シリーズ「日銀ETF出口問題」
第1回 最初のステップとしての「凍結宣言」
これから数回にわたって、「日銀ETF出口問題」に関して取り上げていきたい。
「日銀ETF出口問題」とは、日本銀行が保有するETF(株価指数連動型上場投資信託)を将来的にどうしていくのが望ましいか、という問題である。日銀がETFの買入れを始めてから10年以上が経過した。複数回にわたる方針変更の結果、現在では新規の買い入れをほとんどしなくなったものの、直近(2022年4月30日)の保有残高は36兆円(簿価)に達している。そろそろ今後のことを真剣に考えるべき時期に来ているのではないか。
筆者は、「日銀ETF出口論議に欠ける「総論」」(「金融ITフォーカス」2021年3月号)でこの問題を一度取り上げたことがある。そこでは、「今の出口問題は個別のアイデアが飛び交うばかりで議論が成熟していないのではないか」といった問題提起を行った。それから1年以上が過ぎる中、一部の専門家から包括的で地に足のついた出口策が提案されている。本コーナーでは、それらの出口論を参照しながら、筆者なりのアイデアを提示していきたい。
最初に取り上げたいのは、東京海上アセットマネジメントの執行役員、平山賢一氏による書籍『日銀ETF問題』(中央経済社、肩書は当時)である。同著は、タイトルの通り一冊まるごと日銀によるETF買入れを取り上げている。平山氏の豊富なファンド運用の実務的知見を基に、市場参加者の視点から説得力のある主張が多数展開されているが、ここでは、本稿に関連する「出口策」にのみ焦点をあてたい。
平山氏の提案の肝は、「凍結宣言」を出すべきと主張している点にある。国債とは異なりETFには償還期限がない。このため、ETFの出口として示されている案は、「売却」を伴うものが多いのだが、平山氏はこの選択肢を最初から否定し、「売らない」と宣言すべきと主張している。
日銀が未来永劫持ち続けるべきと聞いて、驚かれる方も多いかもしれない。「中央銀行である日銀がETF保有を通じて間接的に企業の大株主となっているのは問題だ」、「価格変動リスクがあるETFなど通貨の裏付け資産としては不適切だ」といった批判は想定される。しかしながら、筆者は平山氏の「凍結宣言」は、少なくとも最初のステップの対応としては理に適っていると思う。逆に、市場に無理な売却圧力をかけてまで元の姿に戻すべきではない。
平山氏の提案をさらに見ていくと、日本銀行が 凍結宣言を出した上で、ETFの保有形態に対して変更を加えることを提案している。具体的には、集団投資スキームであるETFから、現物株式に交換した上で投資一任契約に基づく指数連動型運用に切り替えるという案だ。保有コストを5分の1~10分の1程度に節約しうる点や、議決権行使への関与などスチュアードシップ活動に対するコミットメントをより強化できるといったメリットが示されており、極めて合理的な案のように思える。
平山氏は、現物株式へ交換した後のバスケットについて、最終的に「長期成長基金」へと名称変更し、そこから得られる配当金(年間6,000億円程度)を原資に研究開発資金等に充当することを提案している。日本企業が稼いだ利益を、日本の将来の糧に使ってはどうかという提案だ。
筆者は、ETFからの収益を有効に活用しようという方向性には大いに賛同する。その上で筆者なりの考えを付け加えると、ETFをどう活用するかの判断は、日銀ではなく政府が行ったほうがよいのではないか。特定用途に対する支出の決定は、財政政策の領域だと考えるからだ。政府が日銀からETFを買い取った上で、「すぐには売却しない」と宣言する。その上で売却しないETFをどう有効活用していくかの大方針を政府で検討する、という流れを確立すべきと考える。
もっとも、一口に政府が日銀からETFを買い取るといっても、時価50兆円にも上る巨額な資産を本当に買えるのか、疑問に思う方も多いだろう。筆者はこれまで多くの方々とこの問題を議論してきたが、「財源がないから政府がETFを買い取るのは困難」と考える方はかなり多い印象だ。しかし、この財源問題に対しては、現実的な解決策が存在するのである。次回では、この点について触れたい。(つづく)
(参考文献)
平山賢一(2021)『日銀ETF問題』(中央経済社)
竹端克利(2021)「日銀ETF出口論議に欠ける「総論」」『金融ITフォーカス』(2021年3月号、野村総合研究所)
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