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2023年度当初予算案で防衛費に建設国債

2022/12/22

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建設国債を防衛費に充てないとの政府方針が修正へ

23日に閣議決定する2023年度当初予算案で、政府は艦船など一部の防衛装備品の経費に建設国債をあてる方針を固めた、と朝日新聞が報じている。これが事実であれば、それが今後どのような波及効果を持ちうるのかについて、慎重に検討する必要があるだろう。

来年に事実上先送りされた5年間の防衛費増額の財源議論でも、一時は建設国債を防衛施設の更新、修繕などの費用に充てることが検討されていた(コラム「防衛費増額の財源に建設国債も選択肢に」、2022年12月14日)。2023年度当初予算案で防衛費の一部に建設国債が充てられれば、この防衛費増額の一部についても建設国債で賄うべきとの議論に、再び道を開くことになる可能性があるのではないか。

橋や道路のように、将来世代もそれを利用し利益を受ける歳出については、将来世代もその費用を負担するのが妥当である、との考えから、60年間で完全に償還される建設国債が充てられてきた。

防衛関連費の中には、将来世代も利益を受ける部分が全くないとは言い切れないが、それでも、防衛関連費を建設国債で賄うことを今まで政府は避けてきたのである。国債発行で戦費を調達し、戦争を継続・拡大させてきた、第2次世界大戦あるいはそれ以前の政府の政策を踏まえてのことだろう。

福田赳夫蔵相は1966年に国会で「防衛費は消耗的な性格を持つ。(公共事業のように)国債発行の対象とするのは適当ではない」と答弁した、と朝日新聞は伝えている。

拡大解釈が進んでいかないか目を光らせる必要

建設国債の対象となる防衛装備品は、運用期間が数10年間と比較的長い護衛艦や潜水艦といった防衛装備品であり、航空機は対象外になるという。しかし、技術進歩が激しいこの軍事分野で、装備品の多くは比較的早期に陳腐化してしまうものであり、60年間で完全に償還される建設国債で賄うのにはなじまない。

既に述べたように、防衛関連費の中のごく一部については、建設国債で賄うことが正当化されるものもあるだろう。しかし問題は、防衛費は建設国債で賄わないという政府が長らく堅持してきた方針を変更することが、建設国債の一段の発行拡大に道を開いてしまうリスクなのである。今回の建設国債発行は、自民党保守派が主張していると考えられるが、実現すれば、それを理由に、来年の防衛費増額でも増税ではなく建設国債の発行で賄なうべきとの議論を展開していく狙いがあるのかもしれない。

さらに、防衛関連費を建設国債で賄うことが認められれば、その他の予算項目でも、将来世代が利益を受けることから、建設国債で賄うことが妥当、との議論が安易に広がりやすいのではないか。既に、教育費を国債で賄うべきとの主張をしている野党がいる。現在の教育関連支出が将来の教育水準を高め、それが将来の経済成長を後押しすれば、将来世代もその恩恵に浴することができる、との考えなのだろう。

こうした考えをさらに発展させれば、社会保障給付のような支出であっても、社会の安定や治安の安定につながり、そうした安定した社会が将来に継承されることで将来世代もその恩恵に浴することができる、といった解釈も可能となってしまうだろう。

実際には、現在政府が行っている公共サービスの大半は、現役世代がその利益を受けており、現役世代がその対価を払うべきものだ。

政府が長らく維持してきた、防衛費に建設国債を充てないという方針を撤回することで、一気にタガが外れてしまい、多くの分野で国債発行を正当化させていくようなリスクはないだろうか。

上記のような拡大解釈が展開されていくなか、先行き、国債発行の増加が正当化され、将来世代への負担の転嫁が一段と進むようなことにならないよう、防衛費を賄う建設国債の発行が、今後の議論にどのように影響していくかについて、国民はしっかりと目を光らせておく必要があるのではないか。

(参考資料)
「自衛隊艦船に建設国債 対象拡大、護衛艦など 政府方針」、2022年12月22日、朝日新聞

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