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FTXのずさんな経営実態がより明らかにされることが、暗号資産市場全体の信頼回復の足掛かりとなるか

2022/12/09

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FTXの破綻は個社要因か?業界要因か?

暗号資産(仮想通貨)取引所大手FTXの破綻によって生じた暗号資産業界の激震は、依然、収まる兆しをみせていない。FTX破綻に至る過程でごく短期間のうちに2割以上も下落したビットコインの価格は、足元で1万7,000ドル程度の水準で低迷を続けており持ち直す兆候は見られない。昨年11月のピークからおよそ1年の間に、その価格は4分の1程度にまで下落している。

FTXの経営破綻は、その杜撰な経営手法が招いたものであることは明らかであるが、市場は個社の問題というよりも業界全体に共通する問題、リスクと捉えており、暗号資産全体の信頼が大きく傷付けられてしまった面がある。

暗号資産市場が冬の時代に入ったことを示す動きの一つが、ニューヨーク市場に上場する暗号資産交換業大手コインベースの社債価格が急落していることだ。2028年に満期を迎えるコインベースの社債は、1年前には額面1ドルあたり94セントで取引されていたが、今では58セント強にまで下落している。これは経営難に陥っている企業と同じレベルだ。

コインベースは、FTXのようなリスクの高い経営ではなく、より地に足のついた事業を行っている。また、FTXのような利益相反もなく、9月30日時点では50億ドルの現金および現金同等物を保有していた。

こうしてウォール街のお墨付きを得ているコインベースのビジネス環境でさえ、強い逆風に直面している。暗号資産市場で起こっているのは、リスクを選別する動きではなく、一律にリスクが高いとの認識の広がりである。

FTXとアラメダ・リサーチの間の不透明な取引実態

しかし、FTXの杜撰な経営実態がより明らかになり、それが業界の中でも例外的なものであることが証明されれば、暗号資産市場の信頼を取り戻す足掛かりになる、と期待する業界関係者は少なくないのではないか。

しかし実際には、FTXの経営実態はなかなか明らかにならない。最も分かりにくいのは、取引所であるFTXと、同社に関連する投資会社アラメダ・リサーチの間の不透明な取引の実態だ。

アラメダ・リサーチはFTXから巨額の融資を受け、FTXはこれを融資として計上していた。その担保となっていたのは流動性の低い4種類のトークンであったが、その融資担保の価値は必要とされる額をはるかに下回っていたという。

資金繰りに行き詰まっていたFTXは、11月初旬にアラメダ・リサーチから数十億ドルの融資担保を差し押さえ、投資家に対して自社の財務の健全性を訴えようとした。FTXが投資家に提示していたバランスシートでは、これら資産価値は64億ドル相当と計上されていたが、実際にはこれをはるかに下回っている可能性が濃厚だ。FTXが破産法の適用を申請する前日、この4つのトークンの価値は暴落した。FTXのバランスシート上の価値はおよそ半減となる29億ドルにまで落ち込んだのである。

トークンを利用した錬金術的なビジネス手法は暗号資産業界に共通

また、アラメダ・リサーチはFTXが発行したトークンFTTも大量に保有し、これを使って巨額資金の調達・借り入れを行っていた。ところが、アラメダが保有するFTTの価値が過大評価されている可能性があると伝わると、FTXの顧客による取り付け騒ぎが発生し、それがFTXの経営破綻の引き金となったのである。

価値の裏付けが乏しいトークンを利用して資金を調達し、それを他社の買収、投資に利用してビジネスを拡大する手法は、FTXやアラメダ・リサーチに限るものではないだろう。そうした錬金術的なビジネス手法は、暗号資産業界全体に共通している。

それは、トークンを含む暗号資産の価格が上昇を続けている間は、大きな収益を生むが、ひとたび価格上昇が止まれば一気に行き詰まる性格のものだ。それは、砂上の楼閣のようなものではなかったか。

FTX破綻の全容解明と暗号資産の信頼性回復までの道のりは遠い

米下院金融委員会のウォルターズ委員長は12月5日に、経営破綻したFTXの創業者で前CEOのサム・バンクマンフリード氏に対して、12月13日に開かれる公聴会への出席を求めた。それに対してバンクマンフリード氏は、同委員会での証言については、破綻に至った経緯の「把握と検証」が終われば行うが、13日までにそうなるかは分からないとツイッターに投稿している。ウォルターズ委員長は、13日の証言を強く求めている。

バンクマンフリード氏はFTX破綻後多くのメディアのインタビューに答えているが、その発言内容はかなりあいまいで一貫性を欠くものだ。FTXが破綻する数日前まで、FTXの危険な財務状態について完全に認識していなかったとバンクマンフリード氏は語った。その一方で同氏は、アラメダ・リサーチが初期段階から、FTXからの資金借り入れについて通常の上限を超えられる状態になっていたことを後に認めている。

FTXで顧客の預かり資産に約80億ドルの不足が生じる事態に至った経緯については、バンクマンフリード氏はアラメダへの過剰な融資が根本的原因だったと説明した。FTXのCEOとして顧客の資産を守る役割との間に「利益相反」が生じる恐れがあるため、自身が過半数の株式を握る投資会社アラメダ・リサーチの資金運用やリスク管理には関与しないようにしていた、と説明した。しかしその後には、アラメダの財務上の決定に対して密接に関与していたことを認めている。

また、最終的にアラメダ・リサーチを行き詰まらせ、FTXの財務に大きな穴を開ける事態につながった過剰な借り入れと投資の失敗の実態については、明確な説明をなお避けている。

最終的には、司法の手によって事件の全容とバンクマンフリード氏の責任が明確にされることを期待したいが、米下院金融委員会の証言では同氏は曖昧な答弁に終始し、全容は最終的に明らかにならないだろう。そうなれば、FTX破綻を杜撰な経営が招いた例外的なものであることが明らかにされることで、暗号資産市場全体の信頼回復の足掛かりとなる、との業界の期待は裏切られるのではないか。

(参考資料)
"FTX Effort to Save Itself Failed on Questionable Assets(砂上の楼閣だったFTX、裏付けなし資産で崩壊)", Wall Street Journal, December 6, 2022
「FTX創業者インタビュー「リスク把握できず破綻」」、2022年12月5日、フィナンシャルタイムズ
「FTX前トップ、不適切流用「知らなかった」 顧客資金の融通疑惑で」、2022年12月2日、ロイター通信ニュース
「FTX創業者、13日の議会証言は責務=米下院金融委員長」、2022年12月6日、ロイター通信ニュース
「「仮想通貨の冬」示す米コインベース社債急落」、2022年12月7日、フィナンシャルタイムズ

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