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12月FOMCのMinutes-flexibility and optionality

2023/01/05

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はじめに

FRBの12月のFOMCでは、経済活動やインフレの減速を認識した上で、既往の政策効果を評価するために利上げペースを50bpに減速した。その上で、今後の物価目標の達成のために、すべてのメンバーが2023年中の利下げ開始に否定的な見方を共有した。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、経済成長率が2022年に前年より顕著に減速した後、2023年も潜在成長率以下になるとの見方を示した。

このうち、足元の家計支出は、雇用や貯蓄に支えられ想定より強いと評価した。もっとも、貯蓄は今後も消費を支えるとの見方と、低所得層を中心に急速に減速しているとの見方の双方が示された。また、数名(several)のメンバーは、多くの家計で価格の安い品目への支出のシフトや借入れの増加がみられると指摘した。

企業についても、借入れコストの上昇や成長見通しの鈍化を背景に設備投資の伸びが緩やかになっていると評価した。この間、供給制約は、輸送コストや配送時間からみて緩和の兆しがあるが、一部の財の不足は続いていると指摘した。

この間、労働市場は、失業率や雇用者数、未充足求人、賃金上昇等からみて、引続き強いと評価した。また、求人や離職の減少等をもとに、労働需給の不均衡に緩和の兆しを指摘する向きもみられたが、FOMCメンバーは依然として不均衡が大きいと評価した。加えて、数名(some)のメンバーは、早期退職や子弟のケアの困難化、交通費の上昇、移民の減少といった構造的要因によって、労働供給が制約されている可能性を指摘した。

これらの議論を踏まえて、FOMCメンバーは、景気の先行きに関する不透明性が引続き高いとの見方を共有し、多く(a number of)のメンバーはリスクが下方に傾いていると評価した。その理由としては、持続的なインフレと金融引締め、低成長の下での想定外のショック、家計や企業による経済見通しの低下等を挙げた。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、足元でのインフレの減速を歓迎しつつ、持続的に減速すると確信するためには、より十分な証拠が必要との見方を共有した。

その上で、数名(some)のメンバーは企業のmark upが縮小するには、総需要の弱い拡大の継続が必要と指摘した一方、多く(many)のメンバーが新規賃貸分の家賃の上昇率の減速を指摘したが、インフレ率への反映には時間を要するとした。また、 FOMCメンバーは、(住居費を除く)コアサービスの上昇率が高い点を認識するとともに、賃金上昇との相関が高いだけに、その減速のためには労働需要の軟化が必要との見方を示した。

この間、中長期のインフレ期待は、家計や企業向けのサーベイや金融市場の指標からみて十分安定していると評価ししつ、その維持のためには、2%目標の達成に十分な引締めスタンスの金融政策が必要との考えを強調した。

これらの議論を踏まえて、FOMCメンバーは、インフレの先行きに関するリスクが、引続き上方に傾いていると評価し、その理由として、国内で想定以上に労働市場の強さが続くことを挙げた。また、インフレの先行きに対する不透明性の要因としては、中国におけるゼロコロナ政策の変更、ロシアによるウクライナ侵攻の継続、主要な中央銀行による同時的な金融引締めといった海外要因を挙げた。

政策判断

FOMCメンバーは、2022年中を通じて、十分に引締め的な政策スタンスの実現に向けて顕著に前進した点を確認した。もっとも、インフレ率は引続き目標を大きく上回り、労働市場は非常にタイトであるとして、利上げと保有資産の削減の継続が必要との判断を示した。

また、12月FOMCでの利上げを50bpに減速することは、物価と雇用に関する政策目標の達成に向けた前進を評価するのに好適との考えを示した。

もっとも、多く(a number of)のメンバーは、利上げの減速が、インフレ目標の達成に向けたFOMCの決意の弱まり、あるいはインフレが2%目標に向けて持続的に減速するとの判断のいずれも意味しない点について、明確に対外発信することが重要との考えを強調した。

その上で、政策目標の達成に向けては利上げの継続が適切とし、今後の利上げペースを判断する上では、金融引締めの累積的な効果や政策変更が経済や物価に影響を及ぼすための時間的ラグ、経済や金融の推移を考慮することが適切とした。

一方で、インフレ率が持続的に2%を上回り、労働市場が引続き非常にタイトである点を踏まえて、FOMCメンバーの全員が、前回(9月)に比べて政策金利の予想パスを上方に修正した。

しかも、2023年中に利下げを開始することが適当と考えるFOMCメンバーは皆無であった。FOMCメンバーは、インフレ率が2%に収束するとの確信を与えるデータが得られるまで、引締め的な政策スタンスの維持が必要である点に概ね(generally)合意し、それには一定の時間を要するとの見方を示した。

また、金融政策の効果は金融市場を通じて波及するだけに、 FOMCの政策反応関数に関する誤解による場合を含め、金融環境が非合理的に緩和した場合は、物価安定に向けた金融政策の運営を複雑化するとの懸念を示した。数名(several)のメンバーは、12月のSEPに示された政策金利の予想パスのmedianは、市場の予想を明確に上回っている点にも言及した。

他方で、インフレと経済に関する不透明性が高いだけに、ほとんど(most)のFOMCメンバーは、金融政策を引締めスタンスに移行させる上では柔軟性や選択肢(flexibility and optionality)の維持が必要との考えを強調した。今後の政策判断を、新たなデータとそれらが経済活動やインフレの先行きに対して有する意味合いに即して行うことや、各会合ごとに(meeting by meeting)政策を決定する考えに対しても、概ね(generally)合意した。

最後に、FOMCメンバーは、政策運営におけるリスクマネジメントの観点を取り上げた。つまり、不十分な金融引締めによってインフレが長期化するリスクと金融引締めの累積的で遅効的な影響によって経済活動の不必要な減速を招くリスクのバランスをとる必要性を強調するとともに、インフレの上方リスクの展開が政策運営のカギとなると指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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