第2回 政府がETFを買い取る際の財源問題と現実解 -「下田私案」の貢献-
政府が日銀からETFを買い取る場合の「財源問題」を考える際、「政府が日銀からETFを買い取る時点で発生する問題」と「買い取った後に発生する問題」を分けて考えるべきである。混同されやすいのだが、両者は全く性質が異なるからだ。
このうち前者の問題に対して明快な解決策を示しているのが、一橋大学特任教授の下田知行氏(肩書は当時)が『週刊金融財政事情』(2021年8月17日号)に寄稿した論考「あらためて考える日銀ETF買い入れの意義と出口戦略」である。ここで展開された「下田私案」(下田氏が本文で命名)は、発刊後に市場関係者の間で話題になったため、記憶に残っている読者も多いのではないだろうか。
下田氏が提案する日銀ETFの出口策は、大まかにいって①処分機関として「株式等管理機構(仮称)」を100%政府出資で設立する、②機構は日銀からETFを簿価で買い取る、③買い取ったETFは一旦現物株式に交換してインデックスETFにリパッケージする、④リパッケージETFは機関投資家向けに日中平均価格で売却する(個人投資家には売らない)、というものである。今回は、財源問題と関係する①②に焦点をあてよう。
下田氏は、②のプロセスで「機構」が日銀からETFを買い取る際の原資として、交付国債もしくは日銀からの借り入れを提案している。交付国債とは国債の一種である。だが、通常の国債とは異なり、債券発行による発行収入金が発生しないため、発行時点では新規の財政赤字(新規の国債発行額)には含まれない。財政赤字にカウントされるのは、交付国債の交付を受けた者が、政府に対して償還を求めるタイミングである。
財務省の資料によれば、戦没者等の遺族に対して弔慰金、給付金などの金銭に代えて交付する国債(交付国債)が発行されている。このほか、IMFなど日本が加盟する国際機関や、日本政策投資銀行や原子力損害賠償・廃炉等支援機構に対しても発行実績がある。おそらく「下田私案」では、この交付国債を「株式等管理機構」へ交付した上で、機構と日銀が交付国債とETFを交換する流れが想定されていると考えられる。筆者も「日銀ETF出口論議に欠ける「総論」」(「金融ITフォーカス」2021年3月号)において交付国債の活用を提案したが、専門の処分機関とセットで提案している「下田私案」のほうがより具体的である。
「下田私案」におけるもう一つの財源案は、機構が日銀からの借入によって買取り資金を捻出するものである。この場合、取引は日銀と機構の二者間で完結し、細かなプロセスを省くと、日銀の資産側にある「ETF」が「機構向けの貸出」に振り替わり、「機構側」の資産に「ETF」、負債に「日銀借入」が計上されることになる。
交付国債にしろ、日銀借入にしろ、最も重要な点は、政府側で新規の財政赤字が増えないという点であり、「政府が日銀からETFを買い取るといっても、財政事情が厳しい中、どうやって買い取り原資を捻出するのか」という疑問に対する回答となる。実は、下田氏自身はこれらの手段を財源問題への回答として本文で明確に言及している訳ではない(図表に記載しているのみである)。下田氏にとっては自明のことであり、敢えて言及するほどではなかったのかもしれない。しかしながら、筆者としては多くの人が関心を寄せる財源問題に対して具体的な解決策を提示している点が、「下田私案」の大きな貢献だと捉えている。
前述の通り、この「下田私案」には続きがある。機構が買い取ったETFを、最終的にどう処理していくかに関する提案だが、次回はこれを吟味したい。(つづく)
(参考文献)
財務省『債務管理リポート2021』
下田知行(2021)「あらためて考える日銀ETF買い入れの意義と出口戦略」『週刊金融財政事情』(2021年8月17日号、金融財政事情研究会)
竹端克利(2021)「日銀ETF出口論議に欠ける「総論」」(「金融ITフォーカス」2021年3月号)
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