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中国のゼロコロナ政策が続くと日本の観光産業にどの様な影響があるか

2022/08/24

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7月26日のコラム「なぜ中国はゼロコロナ政策を止めないのか」では、中国の「ゼロコロナ」政策が今後も続くことが日本へのインバウンド観光客誘致政策へ無視できない影響を与えると述べた。
今回は、実際にどの程度の影響を与えるかを試算してみよう。
新型コロナの感染拡大が起きる前の2019年の年間訪日客は3,188万人、その中で中国からの訪日客は959万人と全体の3割を占めていた。また、「2019年観光庁訪日外国人消費動向調査」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001335741.pdf)によれば、中国からの訪日客のインバウンド消費額は1兆7,704億円であり、インバウンド消費額全体(4兆8,135億円)の約4割を占めていた。その中で訪日中国人客(クルーズ客を除く)の一人当たり消費額は212,810円となっている(図表1、図表2)。

図表1 訪日客の推移(訪日客全体と中国からの訪日客。2000年~2019年)

出所:JNTO(政府観光局)訪日外客数より野村総合研究所作成

図表2 主な国の訪日客旅行消費額(2019年)

出所:観光庁訪日外国人消費動向調査より野村総合研究所作成

このことから見て、「訪問者数も多く、落とすお金も大きい」中国からの訪日客が長期に渡り日本を訪れない場合の影響は非常に大きいことが分かる。
仮に中国訪日客がゼロと仮定した場合、他の国・地域からの訪日客が2019年時点と同じ数に回復したとしても、訪日客全体では2,229万人と、2015年(1,974万人)から2016年(2,404万人)にかけてと同じ水準に落ち込む可能性がある。もちろん、ビジネス客などは中国からも訪問することから、実際には中国からの訪日客がゼロにはならないものの、政府としての中長期インバウンド政策である「明日の日本を支える観光ビジョン」(https://www.mlit.go.jp/common/001126601.pdf)が定められた2016年にまで逆戻りすることになる。その点で、今後どのようにインバウンドを推進するか抜本的な見直しが必須となると言える。
また、中国からの訪日客が大幅に減少した場合の影響は、特に大阪府を中心とした関西地域でより一層深刻になる可能性がある。

図表3、図表4はそれぞれ、2019年における中国からの訪問客数が多い上位10位までの都道府県と、宿泊者中の中国客比率である。

図表3 中国からの推計訪問客数(上位10位までの都道府県、2019年)

出所:観光庁 訪日外国人消費動向調査およびJNTO(政府観光局)訪日外客数より野村総合研究所作成
(都道府県別の国別訪問率と中国からの訪日客数より都道府県別の訪問客者数を推計)

図表4 延べ宿泊者中の中国客比率(上位10位までの都道府県、2019年)

出所:観光庁 宿泊旅行統計調査JNTO(政府観光局)訪日外客数より野村総合研究所作成

図表3にあるように、大阪府への中国からの訪問客数は約560万人と47都道府県の中で一番多い。また、図表4からは、国内客を含めた延べ宿泊者数の13%を中国からの訪問客が占めていたことが分かる。
このように大阪府における中国客依存度は他の地域に比べても高い。仮に、今後も長期に渡り中国からの訪問客が大幅に減少した場合には、大阪府のホテルなどの宿泊業含めた観光産業全般への影響が大きい可能性がある。大阪府では、コロナ感染拡大前からホテル等宿泊施設の建設が相次いでいた。これらのホテルは2025年に開催される大阪万博などの国際イベントを見越して建設していたと言われており、2021年10月21日の「SankeiBIZ」によれば2024年から2025年にかけてホテルの開業が相次ぐとしており、中国からの訪問客が大幅に減少した場合にはこれら宿泊施設の経営計画に大きな影響があり得る。
大阪府だけではなく、関西全体で見ても中国客依存度は高い。例えば、大阪・京都・奈良の関西3府県の中国からの推計訪問客数は2019年時点で合計1,210万人(中国からの訪問客数959万人より多いのは複数府県を訪問したためと考えられる)であり、訪問客数全体の48.6%を占める(観光庁 訪日外国人消費動向調査JNTO(政府観光局)訪日外客数より)。また、総宿泊数8,090万泊の中でも中国客の宿泊数は888万泊と11.0%を占めるなど、この3府県で見ても中国人客の比率は高い。これらのことから、中国からの訪問客の減少は関西圏全体の観光産業に大きな影響を与えることとなる。

このような影響の中で、まず考慮すべき事は2025年開催の大阪万博への影響である。大阪府は、2025年に開催される大阪万博を新型コロナウイルス禍からの観光復興の起爆剤に位置付けており、大阪府観光局では2025年における大阪へのインバウンド客の目標を1,500万人としている。仮に中国からのインバウンド客の本格的な回復が2025年以降にずれ込んだ場合、2019年の中国客比率を踏まえると2025年のインバウンド客は目標の半分程度に落ち込む可能性があり、大阪府を含めた関西地域全体の観光政策の見直しを行わざるを得ない。
残念ながら、中国のゼロコロナ政策はあくまでも中国国内への対応が中心であり、日本からインバウンド客招へいなどの働きかけを行うことは難しい。
大阪万博まではまだ3年あるが、そろそろ中国からのインバウンド客が来ない場合の影響の分析が今後必要になると考えらえれる。

執筆者情報

  • 梅屋 真一郎

    未来創発センター

    制度戦略研究室長

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