その期限は通常2年ほどのことが多いようだ。

SPACの上場から合併までの間に投資家がその株式を保有した場合、投資家は年率23.9%のリターンを得られたという。他方、SPACの株主がそのSPACが合併した企業に資金を投入した場合には、1年間の平均リターンはマイナス11.3%だったという(ミンモ・ガン氏、ジェイ・R・リッター氏、ドンハン・チャン氏による論文)。SPACの投資家は、SPACが合併した企業の株式を取得せずに、SPACの株を売却することができる。実際、SPACの初期投資家(ほとんどがヘッジファンド)は、取引が終了するまでにほとんどすべて退場してしまうのだという。

SPACは将来性のあるスタートアップを見つけ出していない

SPACの投資家は、合併が実施される前にSPACの株を売却すれば、大きな利益を得られる確率が高いが、SPACの投資家が、SPACが合併した企業の株を持ち続ける場合、大きな損失を得る確率が高くなる。

さらに1年間は合併した企業の株を売却できない規定が一般的とみられ、株を持ち続けることのリスクが高いため、ほとんどの投資家はSPACの株を売却してしまうのである。

SPACが合併した企業の株価が平均的には大きく下落しやすいということは、SPACは、将来性のあるスタートアップを見つけ出していない、ということを意味するのではないか。

さらに、SPACの株式を購入した投資家の多くは、企業の合併のディールが完了するまでに、SPACの株を売却してしまうということは、SPACのスポンサーは、合併時に改めて資金を調達する必要が生じることになる。これでは、SPACという形で当初に資金を調達した意味がないように思われる。

スタートアップ支援は日本の実情を踏まえることが重要

このように、多くの問題を抱えたSPACのブームは、金融引き締めと共に終焉している。岸田政権は、日本のスタートアップが迅速にIPOを実施できるように、米国のSPACの仕組みを導入しようとしていたが、今となってはそれは拙速であっただろう。

スタートアップ支援は、スタートアップの迅速なIPOを助けることが目的なのではなく、日本のイノベーションを高めることが最終目的だ(コラム「スタートアップ育成5か年計画と資産所得倍増プラン:新しい資本主義の各施策の一体化に期待」、2022年11月30日)。「スタートアップ育成5か年計画」では、このSPACに限らず、米国に学ぶとの姿勢が随所にみられるが、IPOについても、米国ではなく日本の実情に合わせた形での支援を検討して欲しいところだ。

(参考資料)
"SPAC Sponsors Used to Win at Investors' Expense. Now Both Are Losing(SPAC失速、今やスポンサーと投資家共に負け組)", Wall Street Journal, December 1, 2022

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