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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 CX(カスタマー・エクスペリエンス)向上の進め方~顧客体験の可視化と数値化のススメ~

CX(カスタマー・エクスペリエンス)向上の進め方

~顧客体験の可視化と数値化のススメ~

2022/09/01

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はじめに

皆さん、こんにちは。野村総合研究所システムデザインコンサルティング部の北村と金崎です。
今回はCXがなぜ企業にとって重要か、そして、CX向上活動を行う際の課題や進め方のポイントについて、お伝えします。

執筆者プロフィール

北村 彰子:
専門は顧客・従業員などユーザーを起点にしたサービス・システムデザイン。CX/EX/UXプロジェクトのPMO支援やデザインコンサルティングに従事。HCD-Net認定人間中心設計専門家。

金崎 千里:
UI/UX、CXを専門としたデザインコンサルティング業務に従事。最近はWebサイトのデータ分析も。日本人間工学会認定人間工学準専門家。

CXとは何か

CXとは、カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)の略語であり、いわゆる「顧客体験」です。顧客が商品・サービスを購入する前後のあらゆるやり取りが対象で、商品やサービスを利用する時の体験だけではなく、認知・情報収集・購入・契約・利用・アフターケアなど顧客と企業が接するすべての体験が該当します。顧客はその体験で得られた価値を評価します。ここでいう「価値」とは、商品やサービスの機能・性能・価格といった「合理的な価値」だけでなく、購入するまでの過程・使用する過程・購入後のフォローアップなどの一連の企業の商品・サービスと接した体験から出てくる「感情的な価値」も含まれます。

よく似た言葉にUX(User Experience)があります。UXとは、商品やサービスを利用するユーザーの体験を指しています。同じ企業が提供する商品・サービスでも、チャネルによってそれぞれユーザー体験は異なります。例えば、WEBサイトのユーザー体験、アプリのユーザー体験、商品そのもののユーザー体験などは個別のUXになります。個別のUXは狭義のUXといえます。一方、つながりを持った一連の体験全てを対象とすると広義のUXともいえます。広義のUXを企業と顧客という関係性のもとで見ると、それがCXとなります。

言葉の定義で混乱される方も多いのですが、今回お話しするCXは、顧客が企業と接した時の全ての体験からくる「合理的な価値」と「感情的な価値」を指していると捉えてください。

デジタル時代に不可欠なCX

デジタル時代以前は、企業が顧客との接点において最も重要視していたのは、集客と売上の獲得でした。そのため、マス広告を打って認知度を上げ、購入・契約にどうつなげるかに注力したマーケティング分析・施策を実施してきました。

しかし、時代の変化と共に消費者の価値観は変わり、デジタル化によって人々の生活スタイルも様変わりしてきました。特にコロナ禍においてはドラスティックな変化を見せており、この変化の波をいかに捉えるかが、企業の生き残りを左右するといっても過言ではないかと思います。

消費者の価値観で大きい変化はモノ主義からコト主義への変化です。物を所有することや、物そのものの「合理的価値」から、物やサービスの利用体験などから得られる喜びや嬉しさなどの「感情的価値」に人々の関心がシフトしていっているのです。この「感情的価値」を顧客に感じてもらうためには、企業と顧客の関係性が、「売る人と買う人」から、「共に生活するパートナー」に変わり、長期的な関係性を構築していく必要があります。マーケティングでいうと、成約(コンバージョン)ではなく、LTV(ライフタイムバリュー)をいかに向上させるかがキーとなってくるということです。

また、人々の生活にはスマートフォンをはじめとしたデジタルツールが浸透し、WEB・アプリ・SNSなどを通してあらゆる企業とのつながりができています。逆に言うと、企業にとっても顧客と接点を持てる機会・可能性が増えているということになります。従来は、オフライン上での店舗か、ホームページへの来訪時くらいしか顧客との接点がもてなかった企業でも、アプリやSNSなどあらゆるデジタルツールを活用することで、いつでもどこでも顧客とつながることができるのです。そのため、このデジタルシフトのチャンスを生かし、新たな顧客との関係性を築くことができるのかが、デジタル時代では非常に重要になっています。

実際、企業側でもデジタルシフトに対する意向は強くなっています。NRIの「ユーザー企業のIT活用実態調査(2020年、2021年実施)」によると、43.8%の企業が「商品 ・ サービスの認知向上や利用者とのコミュニケーション 、関係づくりの強化」を行うと回答しています。また、「顧客・ユーザーの体験を向上させるための取組みを行いたい」という企業は46.6%を占めるなど、半数程度の企業はCX向上が非常に重要だと感じ、何かしらの取組みをしようと考えています。
しかし、一方で、実際に何かしらに取り組んでいると回答した企業は27.3%に留まっています。CXは重要と認識しつつも、実際に取組みができている企業は少ないという現実が見えてきます。

CX向上を推進するうえでよくあるお悩み

では、なぜ企業は実際に取り組むことができていないのでしょうか。
どのような悩みを持っているのか、一緒に見ていきましょう。

①自社の客観的評価ができておらず、強み弱みが分からない

企業は、自社の顧客の声をアンケートやコールセンターから集めているものの、どうしても不満の声が集まりやすく、偏りのある声になってしまうため、客観的な評価とはいえません。また、競合企業のサイトや製品の調査はしているものの、「顧客が自社や競合を実際にどのように見ているかが分からない。」と悩んでいる企業も多いのが実情です。

つまり、個々の顧客の声への対応に終始してしまっていて、顧客全体から見た自社の強み弱みやポジションを把握できていないのです。これは非常にもったいないことです。本来は客観的な目でとらえて、まず自社を評価。そして、総合的に見てどこに手を打つべきか、どこを更に価値として訴求するべきかを見定める。その上で、効果的な打ち手を検討していった方が良いのです。

②CX全体の評価を可視化できず、費用対効果を測ることが難しい

①でも少し述べていますが、ある特定の顧客接点に対してはCS(顧客満足度)を測れていますが、点のサービス評価となってしまっていて、顧客の一連の体験を面で評価する取り組みができていないようです。様々な活動を行ってはいるが、提供サービス全体として向上しているのかどうかが分からない。結果、その費用対効果が測れないため、予算を確保することができず、継続的にCX向上のための施策を実施できなくなるといった悩みです。

実際、CXというものはなかなか計測することが難しいです。CXの全体や接点ごとに施策の効果を数値データとして測ることができるよう、目に見えるようなCX指標を持って活動を行うことが、効果的な施策を継続したり、社内での活動意義をアピールしたりするためにも重要です。
例えば、多くの企業が「会員ページの使い勝手改善」と「コールセンターの応答改善」は別々の組織で対応していると思います。しかし、顧客からすると会員ページとコールセンターは独立しておらず、「サービスを利用する」という「一連の体験」の中で使用するチャネル、くらいに認識しています。そして、その「一連の体験としての印象」が企業への総合的な印象(CX)を形成していきます。その際、CX全体として本当にプラスの改善につながったのかと、各施策がCXに対してどのように寄与しているのかを分析できないと、効果的な施策を継続的に実施していくという判断ができなくなるのです。

③大企業になればなるほど、横の連携ができない

企業では、商品・サービスの開発部門や、リアル店舗・デジタルチャネルといった販売部門ごとに、独自の商品・サービス企画や運営を行っているのが実態です。各部門で独自に改善施策を実施してしまうと、ひとつひとつの顧客接点への対策に留まってしまい、顧客の一連の体験を捉えた全体最適化が図れなくなってしまいます。 また、企業全体としてCX向上を見据えた効果的な施策を選定できません。

大企業であればあるほど縦割り文化であることが多く、全社的なCX向上活動を行うのが難しくなります。②でも述べましたが、横断的な指標をきちんと持ち、共通認識の下で、各部門の施策に落としていくということが重要です。また、CX活動を社内で広めていくためにも、権限を持ったCX横断組織を作り、スムースに推進できる組織基盤を整えることも重要です。

実際にCX向上を推進する上で、企業は、自社の商品・サービスに関わる顧客の一連の体験の流れ(カスタマージャーニー)を、オンラインとオフラインの両方で俯瞰的に把握し、総合的なCX向上に取り組む必要がありますが、上記のようになかなか難しい問題があります。しかし、個々人の生活様式や行動に応じた顧客接点を持ち続けることが、選ばれる商品・サービスの実現につながり、顧客とのパートナーシップを強くできるのでぜひともこの機を大切にし、CXの向上に取り組んでいただければと思います。

CX向上の進め方のポイント

では、皆さんがCX向上に向けた活動を行う際、どのようなステップで進めていけばよいでしょうか。また、どのような点に注意すべきでしょうか。ここでは①現状分析、②施策検討・実行、③定点調査の3ステップに分け、各々についてポイントを解説します。

①現状分析

  • 1.   

    顧客アンケートの実施

    施策を検討する前に、まず自社の現状をしっかり把握しておかなければなりません。社員の意見をもとに現状分析を行うと、どうしても業務的課題に意識が向いてしまい、なかなか顧客視点での課題が出てきません。顧客視点の客観的な現状分析を行うため、アンケートを実施し顧客自身に評価してもらうのが最適です。
    アンケート項目は複数の観点で設計し、多角的に評価・整理できるようにしましょう。例えば、販売員やカスタマーサービスの対応の丁寧さや、HPの分かりやすさ、そもそも商品(サービス)自体に魅力を感じるか等、複数の接点・観点で質問を用意しておきます。より客観的な現状分析を行うためには、他社調査も行い比較することが重要です。その際、可能であれば自社調査と同様に顧客アンケートを行うと、同じ軸で比較できるためより有用な結果が得られます。

  • 2.  

    アンケート結果の整理

    顧客アンケートの結果を、引き続き顧客目線で整理していきます。チャネルやサービスごとに分けて考えるのではなく、顧客が得る一連の体験(シナリオ)として横断的に考えることが重要です。例えば、顧客がサービスを知り、それについて調べ、購入(契約)し、実際に利用するというシナリオをベースに、各接点で登場するチャネルやサービスのアンケート結果を整理します(カスタマージャーニーマップ)。

    また、今後の活動に向け、アンケート結果はなるべく定量的に可視化するようにしましょう。組織横断的な活動が必要となった場合の共通指標として使用できます。

  • 3.  

    アンケート結果の分析

    他社調査の結果と比較し、自社の強み・弱みや業界におけるポジションを把握します。定量的・定性的データ両方を用いて、他の組織の担当範囲も含め課題を洗い出します。ここでも、あくまで“顧客目線”での課題抽出を心がけてください。

②施策検討・実行

  • 1.   

    施策の洗い出し

    ①現状分析により明らかになった課題に対し、改善に向けた施策を検討します。例えば、競合と比べ自社HPに劣っているポイントがあれば、まずはHP診断(もし自社にノウハウがない場合は、外部の専門会社へ依頼することも有効)等を行いさらなる現状分析が必要です。あるいは他社と比べほとんど優劣がなかった場合、デザインシンキングワーク等を行い、差別化となりうるアイデア創出を図ります。ここでも、チャネルやサービス単体ではなく一連の顧客体験として価値が向上するよう、組織体制にとらわれず考えることが重要です。

  • 2.  

    施策の優先順位付け

    洗い出した施策に対し、どれから実行していくべきか優先順位を付けます。より企業(またはサービス)の顧客ロイヤリティへ影響すると考えられ、かつ、現状とのギャップが大きいテーマに優先的に取り組みましょう。

  • 3.  

    他組織との連携

    自分の組織だけではできない施策がある場合、関係する組織に協力を依頼します。施策実行の必要性を理解してもらうため、アンケート結果等を用いて説明しましょう。この時、定量的なスコアおよび他社との比較結果を示すと、課題を具体的に理解してもらえるでしょう。

  • 4.  

    施策の実行

    他組織とも協力し、施策を実行します。

③定点調査

施策実行後も定期的に顧客アンケート等を行い、施策の効果や新たな課題の発生有無を確認していく必要があります。このステップにおいても、自社と併せて他社や市場に対する調査を行い、常に客観的視点でモニタリングしていくことが重要です。

おわりに

ここまで、CXの重要性や向上活動に取り組むうえでのよくある悩み、進め方のポイントについて解説させていただきました。CXは昨今注目されている領域ではありますが、具体的な方法論や成功事例はまだまだ少なく、周りから理解を得るのが難しい領域です。
しかし、CXは今後さらに重要視されていく分野です。定量的なスコアリングや組織横断連携等、本記事で述べたポイントを押さえ、顧客と「共に生活するパートナー」になれるよう努めましょう。
弊社では「CX診断メニュー」というサービスを提供しております。何から始めるべきか分からない、取り組みを行ってはいるが効果が見えない等、もしお困りのことがございましたらお気軽にご相談くださいませ。

執筆者情報

  • 北村 彰子

    システムデザインコンサルティング部

  • 金崎 千里

    システムデザインコンサルティング部

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