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変動幅拡大は事実上の利上げというよりも事実上のYCC終了か

2022/12/20

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「事実上の利上げ」との見方も

日本銀行は20日の金融政策決定会合で、10年国債の0%の目標値を維持しつつ、変動幅を拡大するイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化策を決定した。この決定に金融市場は大きく反応しており、「事実上の利上げ」との見方も出ている。

日本銀行は、2013年9月にYCCを導入して以降、変動幅を段階的に拡大してきた。この点からすれば、今回の決定も従来の柔軟化の延長線上の措置、と解釈できるだろう。しかし、今春以降、日本銀行は変動レンジの上限である+0.25%を超える利回りの上昇を強くけん制する姿勢に転じたのである。上限を超える利回り上昇は経済に悪影響を与えると、黒田総裁らは説明してきた。この点からは、今回の措置は「事実上の利上げ」との見方がなされるのは自然なことかもしれない。

実際には、10年国債利回りが0.2%程度上昇しても、経済活動に与える影響は限られ、金融引き締め効果が目立って出てくるわけではないだろう。日本銀行も、「0%の目標値を維持している以上利上げではない」と説明するだろうが、これまでは上限を超える利回り上昇を利上げに匹敵する措置であるかのような説明をしてきたことを、釈明することが求められる。

国債買い入れ額を抑える狙いも

今回の措置は、YCCによる長期国債利回りのコントロールが市場を歪め、また円安の加速などを生んでしまったことへの外部からの批判に応えたものと考えられる。それは、政策が生む副作用への対策でもある。

そして、今春以降に目立って増えてしまった国債買い入れ額を抑えることも狙いの一つだろう。国債買い入れ額の増加は、流動性低下など国債市場の機能の低下につながり、いずれ、日本銀行の国債買い入れの持続性にも支障を与える可能性がある。

さらに、日本銀行の長期国債保有が発行額全体の50%を超え、事実上の財政ファイナンスの性格がより強まっているとの批判が高まっていることへの対応、との側面も今回の決定の背景にあるだろう。

そもそも、2016年9月に日本銀行がYCCの導入を決めた際、その主要な狙いの一つは、長期国債買い入れ目標を停止し、長期利回りに新たな目標を設定することで、長期国債の買い入れの購入額を減らすことにあったと考えられる。実際その後は、長期国債の買い入れ額は縮小傾向を辿ってきたが、今春になって、日本銀行がYCCの運用姿勢を硬直化させたことで、指値オペや臨時国債買いオペなどを通じて、国債買い入れ額は再び大きく膨らんでしまったのである。

そこで、再び国債買い入れ額を縮小させることが今回の決定の狙いにあるだろう。1-3月期の国債買い入れ増額や本日の指値オペの実施などは、あくまでも変動幅拡大を受けた利回り上昇といった市場の過剰な反応への対応、あるいはそれをけん制する狙いのものだろう。

10年国債利回りは再び低下し、経済への影響も軽微か

市場が落ち着けば、10年国債利回りは新たな上限の+0.5%を明確に下回る水準まで戻り、国債買い入れ額を縮小できる、と日本銀行は考えているのではないか。景気減速や米連邦公開市場委員会(FRB)の利上げ姿勢の変化を受けて、今後米国の長期国債利回りが低下し、それが日本の10年国債利回りの上昇を抑えることが予想される。

変動幅拡大は事実上の利上げという受け止めがあるが、今後米国の長期国債利回りが低下し、その影響で日本の10年国債利回りも低下していけば、従来の水準からそれほど上昇することにはならず、経済などへの影響も軽微ではないか。YCCの目標である10年国債利回りは、短期金利の利上げのように、一度引き上げたらその水準が維持される訳ではない。

「事実上のYCC終了」だが新たな役割も

それよりも、今回の決定の本質は、「事実上のYCC終了」と言えるのではないか。日本銀行が2013年に「量的質的金融緩和」を導入して以降、10年国債利回りの変動幅は概ね‐0.2%~0.8%の1.0%程度である。この点を踏まえると、今回、変動幅を±0.5%、つまり合計で1.0%に拡大したことは、10年国債利回りのコントロールをかなり緩めることを意味する。このことから、今回の決定は、「事実上のYCC終了」と言ってもよいように思われる。

それでも、この先、YCCの枠組みには新たな役割が出てくる。それは、将来、マイナス金利を解除する際に、10年国債利回りが大きく跳ね上がるリスクがあるため、それを+0.5%の上限、指値オペを使って抑え込むという役割である。マイナス金利解除を受けた債券市場の過剰な反応が収まれば、YCCの枠組みは完全にその役割を終え、本当の意味で廃止されるだろう。従って正常化策のプロセスでは、マイナス金利が解除された後に、ほどなくしてYCCが廃止されるとみておきたい。

日本銀行はなぜサプライズを起こしたか

今回の措置は市場に大きなサプライズを起こしてしまった。20日の金融市場では、10年国債利回りは0.4%台まで上昇し、ドル円レートは133円台まで円高が進んだ。日経平均株価は一時800円を超える下落となった。

日本銀行は2016年のマイナス金利導入でサプライズ戦略が大きな混乱を生じさせ、強い批判を浴びたことから、それ以降、サプライズ戦略は封じ込めてきた。YCCの変動幅拡大の際には、事前にそれを示唆すると長期国債利回りがそれを先取りして大きく上昇してしまい枠組みが崩れてしまうため、事前に市場に織り込ませることは難しい、との指摘もされていた。しかし、今回のYCCの修正を事前に市場に伝えなかったのは、それが主な理由ではないのではないか。指値オペを利用すれば、事前に市場に織り込ませることで10年国債利回りが変動の上限を一気に上回り、枠組みが崩れてしまうことを回避することは可能だ。

今回、日本銀行が事前にYCCの修正の可能性を市場に伝えなかった理由は明らかでない。市場にはサプライズとなっても、日本銀行としては従来からの延長線上にあるYCCの柔軟化策に過ぎない、との説明になるのかもしれない。

あるいは、黒田総裁の任期終了が近づいてきたことで、市場に事前にゆっくりと政策の修正を織り込ませる余裕がなかったのかもしれない。2016年9月の「総括的検証」の場合には、2か月程度前、2021年3月の「金融緩和の点検」の場合には、4か月程度前に日本銀行は市場に伝えていた。そのようなスケジュールで事前予告をしていては、黒田総裁の後任人事が固まってから政策修正を行うことになってしまいかねない。そうなれば、任期終了直前の政策変更は、新体制の政策を縛ることにもなり避けるべき、という従来の日本銀行の不文律に反してしまうのである。

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