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FRBのパウエル議長の記者会見-No commitment

2023/05/04

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はじめに

FRBは今回(5月)のFOMCで25bpの利上げを決定したが、声明文から「幾分かの追加的利上げが適当」の表現を削除し、利上げバイアスの修正を示唆した。会見では、多くの記者が一連の銀行破綻による金融政策への影響やFRBの監督責任を取り上げた。

経済情勢の判断

パウエル議長は、米国経済が潜在成長率を下回る緩やかなペースで推移するとともに、個人消費は底堅いが、住宅投資や設備投資といった金利感応度の高い分野で減速が明確になっている点を確認した。この間、労働市場は、労働参加率や未充足求人などの面で需給に緩和がみられるが、雇用者数の増加や低位な失業率等の面で引続き力強く推移していると評価した。

会見では、金融市場で景気後退への懸念が高まっているのに対し、FRBのSEPが楽観的との指摘があった。パウエル議長は、累次の利上げに関わらず労働市場が力強さを維持している点で過去の経験則が該当しない点を指摘するとともに、インフレ抑制に必要な経済活動の減速が想定ほど大きくない可能性を示唆した。

このほか、一部の記者が連邦債務上限の引上げが実現しなかった場合の影響を取り上げた。パウエル議長は、米国への信認の毀損も含めて金融経済に大きな影響が及ぶとの懸念を示した一方、この問題は議会の責務として具体的な対応への言及を避けた。

物価情勢の判断

パウエル議長は、インフレ率が減速しているが依然として高く、2%目標への収斂になお時間を要するとの見方を確認し、FRBとして物価目標の達成に強くコミットする姿勢を確認した。

会見では、前回(3月)のSEPが本年末のPCEインフレ率を3%台前半と予想していた点について、この程度の減速で十分かとの指摘があった。パウエル議長は直接的な回答を避けつつ、引締め的な状況を維持することで時間をかけて2%目標の達成を目指す方針を確認した。

また、価格や賃金の動向に関しては、パウエル議長は賃金上昇率が幅広い指標で減速している点を歓迎したほか、供給制約がタイトであった際に増加した企業のマージンが競争の回復によって縮小する点も価格上昇圧力の緩和につながるとの期待を示した。

銀行破綻の影響の評価

この問題に関しては、主として、①景気や物価への影響、②FRBの監督当局としての責任の2つの点で記者会見の焦点となった。

このうち①については、パウエル議長は、今回の声明文にも明記されたように、米国の銀行システムは健全かつ頑健であり、3行の処理が決定したことで、銀行危機としては区切りを迎えたとの見方を示した。

しかし、特に中小金融機関が与信姿勢を厳格化させる結果、金融引締めの効果を増幅しつつ企業や家計の信用条件をタイト化させる可能性が高いとの見方を確認しつつ、その程度や時間的ラグには不透明性が高いとの理解を示した。

このため、パウエル議長は、次回(6月)のFOMCで金融政策を判断する上では、こうした影響の評価が重要な要素になるとの見方を示すとともに、信用収縮の影響は利上げ1回分の効果に相当するという前回(3月)の記者会見で示唆したシンプルな理解を修正し、影響の正確な推計は困難と説明した。

②については、パウエル議長は、バー副議長の下で取り纏められたFRBの監督や規制に関するレビューの内容が説得的であったと評価しつつ、FRBの対応に誤りがあった点を認め、課題を正しく把握し、適切な対応を講ずることが重要との考えを強調した。

また、一連の銀行破綻の主要な教訓は、銀行経営が時代の変化に即して急速に変化していることに監督や規制が追い付いていない点にあると説明し、SVBのような規模の銀行により強い監督が必要であったと指摘した。、

なお、報告書では前任者が中小金融機関に対する監督姿勢を弱めたとして批判の対象となった金融監督担当の副議長の役割については、議会がDodd-Frank法を通じて新設した経緯を踏まえて、その役割を尊重する考えを示唆した。

その上でパウエル議長は、記者の質問に答える形で、銀行業界のconsolidationは長期的なトレンドである一方、中小金融機関は地域経済を支える重要な役割を果たしており、銀行が全体として多様性を維持することに意義があるとの理解を示した。

金融政策の運営

今回(5月)のFOMCは25bpの利上げを決定したが、会見では、当然ながら多くの記者が利上げの打ち止めに関する論点を取り上げた。

パウエル議長は、まず、物価目標の達成のために十分に引締め的な状況を実現する上で今回の利上げが必要との考えを確認し、利上げしない方が利上げを継続するよりも生ずるリスクが大きいとの評価を示した。

もっとも、声明文から「幾分かの追加利上げが適当」との表現を削除したことは意味のある修正であるとも指摘し、利上げバイアスの変更も示唆した。また、FOMC内では、今回の会合に限らず、予てから利上げの停止の適否に関する議論があると説明した。

その上で、今後の政策運営はデータと見通しに即して会合ごとに決定する方針を示すとともに、今回の利上げによって政策金利が5~5.25%になっても、物価目標の達成に向けて十分に引き締め引き締め的かどうには不透明性が残るとの理解を示し、利上げの停止如何について明確な判断を示さなかった。

さらに、5~5.25%という政策金利の水準が、前回(3月)のdot chartに示されたFOMCメンバーの多数派による本年末の予想と一致することを確認しつつも、パウエル議長は、FOMC内ではインフレの抑制に相応の時間を要するとして、総需要の抑制のために利下げは不適切との見方が多い点も指摘した。

このほか、会見では、物価安定と金融安定とは別な政策目的であり、別の政策手段を用いるべきというSeparation Principleの妥当性に関する質問もあった。パウエル議長は有用な考え方であるとの意見を示しつつも、一連の銀行破綻に対して金融政策でも使用する手段を活用している事実を指摘し、この原則には限界もあるとの理解を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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