フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日本企業はどうしてDXが下手なのか?~日本に合ったDX推進の必要性~

日本企業はどうしてDXが下手なのか?

~日本に合ったDX推進の必要性~

2022/06/10

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

こんにちは、野村総合研究所(NRI)の廣田です。私は、システムデザインコンサルティング部に所属していて、DXに取り組んでいる企業に向けて、デジタル組織の立ち上げやデータマネジメントの仕組み作りといったコンサルティングを行っています。

私のデータサイエンティストとしてのキャリアがスタートしたのは7年前です。駆け出しの頃は、DXの企業現場における実務サポートを行っていました。概念実証(PoC:Proof of Concept)の中で分析モデルを構築したり、新しいサービスや業務システムのモックアップを作ったりといったものです。

当時は、ウォーターフォールに代表される従来型のシステム開発の考え方が基本となっていて、ウォーターフォールを前提にDXを進めていく必要がありました。そうした時代背景もあり、構築した分析モデルがなかなか実ビジネス・業務に活用されず悶々とした日々を過ごしていました。違う角度からの視点を求め、アメリカに赴き、デザイン思考やアジャイル開発に関する経験も積んできました。

しかし、その葛藤に苦しんだことが、コンサルタントとしては逆に成長機会につながりました。現在は、そうした経験をもとに、「地に足のついた」より実践的なDX組織のマネジメントコンサルティングを行っています。
そこで、今回は、そのときに得た学びをもとに、現状の企業課題とその背景についてお話したいと思います。

執筆者プロフィール

廣田 壮一郎:
2015年NRIに入社。アナリティクス技術を用いた業務変革やデジタルマーケティングを経験。その後、デジタル組織立ち上げやデータマネジメント設計といったコンサルティングに従事。現場の実情に配慮した机上の空論に留まらない実践的なDXプロセスの開発・普及に取り組む。

DXが不得意な日本企業

多くの日本企業がDXを積極的に推進しようとしていますが、上手くやれている企業は下図からも見て取れる様に多くはありません。米国企業に比べて、日本企業はDXが不得意のように見えますが、なぜなのでしょうか。

要因の一つとして、DX推進における慣習の違いに関する悩みをよく聞きます。米国企業の場合、失敗を『成功に向けたトライアル』と捉えていたり、プロジェクトごとに社外から専門人材を採用できる企業ルールが用意されていたりもします。一方で日本企業の場合、計画を絶対とする活動の進め方や、兼任を前提とした体制構築といった傾向があり、DX時代のサービス開発やシステム開発と相性が良くないと思われています。しかし、日本のやり方が悪い点ばかりという訳ではなく、その中で米国流を日本企業に適用するのは一筋縄でもありません。では、どうしたらよいのでしょうか。

私は、DXの方法論自体を、日本流に設計し直す必要があると考えています。そこで、日本に合った進め方としてPSG-Analyticsと名付けた方法論を纏めました。この方法論の内容については、次回の記事で紹介しようと思いますが、まず本記事ではPSG-Analyticsが解決しようとしている3つの問題点について紹介します。

  • ①IT部門の視点     :

    ウォーターフォール型しか採用できない開発プロセス

  • ②業務部門の視点:

    業務部門の技術理解度・当事者意識の低さ

  • ③経営の視点         :

    意思決定者が曖昧になってしまうほどの過度な現場主義

ここからは事例を交えつつ、問題点について解説していこうと思います。

①IT部門の視点:ウォーターフォール型しか採用できない開発プロセス

多くの日本企業では、最初にすべての要件を決めてから開発するウォーターフォール型の開発プロセスが基本となっています。しかし、DX時代のサービスやシステム開発では、市場の変化やユーザーの反応といった高い不確実性に対応する必要があるため、ウォーターフォール型の開発との相性が良くありません。無理にウォーターフォール型で進めてしまうと、不確実性に対応できないものや、不確実性を排除できる範囲での限定的なものが出来上がってしまいます。

また、せっかくPoCで良い結果が得られたにもかかわらず、開発当初の計画に書かれていないため『人が確保できない』『対象業務が広げられない』『追加予算が取れない』といった理由で、改めて計画し直すまで活動が止まってしまうケースが多々見受けられます。それでも仕切り直して活動を再開できるなら良い方で、当初の計画通りに無理やり活動を進めた結果、使うか分からないものを作ってしまうという最悪のケースに陥ることもあります。
このように、最初に決めた要件や計画を柔軟に変えられないウォーターフォール型の開発の進め方は、DXと相性が悪いのです。

②業務部門の視点:業務部門の技術理解度・当事者意識の低さ

ビッグデータ処理やAIモデルなど、DXを進める際に最先端の技術を活用するケースが増えています。最先端の技術は実現できることの幅が増えた一方で、使いこなすには、その技術の制約を理解する必要があります。

例えば、ビッグデータを処理するためにクラウド上にデータ分析モデルを構築するとしても、データをクラウド上へ連携するためには時間がかかります。今あるデータに基づいてデータ分析モデルを構築したとしても、そのモデルは用いたデータに含まれている事象にしか対応できません。つまり、モデルを構築した時点以降の最新の事象には対応できないのです。こういった制約を理解した上で、要件を決めないと、期待通りのものが出来上がらない、コストが爆発する、そもそも実現できないといったことが起きてしまいます。

こうした最先端の技術を業務部門の担当者が理解するのは確かに難しいことです。しかしながら、そもそも理解しようともしていないケースが散見されます。実際、私自身も、「業務部門の方から技術的な話は分からないから、ビジネス的な結果だけ教えて欲しい」と言われたことがあります。

これは、業務部門の担当者が悪いという意味ではありません。もともとシステム開発の世界では、技術に関することは、システム部門やITベンダーに任せる傾向があったため、それが習慣として残っているのでしょう。もちろんシステム部門も技術について説明する責任を果たす必要があります。

③経営の視点:意思決定者が曖昧になってしまうほどの過度な現場主義

日本企業は現場主義の傾向が強く、現場担当者が一番詳しい、現場担当者が言うことは正しいといった風潮があります。システム開発の場でもこの傾向が強く、現場担当者がこの業務は必要だと言うと、その業務を残す形でシステムが開発されるケースが多々存在します。
しかし、DXのX(Transformation)の「変革(現状を大きく変える)」という意味を改めて考えると、現場担当者の意見に従うことが正しいとは限りません。業務を変革させるつもりでプロジェクトを開始したのに、単なる現場改善に留まってしまう要因の一つが「過度な現場主義」だと思われます。

一般的に、現場の担当者が自らの現場を根本的に変革するのは難しく、大きな視点から変革の方向性を見定める意思決定者の存在が必要です。その意思決定者が現場担当者の意見を参考としながら最終的なOK/NGを判断すべきなのですが、実態はそうなっていないことも多いです。
担当者の所属部門長が結果を見て意思決定していると言いつつ、実は『一番詳しい現場担当者が良いと言っているから』といったこともあります。意思決定者は、過度な現場主義に引きずられることなく、変革に向けた固い意志を持って意思決定することが大事です。それができないと、変革は限られたものとなってしまいます。

まとめ

本記事では、日本流のDX推進が必要となる理由として、解決が必要と考える特徴的な3つの問題点について説明しました。次回の記事では、このような特徴を持った日本企業が、どの様にDXを進めていけばよいかについて、データ分析モデルの構築を例に述べたいと思います。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

DXブログの更新情報はFacebook・Twitterでもお知らせしています。