FRBのパウエル議長の記者会見-Credit condition
はじめに
FRBは今回(3月)のFOMCで25bpの利上げを決定した。パウエル議長は、一部の銀行の経営破綻に関わらず銀行システム全体は安全である点を強調した一方、信用条件のタイト化に伴う経済への影響は不透明性が高いとの慎重な見方を示した。
経済情勢の判断
パウエル議長は経済活動の減速を確認し、足元の消費の底堅さも天候要因による面が強いとの見方を示した。もっとも、労働市場は雇用や失業率の面で依然として強く、未充足求人は減少傾向にあるが、労働需給の改善にはなお時間を要すると説明した。
今回改訂されたSEPの下での実質GDP成長率見通しは、2023~25年にかけて+0.4%→+1.2%→+1.9%となり、2023~24年が各々0.1ppと0.4ppの下方修正となった一方、2025年は0.1ppの上方修正となった。パウエル議長は、2年連続で潜在成長率を下回るとの見方である点を説明した。
質疑では、多くの記者が銀行破綻による経済への影響を質した。これに対しパウエル議長は、声明文に明記されているように、家計や企業にとって信用条件がタイト化することで、実体経済に影響が生じうるとの見方を示した。
また、最終的に米国経済がソフトランディングする可能性はあるが、現時点では銀行破綻によるストレスの継続性や深刻さの面で不透明性が高いため、実体経済への影響度合いを予測することが困難である点も認めた。さらにパウエル議長は、今回の経済見通しにはその影響が十分反映されていない可能性も示唆した。
物価情勢の判断
パウエル議長は米国のインフレ圧力が依然として高く、特に住居費を除くサービスの価格上昇が、賃金上昇の影響もあって減速の兆しが明確でない点に改めて懸念を示した。もっとも、中長期のインフレ期待は様々な指標からみて安定しているとの理解を示した。
今回改訂された新たなSEPの下でのコアPCEインフレ率見通しは、2023~25年にかけて+3.6%→+2.6%→+2.1%となり、2023~24年が各々0.1pp上方修正された。質疑の中でパウエル議長は、過去の景気拡大の多くが物価安定を伴ったと説明し、中長期的には物価と景気のトレードオフは生じないとの見方を示した。
金融政策の運営
今回(3月)のFOMCは25bpの利上げを全会一致で決定し、FF金利の誘導目標は4.75~5%となった。パウエル議長は、景気や物価が想定を上回って推移したが、銀行破綻の影響は不透明と指摘し、利上げ幅の選択は両者の要素を勘案した結果であると示唆した。
また、今回の声明文は今後の利上げに関して、従来のように「利上げの継続が必要(ongoing increases in the target range will be appropriate)」との表現から「幾分かの利上げが必要となる可能性(some additional policy firming may be appropriate)」へと改訂された。実際、今回改訂された新たなdot chartによれば、大多数(10名)が2023年末の政策金利を5.125%と予想し、今後に25bpの利上げを1回行うとの見方を示唆している。
パウエル議長は、2%のインフレ目標の達成と中長期のインフレ期待の安定のためには政策金利を十分に引き締め的な水準にすることが必要との方針を確認した一方、銀行破綻による影響は利上げと同様な効果を持ちうるとして、政策金利はそうした影響を考慮して運営する考えを示した。
また、パウエル議長は、金融環境(financial condition)に関する通常の指標は家計や企業が直面する信用条件(credit condition)を十分考慮していないとの理解を示し、銀行貸出の状況を特に注視する必要性を指摘した。
質疑では、金融市場で2023年中の利下げ期待が強いことが取り上げられたが、パウエル議長はdot chartが示唆するように、そうした予測はFOMC内では共有されていない点を確認した。
さらに、記者からは、FRBが実施している銀行向けの資金供給が、保有資産の削減(QT)と矛盾しているのではないかとの指摘もあった。
パウエル議長は長期金利を通じて経済に影響を与える量的緩和(QE)と今回の危機対策は目的が異なる点を確認した上で、危機対策に伴う資金供給は銀行間での当座預金の偏在につながるものではないとの見方も示し、QTの継続に支障が生ずる訳ではないとの理解を示した。さらに、今回の会合ではQTの運営に関する議論はなかった点も付言した。
金融安定とFRBの対応
今回の質疑では、当然に予想されたことだが、多くの記者が米国の銀行システムの状況や展望を取り上げた。
パウエル議長は、米国の銀行は全体としては自己資本や流動性が潤沢であり、銀行システムが健全かつ頑健である点を再三強調した。また、破綻した銀行は金利や流動性のリスクを適切に管理していなかった例外的なケースであるとの理解を強調した一方、破綻した以外の数行の銀行についても監視が必要となっている点も認めた。
また、米国の金融システムにとってのリスク要因として、商業不動産価格の調整にも注意すべきとの考えを示したほか、今回の銀行破綻では預金者の属性を反映して、監督当局が想定したよりも急速な預金の流出が生じた点も教訓として指摘した。
その上で、多くの記者は破綻した銀行に対するFRBの監督が不適切であった可能性を取り上げた。
パウエル議長は、FRBが当該銀行にどう対応してきたか、どのような対応が可能であったかといった点について、バー副議長(銀行監督担当)の下でレビューを進めていると説明し、来週開催される議会の公聴会で結果を報告する考えを示した一方、現時点ではレビューの内容を説明しうる状況にないとした。
今回の危機対策については、預金者の全額保護やFRBによる資金供給ファシリティの妥当性についても質問があった。
パウエル議長は、預金の保護はFDICが行うものであり、米国当局がこうした手段を具備していることは重要との説明に止め、妥当性に関する言及を避けた。一方で、資金供給ファシリティはシステミックリスクの顕現化を防止するものであり、連銀法13条の3の要件を満たすとの理解を示した。
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