第4回 結局は日銀が持ち続けることに?
前回の終わりに、政府部門(買取専門の機関)が日銀からETFを買い取り、そのまま保有し続ける案は、市場と日銀の双方にメリットはあるが、問題も残ると書いた。具体的に何が問題かというと、政府が換金可能な金融資産であるETFを未来永劫持ち続けるという状況が、今の財政事情を勘案すると許容されないと考えたからである。
政府が保有するETFは国有財産の一種となる。財政再建論議における国有財産の位置づけは、「換金できるものは可能な限り換金し、政府債務の返済に充てる」というものだ。ただ、一口に国有財産と言っても、固定資産から金融資産まで幅広く、「何が換金可能な資産なのか」に関しては、論者によって見解は異なる。
ところが、政府が保有するETFに限れば、ほぼ異論なく換金可能性は高いとされ、「即刻売るべき」という意見が支配的になるのは明らかだろう。国民目線からみても、政府が時価50兆円の金融資産を保有した状態では、消費増税や社会保険料引き上げなど、あらゆる負担増は到底受け入れられない。したがって、財政再建論との関係で考えると、現実的には売却圧力に晒されるのではないか。
ちなみに、政府は国有財産の一環として、上場株式(日本郵政、NTT、JT)を合計7.6兆円保有している。このうち法律で定められた保有義務に相当する金額は約7.4兆円である。すぐ売却可能な金額が0.2兆円程度であることを踏まえると、時価50兆円にのぼるETFがいかに大きいかがわかる。
政府からすると、「売却圧力」と「市場への配慮」の板挟みになるくらいなら、わざわざETFを政府へ移管したくないと考えても不思議ではない。国庫側からみたお金の流れは政府に移管する・しないに関わらずほとんど変わらないからである。ここでいう「お金の流れ」とはETFの保有による分配金を指すのだが、ETFが政府(または政府出資の買取機構)に移管された場合、この分配金は国庫の歳入となる。日銀がETFを保有した場合は、分配金は日銀の収益として計上され、経費や引当金を差し引いた残りが政府の歳入に繰り入れられる。つまり、日銀の決算を経由するかどうかの違いはあるものの、最終的に国庫に分配金が入ってくるという流れに変わりはない。
繰り返しになるが、国庫に対するお金の流れが同じなら、「市場への配慮」と「換金圧力」の板挟みになるという厄介事を背負ってまで、政府は日銀からETFを買い取りたいと考えないだろう。むしろ、日銀がETFを保有したまま分配金収入を国庫納付金の形で受け取る案を選択したくなるのではないか。政府側のインセンティブを邪推して予想するとこのような展開になる可能性が高いと思うのだが、筆者は、これだけが唯一の道ではなく、他にも選択肢はあると考える。その案について、次回述べたい。 (つづく)
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