第3回 機関投資家はETFを欲しがるのか?
「下田私案」で提案されている日銀ETFの出口策の「続き」は、③「株式等管理機構」が日銀から買い取ったETFを現物株式に交換した上でインデックスETFにリパッケージする、④リパッケージETFは機関投資家向けに日中平均価格で売却する(個人投資家には売らない)、というものだ(①②は前回参照)。
ここでの鍵は、機関投資家に限定して売却する、という点であろう。日銀が保有するETFは、東証に上場されており、個人投資家でも買うことができる。 おそらく、既に存在するETFと機関投資家向けのETFを区別するために、③のステップが提案されていると考えられる。その上で下田氏は、可能な限り機関投資家側にメリットが出るよう、日中平均価格で売却する(④)スキームを提案している。上げ相場であれば終値が日中平均価格を上回るため投資家にとってメリットが出てくるし、下げ相場の場合には誰も欲しがらないので無理には売らないだけだ(売れない)。売却数量については、四半期ごとに設定するものの必達目標とはせず、あくまで「市場が欲する範囲での売却」というコンセプトを前面に出したものとなっている。
ここで、現実的に機関投資家はどの程度のETFを欲するのかについて、統計データを基に考えてみよう。東証が年に1回公表する「ETF受益者情報調査(分布状況調査)」の日本株指数に連動するETFの主体別保有額(2021年7月末時点)をみると、生命保険会社が7,700億円、年金信託(≒年金基金)が3億円である。他方、日本銀行の資金循環統計によれば、生命保険会社が保有する上場株式(日本株)は23兆円、年金基金は16兆円である(いずれも2021年12月末時点)。
上場株式(日本株)の保有額に比べてETFの保有額が極めて少ないのは、パッシブ運用において機関投資家が選択する手段が、ETFではなく投資一任契約であるためと考えられる。これは、本シリーズの初回で取り上げた平山氏の書籍にも記載されているが、投資一任契約のほうが議決権行使等で自らの意向を反映させやすい、管理コストが安いなど、ETFにはない魅力があるからだ。
上でみた統計は、あくまで日本国内の機関投資家に限ったものだが、それを割り引いて考えたとしても、全体で35兆円に達するETFに対して、機関投資家が購入したいと考える金額は、相当小さい金額に留まる可能性が高いのではないだろうか。
もっとも、「下田私案」は何が何でも35兆円を売り切らないといけないとは主張していない。機関投資家の需要が弱い場合は、機構が保有し続けることになるが、それはそれで仕方がないというのが下田氏の考えだろう。この解釈が正しいとすると、「下田私案」は一見すると「売却」なのだが、事実上「凍結」の要素が強い案ともいえる。
下田氏の言葉を借りれば、確かに「市場に対してフレンドリー」といえる。また、日銀は機構(政府部門)へETFを移管したので、日銀自身は株価変動リスクから解放されている。良いことばかりであり、「出口問題」はほぼ解決したようにも見えるのだが、話はここで終わらない。「別の視点」を加味して考えると、これにて一件落着とはいえない可能性が残る。(つづく)
(参考文献)
下田知行(2021)「あらためて考える日銀ETF買い入れの意義と出口戦略」『週刊金融財政事情』(2021年8月17日号、金融財政事情研究会)
平山賢一(2021)『日銀ETF問題』(中央経済社)
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