ECBの2月理事会のAccounts-Soft landing
はじめに
50bpの利上げを決定したECBの2月理事会では、景気の予想外の底堅さを確認した一方、インフレ圧力の波及メカニズムや政策金利の先行きに関する予告のあり方が焦点となった。
経済情勢の判断
レーン理事は、ユーロ圏経済が前回(12月)の見通しに比べて堅調に推移している点を確認した。なかでも、家計はエネルギー価格の軟化によってマインドが改善し、雇用や賃金の上昇と域内国政府の支援策によって恩恵を受けているとの見方を示した。もっとも、企業の設備投資は金融環境のタイト化によって減速し、財の生産も資本財を中心に供給制約の影響が残存しているとした。
理事会メンバーも、こうした評価に同意し、企業には高インフレと金融環境のタイト化等が逆風となっているが、供給制約の改善やガス供給の確保などの好条件が働いているとの見方を示した。このため、消費の堅調さもあって、ユーロ圏経済が景気後退を回避しつつsoft-landingに成功する可能性を示唆した。
また、域内国政府によるエネルギー価格の抑制策は一時的かつ焦点を絞り、エネルギー消費の抑制に資するものとすべきとの意見で一致し、エネルギー価格の軟化を踏まえて適切に縮小すべきとの考えを示した。
これらの点を踏まえ、理事会メンバーは景気の先行きに関するリスクは上下によりバランスしたと評価した。下方要因としては、ウクライナ戦争の影響や海外経済の減速、Covid-19感染の再拡大等を挙げた一方、上方要因としては、エネルギーショックの迅速な解消と新たな環境に対するユーロ圏企業の早期の適応を挙げた。
物価情勢の判断
レーン理事は、ユーロ圏のインフレ率が依然として極めて高い点を確認しつつ、インフレの基調には頭打ちの兆しもある点を指摘した。もっとも、食品では、輸入価格や生産者価格の減速に関わらず、加工食品の価格はなお上昇しているほか、食品を除く消費財の生産者価格も上昇するなど、インフレ圧力は依然として波及過程にあるとの懸念を示した。
賃金も、既往の物価上昇の補償が交渉の焦点となる下で高い伸びを示し、ECBのサーベイ調査によれば、2023年の上昇率は5%に達するとの見方を示した。もっとも、レーン理事は、こうした動きは前回(12月)の見通しと整合的であると付言した。また、中長期のインフレ期待も、市場ではやや低下し、SPFはやや上昇したが、総じて2%近辺にアンカーされていると評価した。
理事会メンバーもこうした評価に同意した一方、コアインフレ率の減速のみに過度に注目することの問題も指摘され、インフレ基調の判断には、より広範な指標の評価が必要との意見が示された。
また、エネルギー価格の軟化に伴うインフレ率への波及については、食品などは依然として既往のインフレを上方に織り込む過程にあることや、賃金でも契約期間にラグがあることから、エネルギー価格の上昇局面に比べて波及ペースは遅いとの見方が示された。一方で、エネルギーを除く工業製品の価格は既に顕著に減速したほか、コアインフレ全体も対前四半期のベースでは減速している点などをもとに、より迅速な波及に対する期待も示された。
なお、中国のゼロコロナ政策の転換については、中国からの輸出増による国際的な財価格への下落圧力と、国際商品需要の増加によるインフレ圧力の双方の可能性が指摘された。
理事会メンバーは、インフレの二次的効果を理解する上で賃金が重要である点を確認し、足元の賃金上昇の加速がタイトな労働市場を反映したものとの理解を示した。ただし、転職者がより高い給与を享受できるのは生産性向上に寄与しうるためであり、必ずしも物価上昇にはつながらないとの指摘もみられた。
また、足元の賃金上昇は既往の物価上昇を補償する動きであるほか、企業のunit profitも強く増加しているだけに、企業はコストを価格に転嫁できているとの理解も示された。
これらの議論を踏まえ、理事会メンバーは、インフレの先行きに関するリスクは短期において上下によりバランスしたと評価した。上方要因としては、既往のコスト上昇の波及、中国の想定以上の景気回復、インフレ期待の上昇や賃金上昇の加速等を挙げた一方、下方要因としては、エネルギー価格の軟化の継続や総需要の想定以上の停滞を挙げた。
政策判断
理事会メンバーは、政策効果の時間的ラグを考慮すると、足元のインフレの減速は金融引締めによるものではなく、粘着性の高い領域ではコスト上昇のインフレへの波及には不透明性が高いとの見方を示した。また、2025年にインフレ率が2%に収斂するとの見通しは、市場金利の上昇、ユーロ相場(NEER)の増価、エネルギー価格の顕著な低下が条件である点も確認した。
その上でレーン理事は、50bpの利上げと今後の利上げ継続を提案するとともに、理事会としては堅調なペースで顕著な利上げを行うと同時に、インフレを2%目標にタイムリーに収斂させるために十分に引き締め的な水準に政策金利を維持すべきとの考えを確認した。その上で、次回(3月)の理事会でも50bpの利上げを行うとともに政策効果を評価するとの予告を行う考えを示した。
理事会メンバーも幅広く(broadly)同意した一方で、どの水準の政策金利であれば過度に引き締め的と評価しうるかは、複雑かつ不透明であるとの見方を示した。併せて、現在の政策金利は概ね中立的であり、ECBによる大規模な債券保有が金融緩和効果を有している点を確認した。
また、3月会合に関する予告についても幅広く(broadly)合意したが、過度な引締めの防止に注意が必要な水準が近づいている点や、物価の先行きに上下双方のリスクがある点を踏まえて、慎重さが必要との指摘もみられた。これに対し、予告の内容は意向の表明であってコミットメントではなく、3月会合で新たな情報に基づく政策金利の変更を妨げるものではないとの指摘もあった。
一方、レーン理事は、APPによる保有資産の削減を予定通り3月から開始することを提案し、透明かつ単純で資産クラスに関して可能な限り中立的に行う方針を確認した。
これに対し、理事会メンバーは幅広く(widely)合意し、6月までの間は償還額が少ない点も踏まえて、上記の運営方針の重要さを確認したほか、長い目で見て慎重かつ予見可能な形で保有資産の削減を図るべきとの考えを示した。
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