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増税への強い反対で迷走する防衛費増額の財源議論

2022/12/12

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増税策に閣僚からも強い反発が出る異例の事態に

12月10日の臨時国会閉幕に合わせて開かれた記者会見で岸田首相は、防衛費増額の財源確保の手段として、増税策を実施する考えを改めて明言した。具体策については、今週中に2023年度税制改正大綱をまとめる与党税制調査会での議論に委ねた(コラム「防衛財源問題は税制改正大綱でも実質先送りか」、2022年12月9日)。岸田首相の増税方針を受けて、自民党内から、さらには閣僚からも強い反発が出ている。

西村経産相は「これからみんなで好循環を作っていこうという機運が高まっているので、私自身は増税に慎重であるべきだという考え方」と、閣僚としては異例の首相の方針に明確に反対する発言をしている。また、高市経済安保相も、「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された総理の真意が理解できない」と否定的な発言をしている。自民党の萩生田政調会長は、「国債の償還期間(60年)のルールを見直すことも検討に値する」と発言している。国債の償還期間を延長することで、償還財源の積立金を防衛費増額の財源に活用することを念頭に置いた発言とみられる。

税制調査会は幾つかの増税策の組み合わせを検討

一部報道によると、税制調査会では、幾つかの税項目を組み合わせた増税策のパッケージが検討されているという。増税による必要な財源は2027年度までに1兆円強、と岸田首相は説明しているが、それを法人税の増税で7,000 億円~8,000 億円分、たばこ税の増税で2,000億円~3,000億円分、東日本大震災の復興特別所得税(所得税に2.1%上乗せ)の期間を延長することで2,000 億円分を捻出、などが議論されているという。

岸田首相は広く国民の負担となることを避けるため、所得増税は実施しない考えを明言したが、実際には、復興特別所得税の延長という形で、広く国民に負担を求めることも税制調査会では議論されているようだ。

防衛費増額を法人増税で賄い、企業の負担としても、企業はその分値上げをし、また賃金を抑制することで個人に負担を転嫁することも考えられる。こうした波及効果にも配慮して、増税項目を議論する必要があるだろう。

増税、国債発行、歳出削減のいずれの手段でも国民負担となる

防衛費増額を増税、国債発行、歳出削減のいずれの手段で賄っても国民負担は避けられない。国債発行の場合には、将来世代も含めた国民負担増となる。防衛費増額を通じて防衛力が強化されるのであれば、それは、国民が受ける政府サービスが拡充されることを意味する。それには追加の国民負担が求められるのは当然だ。政府サービスが拡充されても、国民の負担が増えないというフリーランチはあり得ない。

重要なのは、誰が防衛力強化のベネフィットを受けるのか、という点だ。それは企業だけでなく国民すべてだろう。この点から法人増税だけでなく個人所得増税も組み合わせることで財源確保を図ることは自然なのではないか。

今を生きる世代が最も負担を負うべき

他方、日本の防衛力が向上するのであれば、そのベネフィットは将来世代にも及ぶため、その費用を一部国債発行で賄うとの議論にも一定の理がある。しかし、防衛費増額分をすべて国債発行で賄うのは妥当ではなく、あくまでも一部であるべきだ。防衛力増強から最も大きなベネフィットを受けるのは、今を生きる世代であるためである。

そして、国民が防衛力増強を優先課題と考えるのであれば、政府から受けている他のサービスを諦めることも検討すべきだ。これが歳出削減による財源確保という手段になる。予算は硬直化してしまっているため、歳出削減による財源確保は容易ではないが、ゼロベースで検討し直し、さらなる歳出削減による財源確保も模索すべきだろう。

防衛費増額を増税、国債発行、歳出削減のいずれの手段で賄っても、それは国民にとってのコストである。この点を十分に理解した上で、本当に2027年度までに防衛関連予算を11兆円まで積み上げることが必要なのか、それが本当に国民の生命と財産を守ることにつながるのか。防衛費増額の規模と中身の妥当性を国民がしっかりと検証することが必要だ。

なし崩し的に国債費発行で賄われていく可能性

岸田首相は当初、防衛費増額については、規模、中身、財源を一体で決めるとの方針を示していた。それは正しい考えだと思うが、実際には、規模先にありきの決定となってしまい、3者を一体で考えて最適な姿を模索するという国民の議論がなされる前に、最終決定が短期間でなされようとしており、大いに問題だ。

増税に対する強い反対がある中で、与党税制調査会が今週中にまとめる2023年度税制改正大綱では、増税項目、増税の規模、増税実施の時期などについて詳細が決まらずに、大まかな方針で終わる可能性がある。その場合、来年以降も増税時期はさらに先送りされ、結局はなし崩し的に国債発行で1兆円分が賄われるようになる可能性が十分に考えられる。

また、2027年度に歳出削減と一時的な財源で賄いきれない部分は1兆円、という数字はかなり過少であり、実際にはもっと大きな額の財源を追加で確保しなければならなくなる可能性も小さくない(コラム「防衛財源問題は税制改正大綱でも実質先送りか」、2022年12月9日)。その場合、必要な財源が部分的には増税で賄われるとしても、やはりなし崩し的に大半は国債発行で財源が確保されるようになってしまう可能性が考えられる。なし崩し的に国債発行を増やすことになるのは、負担を将来世代に転嫁していく無責任な行動であり、避けるべきだ。

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