フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日銀金融政策の展望②:日銀は来年総括検証を行うか

日銀金融政策の展望②:日銀は来年総括検証を行うか

2022/12/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

総括検証は日本銀行のDNA

日本銀行が来年4月の黒田総裁の退任直後に、金融政策の修正あるいは正常化を視野に入れて、今までの金融政策の効果などについて総括検証を行う、との観測が金融市場に浮上している。しかし、その可能性は高くないのではないか。

日本銀行の中で金融政策を担う企画局は、政策変更を行う前に、それ以前の政策の効果を検証し、レポートを作成することが一般的だ。その政策変更が十分に検討をした上での決定であることを対外的にアピールするとともに、政策変更を金融市場に事前に織り込ませ、混乱を回避する狙いがある。

2016年9月に日本銀行が行った「総括的な検証」は、長期国債買い入れ、マネタリーベースという量の目標を止め、イールドカーブ・コントロール(YCC)を導入することを正当化するものだった。そうした政策修正は、金融機関の収益などに配慮して長期国債利回りを安定化させることと、長期国債の買い入れを減らして、国債市場の機能が低下することを回避するのが主な狙いだったと考えられる。

また、2021年3月に行った「金融緩和の点検」は、日本銀行の金融政策を、新型コロナウイルスに対応した特別なものから、従来の2%の物価目標に紐づいた政策に戻すための段取りだった。さらに同時に、10年国債利回りの変動レンジを事実上拡大し、またETFの買い入れ目標を撤廃するなどの柔軟化措置、あるいは副作用を軽減するための事実上の正常化措置なども行ったのである。総括検証は、日本銀行企画局が長年引き継いできた、いわばDNAのようなものである。

総括検証の実施を発表した時点で政策変更の内容は決まっている

他方、大きな政策変更を行う前に、日本銀行が必ず総括検証を行ってきた訳ではない。2016年4月の「量的・質的金融緩和」を実施する前には、そのようなことは行わなかった。総裁が交代したことで政策が大きく変わることは、その際には明らかであった。そのため、総括検証という段取りを踏んで政策変更を金融市場に織り込ませる必要がなかったことが一因である。さらに、政策変更を行う前に総括検証を行うという企画局の伝統を、財務省出身の黒田総裁が重視していなかったため、とも言えるのではないか。

黒田総裁のもとでも、日本銀行が2016年9月に「総括的な検証」、2021年3月に「金融緩和の点検」をそれぞれ行ったのは、2016年1月に黒田首相が主導して決定したマイナス金利政策が失敗に終わり、政策の主導権が黒田総裁から日本銀行の執行部に移ったため、と解釈できるだろう。

2023年4月に黒田総裁が退任すれば、誰が新総裁になっても、日銀執行部の強い影響力のもとで多くの問題が明らかになった現在の異例の金融政策は柔軟化、正常化されていくだろう。そして、それが実施される前には、確かに総括検証のようなものが行われるのではないか。

しかし注意したいのは、総括検証を実施すると日本銀行が発表した時点で、日本銀行は既に政策変更の内容を決めているのである。総括検証はあくまでも対外的なアピールに過ぎない。そして、総括検証を実施すると日本銀行が発表した時点で、金融市場は政策変更を確信するのである。

総括検証と正常化は2024年以降か

従って、総括検証を実施すると日本銀行が発表するのは、日本銀行が正常化策の内容を固め、さらに政策変更を金融市場が強く織り込んでも問題のないタイミングになってからである。

黒田総裁の交代によって、金融政策は柔軟化、正常化に大きく転換されていくだろう。しかし、政策変更が実施されるのは、総裁交代の直後ではないと考えられる。来年は内外経済が厳しさを増し、総裁が交代となる来年春の時点では、既に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が金融市場で強まっている可能性が十分に考えられる。その時点でマイナス金利解除など日本銀行の政策変更の観測が金融市場で強まれば、急速な円高のリスクが生じ、経済にも大きな打撃となるだろう。そもそも、米国と日本の金融政策が逆に動くということは例がないことだ。

黒田総裁の交代は日本銀行の金融政策の大きな転換点となるだろうが、来年中に政策が大きく修正される可能性は限られるのではないか。内外の経済が落ち着きを取り戻し、FRBの利下げが完全に終了するのを待ってから、日本銀行はマイナス金利解除などの正常化に着手するだろう。その時期は2024年半ば以降、とみておきたい。

従って、金融市場が日本銀行の政策変更を織り込むことを狙って、日本銀行が総括検証の実施を事前に発表するのは、その直前のタイミングとなるのではないか。来年中に総括検証が実施されると予想するのは早すぎるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ