黒田総裁は、YCC変動幅拡大が利上げではなく景気にマイナスにならない、と強調(総裁記者会見)
日本銀行は20日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅の拡大を決めた。黒田総裁はその後に開かれた記者会見で、YCCの変動幅拡大策が金融緩和の修正ではないこと、出口戦略ではないことを強調したが、全体としては歯切れの悪さが際立つ説明となった。
日本銀行は、YCCの変動幅拡大による長期国債利回りの上昇は利上げに匹敵するものであり、経済に悪影響を与えてしまうとして、変動幅拡大などを通じた長期国債利回りの上昇を容認する可能性を今まで強く否定してきた。
今回の措置はそれに全く反する決定となったが、今回の措置は市場機能を改善することを狙ったものであること、この措置の結果イールドカーブの歪みが緩和されれば、金融緩和効果は高まることになる、と総裁は記者会見で説明した。また、このタイミングでの決定となったのは、国際的な金融市場のボラティリティの上昇や日本のイールドカーブの歪みが足元で再び強まってきたから、と説明した。
しかしこれでは、市場が納得するような説明にはなっていないだろう。今回の措置が景気に悪影響を与えるものでなく、むしろ景気にプラスになるとの総裁の説明について、よく理解できないとの声が複数の記者から聞かれた。
今回の決定は、日本銀行の市場とのコミュニケーションに大きな課題を残したとも言える。今回の決定は、市場との円滑なコミュニケーションを維持するために十分な準備の下で実施されたものでないことをうかがわせる。他方で、円安圧力が一巡し、日本銀行の金融緩和策への外部からの批判が緩和されてきたこのタイミングで、日本銀行が強く否定してきたYCCの変動幅拡大を決定したかは引き続き不明だ。
他方で黒田総裁は、YCCの変動幅拡大が市場の圧力を通じてさらなる変動幅拡大につながらないか、との質問に対して、海外での長期利回り上昇が一巡感を見せていることから、先行きの日本の長期利回り上昇圧力が緩和していくとの見通しがあることを示唆する発言をしている。
この点を踏まえると、変動幅拡大の決定が大幅な長期国債利回りの上昇を引き起こし、さらなる変動幅拡大を強いられるような混乱が生じるリスクを低下させる国際金融情勢になったことが、このタイミングでの変動幅拡大決定の理由であったことが推察される。
ところで黒田総裁は、春先以降の企業や家計の中長期の予想物価上昇率の上昇が、実質金利を低下させ、金融緩和効果を高めていることを指摘した。しかし、この説明は、高い物価上昇が長期化してしまうとの企業、家計の懸念をポジティブに捉えているニュアンスでもあり、今後議論を呼ぶ可能性があるだろう。
ちなみに、政府日銀の共同声明については、見直す必要はないと総裁は明言している。
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