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来年には防衛費増額に加え子ども関連予算倍増の財源議論

2022/12/21

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来年は子ども関連予算倍増の議論で紛糾か

防衛費増額の財源確保を巡る議論は、増税策の是非を巡って与党内での議論が紛糾し、実質的には結論を来年以降に先送りする結果となった。しかし来年には他の財源議論もあるため、問題はさらに累積し複雑化する。

防衛費、グリーントランスフォーメーション(GX)、子ども関連予算は、巨額の財源確保が必要な支出で、「3兄弟」とも呼ばれている。来年4月のこども家庭庁の発足に合わせて、岸田首相は子ども関連予算を「倍増」する考えを明言している。「令和版所得倍増計画」、「資産所得倍増計画」、「国防費GDP比率2倍」、「NISA倍増」に新たに加わった岸田政権が得意の「倍増」計画である。子ども関連予算倍増も、再び規模先にありきの決定であり、中身と財源の議論はそれを後追いする形となる。

財源の議論も踏まえて子ども関連予算の規模や中身も見直し、規模、中身、財源を一体で決めていくのが正しいプロセスだと思われる。しかし、防衛費増額と同様に子ども関連予算についても、規模が先に決まったうえで財源が議論され、その財源議論が大きく紛糾することが繰り返される可能性が高い。

子ども関連予算倍増は防衛費増額を上回る規模に

防衛費増額を賄うための増税案を含む2023年度与党税制改正大綱が決定された12月16日に、政府の「全世代型社会保障構築会議」は、「全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する」との副題を付けた報告書を岸田首相に提出した。そこでは、急激に進む少子化や人口減少について「国の存続に関わる問題」、「経済社会を『縮小スパイラル』に突入させる」と危機感が強調され、子育て・若者世代への支援の「急速かつ強力」な整備を政府に求める内容となっている。

給付は高齢者、負担は現役世代という現状からの転換を目指し、所得に応じた高齢者の医療負担増を盛り込んだ。ただし、子ども関連予算など少子化対策の裏付けとなる財源の議論は盛り込まれず、本格的な議論は来年夏に先送りされたのである。

子ども関連予算倍増がどの程度の規模を意味するのかは明らかではない。こども家庭庁関連の来年度概算要求額は4.8兆円であるから、それを2倍にするのであれば5兆円程度の財源確保が必要になる。ただし各種現金給付、サービスを合わせた家族関係社会支出は約10兆円に上ることから、こども家庭庁予算の倍増ではなく広義の子ども関連予算倍増となれば、10兆円程度の財源が必要となる計算だ。防衛費増額の規模は2027年度以降で4兆円程度であったが、子ども関連予算倍増はそれを上回る財源を確保する必要が出てくる。

首相は、来年6月ごろにまとめる「骨太の方針(経済財政運営の指針)」で、この子ども関連予算倍増に向けた当面の道筋を示すとしている。来年は、防衛費増額の財源議論と子ども関連予算倍増の財源議論が重なる形となり、政治的な紛糾は避けられないだろう。

防衛増税議論の紛糾で子ども関連予算倍増の財源議論も来年に先送り

報告書には出産家庭に計10万円相当を支給する伴走型相談支援「出産・子育て応援交付金」が盛り込まれた。しかしその財源確保を巡って大きな混乱が生じた。実現には毎年度1,000億円規模の財源が必要となる。そこで与党内では防衛増税に合わせて、この交付金の予算も増税で賄う案が議論されていた。しかし、防衛増税の議論が大きな混乱が生じたことから、こちらの増税議論も先送りされてしまったのである。16日に決定した2023年度与党税制改正大綱には、2024年度以降の交付金の安定財源について「早急に検討を行い、結論を得る」との一文が盛り込まれただけであった。

今回報告書で示された財源確保策は、原則42万円を50万円とする出産育児一時金の増額に回すため、75歳以上の後期高齢者の医療保険料引き上げなど、わずかにとどまった。

少子化対策は成長戦略と一体で進めるべき

こども関連予算倍増については、出産一時金増額、児童手当増額など、給付額の拡大がその中心になるとみられる。政府が新たな施策を打ち出す際には、常に新たに予算をつける、という安易な方式になりやすい。しかし、一時的な金銭面での支援だけでは根本的な対策とは言えず、出生率が上がるかどうかは不透明だ。

出生率の低下が、将来にわたる生活への不安に根差しているのであれば、経済の潜在力向上、中長期の成長期待の向上こそが、最も有効な少子化対策となるだろう。この点から、政府は単にこども関連予算を増やすだけではなく、DX戦略、GX戦略、インバウンド戦略、東京一極集中是正など様々な成長戦略を推進し、それと一体で少子化対策を進めていく、といったより包括的な考え方が必要なのではないか。

こども関連予算倍増の負担を国民が追うことを強く認識することが重要

社会保障関連での新規施策の財源は、既存予算内のやり繰りで捻出することが近年は繰り返されてきた。しかし、こども関連予算倍増の財源は、それでは無理だ。事実上の社会保障目的税と政府が位置付ける消費税の引き上げも選択肢に含めながら、相当額の恒久財源を確保することを議論する必要がある。

防衛費増額については、日本を取り巻く国際環境の変化を受けて、国民の間ではそれに賛成する比率が高い。他方、それを賄うための増税策には抵抗感が強いのが現状だ。こども関連予算倍増についても同様に、国民の支持は得られやすいが、他方でその財源については深く考えられていない。

恒久的な新規の施策は、歳出削減、増税、国債発行の3つの手段で賄うことが必要だ。どれを選ぶかは国民の選択である。歳出削減、増税によって賄う場合に、経済や国民生活に過度な悪影響を与えることが予想されるのであれば、新規施策の規模を見直すことが求められる。防衛費増額については、そうしたプロセスを通じて防衛費増額の規模や中身が再び検証されるということがなかった。この点を反省材料として、こども関連予算倍増については、規模、中身、財源を一体で決めるようにし、早期に国民的議論を始めることが必要だろう。

歳出削減、増税、国債発行の3つの手段はいずれも国民の負担になる。フリーランチはあり得ないのである。財源の議論がまとまらない中、明確に国民が選び取る形ではなく、なし崩し的に新規国債発行が財源となっていき、その負担が将来世代に転嫁されてしまうのは、最も望ましくない帰結だ。

(参考資料)
「検証:全世代型社会保障 育児支援、財源論見送り 時短者給付、効果に疑問」、2022年12月17日、毎日新聞
「全世代型社保会議が報告書 子育て支援拡充も財源不透明」、2022年12月16日、産経新聞速報ニュース
「子ども予算財源 議論停滞 防衛費優先 当初は年末結論予定」、2022年12月16日、東京読売新聞
「子育て支援、現金給付手厚く 全世代会議報告書案」、2022年12月15日、日本経済新聞電子版

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