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SVBに対するFRBの監督と規制のレビュー

2023/05/01

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はじめに

米国のシリコンバレーバンク(SVB)の破綻では、金利と流動性のリスク管理の不備という基本的な問題が主因であっただけに、主たる監督当局としてのFRBの責任を問う声が多い。このため、バール副議長(金融監督担当)の下で、SVBに対する監督や規制に関する組織横断的な調査が実施され、4月28日に報告書が公表された。全体で約110ページに達する大部のため、本コラムでは焦点を絞って内容を検討する。

レビューの主な収穫

報告書の冒頭では、レビューの収穫を、①SVBの取締役会や経営層がリスク管理に失敗、②SVBの規模や複雑さの拡大に関わらずFRBは脆弱性を適切に評価せず、③FRBは脆弱性を認識した後も問題解決に十分な手段を講じず、④銀行規制の改正等に伴うFRBのスタンスの変化が監督を阻害、の4点に集約している。

このうち①では、SVBの総負債が大口預金の流入を主因に2019年から2年間で3倍増となった後、2022年から金利上昇に伴う預金の継続的な流出と保有証券の含み損が生じたにも関わらず、経営陣が有効な対応を講じなかった事実を確認している。

また、3月9日だけで預金流出が400億ドルに達し、同行の経営陣は翌日には1000億ドルもの預金流出を想定していた(合計は総預金の85%に相当する)ことは、同報告書が説明するように2008年のワコビアやワシントン・ミューチュアルのケースと比較して桁違いの大きさやペースであった点は改めて印象的である。

しかし、本報告書の主眼はSVBに対するFRBの監督や規制の運営にあるので、以下では上記の②~④について検討する。

規模拡大への対応

報告書によれば、SVBの持株会社であるSVBFGは、2021年に総資産100~1000億ドルの地方金融機関(Regional Banking Organization:RBO)のカテゴリーから、総資産1000億ドル以上かつG-SIBs以外である大規模および海外金融機関(Large and Foreign Banking Organization:LFBO)のカテゴリーにシフトした。

その時点で、FRBによるガバナンス、流動性、資本の各項目の評価はSatisfactory-2に据え置かれ、最後の評価となった2022年8月にガバナンスのみがDeficient-1に格下げされた。

報告書が指摘するように、SVBのビジネスモデルを考えると、カテゴリーのシフト前により精緻な評価が行われるべきであったが、実務にはRBOの担当者だけでなくCBO(総資産100億ドル未満のコミュニティ金融機関:Community Banking Organization)の担当者も加わるなど、経験不足の問題が生じていた可能性を示唆している。

実際、SVBは金利リスクだけでなく流動性リスクについても、組織内でのストレステストをクリアできない事態が度々生じていたにも関わらず、FRBが上記のように評価を維持したことは、報告書も認めるように、SVBによるリスク管理強化のインセンティブを阻害する結果を招いた。

監督対応の遅延

報告書は、2022年にはSVBの状態が悪化を続けたにも関わらず、 FRBが十分なエビデンスの収集を優先し、監督上の有効な措置を取らなかった事実を指摘している。実際、SVBFGに対する非公式な監督上の措置であるMOUの策定には7か月を要し、実際の発出がSVBの破綻に間に合わなかったという象徴的な事実も明らかにしている。

その上で報告書は、対応の遅延を単一の理由に帰することはできず、多様な要因が複合的に関与したとの解釈を示している。

具体的には、SVBFGがRBOからLFBOカテゴリーにシフトした際には、監督チームも8名から20名に増強されたが、新チームが前チームの評価を所与(default)として受け入れた点や、 SVBFGが組織内での流動性リスクのストレステストをクリアできなかった点を、SVBFGの経営層だけでなくFRBも技術的な問題と解釈したこと(FRBによるRegulation YYを実質的に違反したことを意味する)を挙げている。

一方で、理由の一端がFRBのガバナンスにある可能性も認めている。SVBFGなどへの監督は、FRB(ワシントン)が地区連銀(この場合はFRBSF)に委任する。しかし、個別銀行の評価の変更にはFRB(ワシントン)の助言を仰ぐのが一般的であり、総資産1000億ドル以上の銀行に対する監督措置はFRB(ワシントン)の承認が必要となる。こうしたプロセスや合意形成に時間を要することも、遅延につながった可能性があるとしている。

銀行規制の改正等

米国のドッドフランク法は、2018年に「経済成長、規制緩和、消費者保護法(EGRRCPA法)」によって修正された。なかでも、「強化されたプルーデンシャル標準(EPS)」の適用先となる銀行持株会社を、総資産500億ドル以上から総資産2500億ドル以上へ引上げ、総資産1000億ドルから総資産2500億ドルの先への適用にはFRBに裁量を与えた点が重要である。

報告書は、これに伴って、SVBに対する監督の強化が2018年から2021年まで先送りされた点を指摘し、監督期間も顕著に減少したとしている。また、FRB(ワシントン)がFRBSFの監督チームに対して、SVBFGに対するLFBOとしての最初の評価を2022年8月まで免除する(waiver)ことを認めた事実も記載している。

その上で、FRB執行部への面接をもとに、当時任命されたFRB副議長(金融監督対応)の下で、金融機関の負担軽減の圧力や監督上の決定に必要な立証責任の上昇、監督上の措置のための検証過程の強化等の変化が生じたことを示唆している。

さらに報告書は、この点が先に見たようにFRB(FRBSF)によるエビデンス収集の優先に繋がった可能性に加え、政治家(policy makers)の意向を考慮して、SVBFGに対して高い監督基準を早期に適用することを望まなかった可能性も示唆している。

暫定的な印象

SVBの破綻が基本的な問題に起因していたのと同様に、報告書が示したFRBの監督上の課題にも、地域金融機関に対するリソースの不足や監督体制のガバナンスの不備といった基本的な問題が多い。一方で、政権の変更による規制や運用の変更が関係したとすれば事態は複雑だが、報告書も一定の政治的な視点を反映している可能性を考慮する必要がある。監督情報を用いた調査が必要であるため難しい面はあるが、将来的には第三者による検証も必要と思われる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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