FRBのパウエル議長の記者会見-Core service prices
はじめに
今回(2月)のFOMCは、利上げペースを25bpへとさらに減速することを決定した。パウエル議長は、財価格上昇の減速を歓迎しつつも、(住居費を除く)サービス価格の上昇が減速するには時間を要するとし、十分な引締めに向けて利上げの継続が必要とのスタンスを維持した。
経済情勢の判断
パウエル議長は、冒頭説明で2022年の経済成長が低位に止まった点を確認し、住宅投資や設備投資といった金利感応度の高い部門に加えて、個人消費にも金融環境のタイト化の影響が顕在化しつつあるとの見方を示した。もっとも、雇用の拡大は減速しつつも継続し、未充足求人も依然として高水準であるなど、労働市場の不均衡は続いていると指摘した。
質疑では、複数の記者が景気後退のリスクを質した。これに対しパウエル議長は、12月時点のSEPでも2023年の経済成長率は極めて低位との予想が大勢であった点を認めつつ、景気後退がメインシナリオではない点も確認した。また、その後にも海外経済の見通しが好転していることや、政府の財政支出の下支えも実現するなど、景気を巡る環境は好転しているとの見方も示した。
また、雇用や賃金が底堅く推移しているのに家計のマインドが軟化しているのは高インフレによる面が大きいとの理解を示し、インフレが減速すれば、マインド面からも消費が下支えされるとの期待を表明した。
物価情勢の判断
パウエル議長は、PCEインフレ率が直近3か月で明確に減速した点を確認したほか、賃金上昇の減速やインフレ期待の安定といった好材料を挙げた。もっとも、インフレ率が目標に収斂すると判断するにはより十分な証拠が必要と指摘した。
また、パウエル議長は、物価が主要な項目の間で異なる動きを示しているとの理解を質疑の中で再三強調した。つまり、財価格の上昇は供給制約の緩和によって明確に減速しているほか、住宅価格の上昇も減速しているので住居費への波及が期待される一方、住居費を除くサービス価格の上昇が続いている点である。
その上で、住居費を除くサービスでも、飲食や交通はエネルギーや食品の価格に影響されるなど価格上昇の要因は多様である点を認めつつ、賃金上昇に影響される面が大きいとの理解を示し、インフレの抑制には賃金上昇の減速が必要との理解を確認した。
質疑では、複数の記者が労働市場の見通しを質した。パウエル議長は、雇用の拡大が底堅いほか、離職者も傾向が明確でないと指摘したほか、雇用コスト指数を含めて賃金上昇には減速の兆しもあるが、まだ上昇率は高いと指摘し、慎重な見方を維持した。
さらに、金融市場ではインフレの抑制には労働市場の顕著な悪化が不可避との見方が強いとの指摘に対しては、パウエル議長は、今回のインフレ圧力は供給制約と総需要の急速な回復による総需要の不均衡によって生じた面が強いとの見方を確認しつつ、前回(12月)のSEPでは失業率の上昇は限定的との見方が強かった点に言及し、FOMCと市場の見方が異なることを認めた。
もっとも、パウエル議長も、サービス価格を中心に残存するインフレ圧力の抑制にどの程度の時間を要するかは率直に言ってわからないと説明し、次回(3月)のFOMCでのSEPの改訂に向けて多様な指標を注視する姿勢を示唆した。
政策判断
今回(2月)のFOMCは、FFレートの誘導目標を25bp引上げ、 4.5~4.75%のレンジとすることを決定した。パウエル議長は、利上げペースのさらなる減速は政策効果を評価する上で良い機会を提供するとの見方を示した。
その上で、一連の利上げが効果を発揮するには時間を要し、先に説明した景気や物価への影響も初期段階であるとの見方を示し、今後も利上げを継続して十分に引き締め的な水準に引き上げるとともに、それを維持することが必要とのスタンスも確認した。
質疑では、複数の記者が、利上げの継続に関わらず、足元で長期金利が軟化し株価が上昇するなど、金融環境がむしろ緩和している点を取り上げた。この点は、前回(12月)の議事要旨でも指摘されていた点である。
パウエル議長は、金融環境が政策スタンスと整合的であることが望ましい点を確認した一方、金融環境の適否はより長い目で判断すべきとしたほか、金融環境が金融政策以外の要因にも左右される点に言及した。
別の複数の記者は今後の利上げペースを取り上げ、前回(12月)のSEPで示した見通しは現在も妥当かという点や、FFレートの先物等が示すように金融市場は次回(3月)にも利上げ停止との見方がある点を指摘した。
パウエル議長は、上に見た政策金利の運営スタンスを確認したほか、物価安定との闘いに勝利したと宣言するのは時期尚早との考えを示しつつ、次回(3月)には新たな経済指標やその意味合いを評価した上で政策金利の新たな見通しを示すとの事実を説明するに止めた。
また、少なくとも現時点では、住居費を除くサービス価格の先行きが不透明であるだけに、FOMCとして過度な利上げのリスクと利上げが不足するリスクの相対関係を評価することは難しいと認めたほか、いったん利上げを停止した上で、状況によって再開することも含めて多くの選択肢があるが、現時点では特定のシナリオを想定している訳ではないと説明した。
さらに、政策金利の先行きについてFOMCと市場との見方が分かれている点については、FOMCは、低成長の下でも労働市場が底堅さを維持し、物価上昇圧力が残存するとの見方にあるのに対し、金融市場は、足元のインフレ率の減速を踏まえて、物価上昇圧力が迅速に減退するとの見方にあるとの理解を示した。
このほか、質疑の中では、別の複数の記者が連邦政府の債務上限の動向が与える影響を取り上げた。
パウエル議長は、議会が適切に議論して債務上限を引き上げることが重要であり、それ以外の選択肢がとられた場合は金融経済にリスクを生ずると指摘した。また、FRBによる保有国債等の削減(量的引締め)に大きな影響を及ぼす訳ではないとしつつも、政府預金の大きな変動等が金融市場に与える影響を注視する必要があると説明した。
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