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ECBの12月理事会のAccounts-Financial conditions

2023/01/20

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はじめに

ECBの12月理事会では50bpの利上げを決定した。もっとも、当初は多くのメンバーが75bpの利上げを主張していたほか、政策金利の運営方針と市場の見方との乖離に関する懸念が共有された。

経済情勢の判断

レーン理事は、所得や貯蓄の下支えによって主要国の消費が堅調であったため、GDP成長率が第3四半期に底堅く推移したと評価した。もっとも、第4四半期にマイナス成長に転ずるとの見通しを維持し、製造業とサービス業の活動がともに鈍化するとした。また、雇用は拡大しているが、一人当たり労働時間の回復は限定的としたほか、失業率の高い国では未充足求人も少ないと説明した。

これらを踏まえて、景気は短期的には下方リスクが大きいと指摘し、ロシアのウクライナ侵攻の影響やエネルギーと食品の価格上昇、海外経済の減速を要因として挙げた。ただし、域内国政府によるエネルギー価格抑制策によって財政支出が想定以上に拡大し、 2023年にはユーロ圏全体のGDPの1.9%に達するなど、財政支出の寄与が長期化する可能性にも言及した。

理事会メンバーも、ユーロ圏経済が2022年第4四半期と2023年第1四半期に緩やかな景気後退に陥るとの見方に同意した。もっとも、エネルギー価格上昇に対する内需の反応やサービス需要の回復、雇用の拡大等が想定以上に強いとの見方を示した。なお、以前の理事会で議論された潜在成長率の低下リスクについては、楽観視する意見と引続き慎重な意見に分かれた。

財政支出については、脆弱性の高い部門に対象を絞るべきとの考えを確認したほか、エネルギー価格の抑制より所得補助の方がエネルギー消費の増加リスクが低い点で好ましいとの指摘があった。一方、家計や企業にとってのエネルギー価格の平準化を目指す政策は、過度に拡張的との批判に当たらないとの指摘もあった。

物価情勢の判断

レーン理事は、HICPインフレ率が減速の兆しを見せた点を確認した一方、域内国政府の対策によってエネルギー価格はさらに減速するが、過去の天然ガス価格の上昇等の波及効果が残存するため、減速は想定以上に鈍いとした。また、食品価格もコスト上昇の波及が続くとした一方、工業製品の価格には鈍化の兆しがみられる点を確認した。

この間、契約賃金の上昇は加速するとの見方を示し、主要国を対象とするECB内部の指標によれば、2022年の第1四半期に合意した賃金の上昇率は、2022年から2023年にかけて5%を超えるとの見方を示した。これに対し、基調的インフレ率の指標は概ね高水準ながら安定しているが、賃金のウエイトの大きい品目のHICPインフレ率は加速していると説明した。

これらの議論を踏まえて、物価は総じて上方リスクが大きいとの見方を確認し、エネルギーや食品の価格におけるコストの波及やインフレ期待の上方への不安定化、想定以上の賃金上昇等を要因として指摘した。また、域内国政府によるエネルギー価格抑制策の終了が見込まれる2024年には、政策の反動による価格上昇圧力が生ずるとの見方も示した。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)同意した。その上で、物価上昇圧力の拡大と継続に対してECBは説明責任を問われる状況にあると指摘したほか、インフレの基調は減速していないとの懸念を示した。その上で、エネルギー価格や為替相場等の想定を下方修正したにも関わらず、新たな物価見通しが後半の期間を中心に大幅に上昇修正された点を取り上げ、その主因が内需要因や既往のコスト上昇の波及効果にある点を確認した。

また、二次的効果に対する賃金上昇圧力の重要性を確認するとともに、労働市場のタイト化とともに、雇用者報酬が契約賃金を上回る伸びを示している点や生産性の低下とともにULCが顕著に増加している点を指摘した。さらに、物価上昇の持続性に対する財政政策の重要性も確認したが、物価上昇の加速リスクを懸念する見方と時間の経過とともに減衰するとの見方に分かれた。

この間、長期のインフレ期待については、多くの指標が2%近傍で安定しているとしつつも、上昇リスクへの懸念を示し、特に長期にわたる高インフレの継続に伴う家計への影響に言及した。

政策判断

レーン理事は、ECBが既に200bpの利上げを行った点を踏まえ、今後に向けて持続可能なペースとして50bpの利上げを提案した。また、50bpの利上げは、経済の不確実性に対する考慮や、 TLTRO IIIの返済を含む資金供給の縮小への配慮、既往の利上げの経済や物価への影響の評価の面でも適切と主張した。

これに対し理事会メンバーの多数(a large number)は、当初は75bpの利上げを主張し、高インフレが想定以上に継続し、なお緩和的な金融環境が物価目標の達成とは整合的でない点を理由として挙げた。加えて、利上げを50bpに減速した上でメッセージで補完するより、75bpの利上げの方が単純と主張した。

その後、75bpの利上げを主張したメンバーの一部(some)は、メッセージの強化を多数のメンバーが支持するのであれば、 50bpの利上げに同意しうるとした。この結果、大多数(a broad majority)のメンバーは、50bpの利上げとメッセージの強化の組み合わせに同意した。また、こうしたメンバーは、QTの開始(下記)を念頭により慎重な利上げが適切と主張した。

その上で、メッセージの内容については、①今後も顕著な利上げが必要、②政策金利は引き締め領域に達することが必要、③市場が予想するよりも長期にわたって政策金利を引き締め水準に維持することが必要、の3点とした。

それでも、一部のメンバーは緩和的な金融環境へのより直接的な対応として75bpの利上げが適切と主張するとともに、メッセージの強化は利上げ幅縮小の代替にならないと反論した。

一方、レーン理事はAPPに伴う保有資産の削減を、慎重かつ予想可能なペースで運営する方針を示すとともに、2023年3月から9月末までは減少額の上限を150億ユーロとすることを提案した。

理事会メンバーも幅広く(widely)同意した上で、数名(some)のメンバーは、買入れ時に比べて少額な削減である点や、民間投資家は市場で資産を吸収しうると考え、より速いペースでの削減を主張したのに対し、別なメンバーは金融市場の分断のリスクを指摘した。この結果、150億ユーロの縮小ペースは6月末までとし、その後については改めて検討することで同意が成立した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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