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日銀『主な意見』にサプライズなし

2022/12/28

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12月20日の金融政策決定会合で日本銀行は、イールドカーブ・コントロール(YCC)の10年国債利回りの変動幅の上限を0.25%から0.5%へと引きあげる措置を決めた。さらに12月28日には、その金融政策決定会合の「主な意見」が公表された。「主な意見」は、金融政策決定会合で政策委員が発言した内容から、各自がピックアップしてその要旨を示すものだ。

今回の主な意見の内容は、20日の対外公表文や総裁記者会見での発言の内容を踏襲するものであった。つまり、サプライズは全くなかったのである。

一般に、日本銀行が政策の変更や修正を行う際に、本当の狙いを説明せずに、形式的な説明だけを行うことが少なくない。2016年にYCCを導入して以降は、多くの政策修正は、2%の物価目標の達成のために資するもの、との前向きの説明を公式的には行いつつも、実際には、副作用の軽減を図る事実上の正常化策が進められてきたと考えられる。日本銀行の本当の狙いは説明されないため、推測するしかないのである。

今回のYCCの柔軟化措置でも同様であるが、総裁以外の政策委員も、「市場機能の改善を狙った措置であり、金融緩和姿勢に変更はない」など、事務方の表面的な説明を受け入れ、それを主な意見に反映させているのだろう。

前回10月の金融政策決定会合の主な意見では、「企業の資金繰りの改善傾向は続いているほか、外部資金の調達環境も総じてみれば良好である」との記述があり、国債市場の流動性低下、歪みが社債発行を通じた企業の資金調達環境を悪化させるリスクへの対応といった、今回の政策修正に繋がる議論はなかった。そればかりか、むしろ逆の主旨の発言がなされていたのである。

この点から、今回の政策修正は、直前になって決まったものであるとの印象が強い。そのため、市場に地ならしをする余裕がなかったのではないか。そうであるとすれば、サプライズを意図的に狙ったものではないだろう。従って、今後も日本銀行がサプライズを狙って、予想外の政策修正を打ち出してくるということではないと思われる。

今回のYCCの柔軟化措置には、硬直的な金融政策運営が円安を加速させ、物価を押し上げたとして、今春以降、企業や国民から強い批判を受け、政府との関係も悪化したことへの対応であり、彼らとの関係修復、という狙いがあるだろう。加えて、今年4月に就任する次期総裁の下で実施されることが予想される、より明確な柔軟化、正常化策を先取りし、新体制への移行を円滑にする、という狙いもあったと思われる。これらは、次期総裁の新体制下でも引き続き政策運営に携わる事務方が、悪化した政府や国民との関係を改善しておきたい、と考えたのではないか。

ただし、黒田総裁自身はこうした考えに前向きではなく、日本銀行の事務方からの強い説得によって、直前になってようやくしぶしぶ受け入れたのではないか、とも推察されるところだ。黒田総裁がサプライズを狙って打ち出した措置、との考えは正しくないのではないか。

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