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Supply chainの強靭化-G7財務相・中央銀行総裁会議の視点

2023/05/13

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はじめに

5月11~13日に新潟で開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議が、公表した声明文には、Supply chainの強靭化に向けた取組みが盛り込まれた(パラグラフ16~18)。筆者が東京国際金融機構で取り組んでいる「Supply chain GX」と関連する面もあるだけに、内容や意味合いを検討しておきたい。

基本的な問題意識

パラグラフ16では、クロスボーダーの経済活動にとって、効率性だけでなく頑健性の観点も重要となったことを確認し、G7として様々なショックへの対応で協調する姿勢を確認した。その目的は、共通価値の保護と、多国間での自由でフェア、ルールベースのシステムによる経済効率の維持にあるとし、こうした努力がGHG排出のネットゼロ達成に資すると指摘した。

上記の目的には「西側諸国」の基本的な価値や発想が明示されており、その意味でSupply chainの強靭化は経済安全保障の観点から取り上げられたものと理解できる。その上で、こうした努力が気候変動対応に資するというロジックを展開した点は興味深い。

ただし、パラグラフ16だけでは、経済安全保障がどのように気候変動対応にリンクするのか判然としないだけでなく、そもそもSupply chainの強靭化は財務相・中央銀行総裁会議でなく、貿易や投資に関する会議で取り上げるべきテーマではないかとの印象を受けるかもしれない。こうした疑問への回答は、パラグラフ17に示されている。

経済安全保障と気候変動対応のリンク

パラグラフ17は、前回(4月)のG7財務相・中央銀行総裁会議のAnnexとして提示された”High-level Policy Guidance for Public Finance Tools to Build Resilient Supply Chains in the Era of Decarbonization”に言及しつつ、Supply chainの分散化がエネルギーの確保とマクロ経済の安定に資するとの考えを確認した。

このPolicy guidanceの前半では、気候変動対応に不可欠な製品や技術の高度な集中に懸念を表明した。その上で、この問題を克服するため、民間部門に対して、①supply chainの分散化、② supply chain全体の責任ある持続的なビジネス展開、③人的資本の開発や良好なガバナンス、④製品や技術に関するR&D活動、を促進させることを表明した。

さらに、今回の声明文には、合計8本の付属文書の1つとして、 OECDが日本政府の要請によって作成した”Strengthening clean energy supply chain for decarbonization and economic security”という 興味深いタイトルの文書が添付された。

この中では、電気自動車のバッテリー、太陽光発電パネル、風力発電のタービンという気候変動対応に不可欠な3つの製品を取上げ、原材料やその一次処理、部品生産や最終組立てといったsupply chainの各段階について、主要国のシェアを具体的に示した。結論は言うまでもないが、原材料に関しては新興国に相応に分散している面もある一方、その後の段階では特定国のシェアが共通して極めて高いことである。

特定国のシェアが高いこと自体が、直ちに国際社会にとって問題となるかどうかは自明ではない。また、当該国が需要の増大を正しく予見して、早くからR&Dや投資を行った結果であれば、適切なリターンと見なしうる面がある。逆に、懸念が合理化されるには、当該国が関連技術の知的所有権を順守しなかったとか、過度な政策的支援を行ったといった問題が存在する必要がある。

Supply chainの強靭化に向けたファイナンスの役割

上記の付属文書は、気候変動対応の観点で各国政府がSupply chainの強靭化を図る上では、トリレンマに直面すると指摘した。具体的には、①競争上の中立性、②Supply chainの確実性、③ クリーンエネルギーの採用の3点である。

その上でこの文書は、G7に限らず各国が実際に採用している政策として、1)電気自動車の購入に対する個人への減税、2)太陽光発電パネルの生産に対する事業者への低利融資、3)戦略資源の確保(国内生産の促進、代替資源の開発、資源回収の強化)の3つの政策を挙げ、各々が直面するトリレンマの内容を検討した。

それらの具体的な議論は紙幅の関係で省略するが、1)については「国産車」限定の減税が競争上の問題を生じうる点や、2)について特定国の支援が突出している点を指摘した一方、3)については多国間での協力を評価した点が注目される。

いずれにしても、ここまでくれば財務相・中央銀行総裁会議の守備範囲であることが明らかであり、実は、上記の Policy Guidanceも、そのタイトルから明らかなように、民間部門の誘導手段として(税制を含む)公的なファイナンスを念頭に置いていた。

そしてこの付属文書の最後では、各国政府が(税制を含む)公的なファイナンスによってトリレンマを克服する際には、G7以外の国々を含む協調が重要である点を確認しつつ 、クリーンなSupply chainによる貿易の促進や公平な貿易慣行の促進まで含めた連携の有効性を指摘した。

より多く、良質かつ安全なFDI

声明文に戻ると、パラグラフ18はFDIの課題を取り上げた。FDIが、雇用の創出、専門性の強化、技術移転等の面でグローバルな経済統合に貢献し、新興国や途上国ではインフラ整備に資する点を確認しつつ、不可欠なインフラへのFDIは受入れ国の経済的な自立性(sovereignty)の脅威になりうる点も指摘した。

こうした指摘も、具体的に言及していないが特定国の対応を想起させる記述となっているが、いずれにしても、パラグラフの後半が提起しているように、国際機関等が新興国や途上国に対するFDIについて、上記のようなメリットに対する貢献度合いを客観的に評価しうる枠組みを提示することが有用となる。

筆者としては、東京国際金融機構で取り組んでいるテーマとの関係でも、経済安全保障からの視点だけでなく、G7のような先進国によるFDIが、supply chain全体のクリーン化も含めて、新興国や途上国の気候変動対応にどう貢献しうるかという視点にも関心がある。

実際、先にみたPolicy guidanceの最後のポイントとして、 G7諸国による新興国や途上国とのSupply chainに関する連携強化が気候変動対応にも資するとの理解が示されていたが、具体的なアプローチは今後の課題となっている。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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