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防衛費など歳出積み増し案件が集中する中、景気減速で中長期財政見通しが一気に悪化する恐れも(2023年度当初予算案)

2022/12/22

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2023年度一般会計総額は11年連続で過去最大を更新

政府は、12月23日にも2023年度当初予算案を閣議決定する。その中身が報道を通じて次第に明らかになってきた。一般会計総額は、2022年度当初予算の107兆5,964億円から6兆円以上増加し、11年連続で過去最大を更新する。

2023年度予算は、5年間の防衛費増額の初年度となり、防衛関連費は6.8兆円と前年度から2割以上増える。その財源として、2023年度については、特別会計からの繰入金や国有財産売却益など1.2兆円が充てられる。

ただし、2027年度時点では防衛費は4兆円程度積み増され、そのうち政府は1兆円程度を増税で賄うとしているものの、増税の具体的な実施時期などは確定せず、2023年に議論が先送りされた(コラム「与党税制改正大綱は防衛増税議論の実質先送りでなし崩し的な国債増発に道を開く」、2022年12月16日)。

来年には景気情勢が厳しさを増すことが予想されるため、増税議論は簡単にはまとまらず、さらに翌年に先送りされる可能性もあるだろう。そうした中、なし崩し的に国債発行で防衛費増額が賄われるようになる可能性がある。

社会保障費は今年度当初予算から数千億円増加して36兆円台後半に、地方交付税交付金は15.9兆円から16兆円台半ばに、国債費も24.3兆円から25兆円台前半へと膨らむ見通しだ。

今後集中する歳出積み増しの案件

さらに2024年度以降は、10年間で20兆円の政府のグリーン・トランスフォーメーション(GX)投資が始まるとみられる(コラム「カーボンプライシングをGX経済移行債の償還財源に:負担先送りと脱炭素の実効性に課題」、2022年12月1日)。また、2024年度以降にはこども関連予算の倍増計画が始められ、5~10兆円の予算増加が見込まれる(コラム「来年には防衛費増額に加え子ども関連予算倍増の財源議論」、2022年12月21日)。

これに2027年度までの防衛費積み増し分の4兆円程度を加えると、合計で29兆円~34兆円程度の巨額の歳出増加がこの先実施される計算となる。さらにこれに、毎年着実に増加する社会保障費などが加わってくるのである。

歳出積み増しの案件は中身、規模、財源の議論を並行して行う必要

歳出は急速に増加する一方、財源確保はそれに追いついていない。防衛費については既に見た通りだが、GX投資については、当面の投資を賄うGX経済移行債の発行が2023年度から始まる(5,000億円程度)一方で、それを償還する恒久財源となるカーボンプライシングの賦課金、排出量取引ともに、本格稼働するのは2030年代に入ってからとなり、そこまでは国債発行で賄う時期が長く続く(コラム「カーボンプライシングをGX経済移行債の償還財源に:負担先送りと脱炭素の実効性に課題」、2022年12月1日)。

GX経済移行債の発行と償還の間の時間差が大きくなると、途中で政府の方針が変わり、GX経済移行債の償還が停止されて通常の国債で借り換えられるようになる可能性も出てくるのではないか。そうなれば、大きな規模で政府債務が残ることになってしまう。こども関連予算についても、政府は既に倍増計画を打ち出している一方で、財源議論は来年から始まる。

こうした中、膨張する歳出に財源確保が追い付かず、なし崩し的に国債発行で穴埋めがなされるリスクが高まっているように思われる。政府は、財源が確保されない中、新たな歳出積み増しの計画を安易に乱発するのではなく、歳出の中身や規模と財源の議論を並行して行いながら、歳出増加の計画を必要に応じて見直す、あるいは優先順位をつけるといった整理が必要なのではないか。

補正予算の常態化が国債発行の増加を助長

ところで、予算編成については、補正予算で経済対策及びその他の支出を増加させることが常態化していることが問題だ。補正予算はあくまでも、当初予算編成時に予見できなかった事態への対応に限るべきだ。補正予算は当初予算よりも国民、国会の監視の目が届きにくく、審議時間も短い。それを利用して、安易な予算の積み増しを狙う傾向も見られる。もはや、補正予算は当初予算の一部になっている感もある。

2022年度当初予算の一般会計総額は107兆5,964億円だったが、その後2度の補正予算編成で、総額は139兆2,196億円まで膨らんだ。約3割の増加である。安易な補正予算編成が、一般会計規模の拡大を助長している。

さらに、補正予算編成は、国債発行の増加を助長させる傾向がある。2022年度の新規国債発行計画は、当初予算で36.9兆円であったものが、第1次補正予算で39.6兆円に、第2次補正予算では62.5兆円へと増加していった。当初予算から第2次補正予算までに、実に1.7倍にまで膨れ上がったのである。補正予算の方が、新規国債発行で賄われる割合が大きいため、補正予算編成で一般会計総額が膨らむと、新規国債発行額はそれを大きく超えるペースで膨らんでしまうのである。補正予算編成は、政府債務の増加を助長する役割を果たしてしまっている、という点からも、安易な補正予算編成を控えることが求められる。

来年は景気悪化で税収が下振れる可能性

2023年度当初予算案で、政府は新規国債発行額を35兆円台後半とする方向である。2022年度当初予算の36.9兆円から減額させ、財政規律に配慮する姿勢を見せている。しかし、当初予算の新規国債発行額だけでは、政府の財政規律、財政健全化に関する姿勢を評価することはできない。補正予算で大きく増額されてしまうからである。

さらに、2023年度当初予算案での新規国債発行額の減額は、過去最高の69兆円台となる税収見込みの高めの想定に支えられているように見える。内閣府の年央試算値によると、2022年度の名目GDP成長率の見通しが+2.1%で、第2次補正予算での税収見通しは前年度比+2.0%の68.4兆円である。この場合、成長率に対する税収増加率の比率、いわゆる租税弾性値は0.97となる。他方、2023年度の名目GDP成長率の見通しは+2.2%で、2022年度の租税弾性値を当てはめると、税収額は69.8兆円と、確かに初の69兆円台となる。

しかし実際には、2023年度の名目GDP成長率の見通しは、海外景気情勢の悪化によって、+2.2%からかなり下振れる可能性が考えられる。加えて、為替市場円高傾向が強まれば、輸出企業からの法人税収が大幅に減る可能性もある。その場合、2023年度の新規国債発行額は、補正予算を除くベースで前年度を上回る可能性が出てくる。

また景気情勢が悪化すれば、巨額の補正予算が編成され、最終的な新規国債発行額は膨れ上がって、2022年度第2次補正予算の62.5兆円を上回ることも考えられるところだ。

景気悪化で中長期の財政見通しが一気に悪化する1年にも

さらに、来年景気情勢が悪化すれば、防衛費増額の財源としての増税策の議論は再び先送りされ、こども関連予算倍増の財源の議論も先送りされてしまう可能性が出てくる。その場合、短期的に財政環境が一段と悪化するだけでなく、中長期的な歳出積み増しの財源議論が一気に委縮し、財源の裏づけがないまま歳出の積み増しだけが着実に進められていく方向が見えてくるのである。

このように、歳出積み増しの案件とその財源議論が集中する2023年度は、景気情勢次第で中長期的な財政見通しが、短期間で一気に悪化してしまう可能性がある。来年は、財政の観点からは非常に重要な節目の1年となろう。

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