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3月FOMCのMinutes-Prudent decision

2023/04/13

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はじめに

25bpの利上げを決定した前回(3月)のFOMCでは、インフレの減速が予想以上に遅い点に懸念が示された一方、会合直前に生じた一部の銀行の経営破綻が企業や家計に対する信用収縮をもたらすリスクが共有された。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、経済活動の緩やかな拡大が続いている点を確認した。

このうち消費は、雇用の力強い拡大、実質購買力の改善、コロナ期の超過貯蓄の取り崩し等によって、足元で増勢を回復したと評価した。もっとも、設備投資は累次の利上げによる金融環境のタイト化を主因に減速しているとの理解を示した。

この間、労働市場は引続き極めてタイトと評価したが、離職率の低下、prime ageを中心とする労働参加率の回復等を映じて、需給の不均衡に改善の兆しがあるとの理解も示した。

一方、銀行破綻の影響については、今後の展開に不透明性が高い点を認めつつ、一部の銀行が資金調達コストの上昇や流動性リスクの上昇を背景に貸出姿勢をタイト化する可能性を指摘した。

これらを踏まえ、足元の指標が想定以上に強い一方で、銀行問題が経済活動に与える影響も考慮すると、本年の実質GDP成長率は潜在成長率を大きく下回るとの見方を維持した。また、今後のリスクは下方に傾いていると評価し、信用収縮の影響やウクライナ戦争の深刻化を要素として指摘した。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、インフレの減速が予想以上に遅いとの見方を示した。

このうち、コア財価格は供給制約の改善を背景に上昇が鈍化したが、減速ペースも鈍化したと評価した。また、住居費は一段の減速が見込まれるとしたが、コアサービス価格の上昇には変化がない点を確認し、その沈静化には労働需給の改善や賃金上昇の減速が必要との理解を共有した。

この間、企業や家計の短期のインフレ期待はさらに低下した一方、中長期のインフレ期待は安定していると評価した。

一方、銀行破綻の影響については、信用収縮によって総需要が抑制されれば、物価上昇圧力の抑制につながるとの見方を示した一方、効果の大きさには不透明性が高い点も確認した。

これらを踏まえ、足元の物価指標が予想以上に強いとして、総需要と総供給のバランスを改善するには、潜在成長率を下回る成長が必要との見方を確認した。もっとも、今後のリスクは総じて上方ながら下方の要素も生じたとの認識を示し、前者は労働市場の予想以上の底堅さ、後者は信用収縮の影響を挙げた。

金融システムの評価

会合の冒頭では、バー副議長(金融監督担当)が、銀行システムの現状やFRBを含む監督当局の対応等を説明したが、米国の銀行システムが健全性と頑健性を維持していると評価した以外の内容は、議事要旨には記載されていない。FOMCメンバーは、銀行システムのストレスが沈静化した点を評価したが、今後の展開には不透明性が高いとの理解も共有した。

一方、執行部による金融環境の定例説明では、銀行破綻の発生後に、国債利回りや政策金利の見通しが低下したほか、大口預金への依存度や証券の含み損の大きい銀行の株価下落、CPとCDの利回りスプレッドの拡大等が生じた点を指摘した。

このほか、FHLBが加盟銀行の資金ニーズに対応するためFF市市場での運用を顕著に減少させた一方、レポ市場の取引は堅調であった点、Prime MMFから資金が流出した一方、Government MMFには資金が流入した点なども報告した。

その上で、執行部は、現時点では企業や家計は総じてみれば資金調達源へのアクセスが可能と評価したが、FOMCメンバーは、先に見たように信用収縮を招く可能性を指摘した。

金融政策の運営

前回(3月)のFOMCは、足元のインフレ率が高いだけでなく、2%目標に収斂するのに十分な程の減速がみられない点を主因に25bpの利上げを決定した。

もっとも、数名(several)のメンバーは、累次の利上げの効果に加えて、銀行破綻の影響を評価する上で有効との理由で、政策金利の現状維持も検討した。もっとも、FRBを含む監督当局の対応で事態が鎮静化し、経済や物価への短期的な影響が回避されたとして、結局は25bpの利上げに同意した。

これに対し別の数名(several)のメンバーは、高インフレの継続に加えて、足元の経済指標が強い点を理由に、銀行破綻がなければ50bpの利上げが適当であったと指摘した。もっとも、信用収縮が経済や物価に与える影響を考慮すると、25bpの利上げが適切(prudent)と判断した。

FOMCメンバーは、今回の問題はリスク管理が不適切な少数の銀行のみに該当し、銀行システム全体は健全かつ頑健であるとの見方を共有した。その上で、FRBは、銀行システムのストレスへの対処や金融安定のリスクの抑制には、LLRを含む流動性供給の手段とミクロおよびマクロのプルーデンス政策を行使すべきとの考えを強調した。

その上で、インフレの高さや労働市場のタイトさを踏まえると、今後も幾分かの金融引き締め(some additional policy firming)が必要との見方を示した。ただし、多く(many)のメンバーは、信用収縮の経済や物価に対する影響を考慮すると、インフレ目標の達成に十分な金融引締めの水準は、以前の想定より低下するとの見方も示した。

今後の政策運営についてはリスクマネジメントの観点が取り上げられた。なかでも、数名(some)のメンバーは信用収縮の経済や物価への影響に関する下方リスクの上昇を挙げた一方、別の数名(some)のメンバーは高インフレや経済指標の強さをもと物価の上方リスクを挙げた。さらに、数名(several)のメンバーは高インフレの継続によるインフレ期待の不安定化のリスクを挙げた。

これらの議論を踏まえ、FOMCメンバーは、今後の経済指標や見通しに対するリスクを踏まえて、適切な政策スタンスに関する見方を柔軟に調節する用意を有することの重要性を共有した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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