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5月FOMCのMinutes-Retaining optionality

2023/05/25

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はじめに

FRBの5月FOMCは25bpの利上げを継続したが、メンバーの間では、インフレ目標達成に向けた追加利上げの必要性に関する意見は分かれ、選択の余地(optionality)の重要性が共有された。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、米国経済が第1四半期に緩やかなペースで拡大したことを確認した。

家計の消費は、可処分所得の増加によって1月は力強く拡大したが2月以降は減速したため、本年を通じて金利感応度の高い領域を中心に低調なペースで推移するとの見方を示した。企業の設備投資も、高水準の借入コスト、生産の減速、景気の先行きに関する不透明性を映じて、第1四半期は低調であったと評価した。

一連の銀行破綻については、家計の支出やマインドに影響を与える可能性を挙げた。もっとも、数名(several)のメンバーは影響がデータに顕在化していないと指摘したほか、別の数名(a few)のメンバーは、むしろ高インフレと借入れコストの上昇が低所得層の選択的支出を抑制していると指摘した。

企業活動への影響についても、一部(several)の地区連銀総裁が企業による景気見通しの悪化に繋がったとした一方、別の数名(some)のメンバーは資金調達への影響は小さい(modest)との見方を示した。

この間、FOMCメンバーは労働市場が依然として強いと指摘した。同時に、prime-ageの労働参加率がコロナ前の水準に戻ったほか、未充足求人率や離職率も低下した点を踏まえ、労働需給の不均衡に改善の兆しがみられるとした。今後は金融環境のタイト化もあって総需要が減速する下で、雇用の拡大は一層減速するとの見方を示したほか、一部(some)の地区連銀総裁は、雇用の困難さが緩和し、一部にlayoffも生じた点に言及した。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、インフレ率が依然として受け入れがたい高さにある点を確認した。

コアインフレ率は予想以上に減速している点を確認したが、コア財のインフレ率は供給制約の緩和に関わらず減速が緩やかと評価した。また、コアサービスのインフレ率には減速の兆しが見られないとし、数名(some)のメンバーが労働市場の更なる減速が必要との見方を示した。もっとも、住居費のインフレ率には、新規テナントの賃貸料低下の兆しが影響しつつあると指摘した。

名目賃金の上昇率も徐々に減速しているが、生産性上昇のトレンドを踏まえると、物価目標と整合的な水準を大きく上回ると指摘した。もっとも、数名(several)のメンバーは家計や企業の長期のインフレ期待は十分安定しているとの見方を示した。

なお、一連の銀行破綻の影響については、一部(several)のメンバーは、資金調達機会が低下しても、総需要と総供給の双方を抑制するため、物価への下方圧力は大きくないとの見方を示した。

経済や物価の見通しとリスク

FOMCメンバーは、今年の実質GDP成長率が長期トレンドを下回って推移するとの見方を幅広く(generally)共有し、その主因として累次の金融引締めによる金融環境の顕著なタイト化を挙げた。

この間、FRBや関係当局の対応により一連の銀行破綻に伴うストレスは大きく減退したと評価し、一部の中小銀行の預金流出も顕著に減速したと指摘した。

もっとも、多く(many)のメンバーは、特に中小銀行で与信条件の厳格化が従来以上に加速した点を指摘したほか、数名(some)のメンバーは中小銀行への依存度の高い中小企業への影響が大きいとの懸念を示した。もっとも、他の数名(some)のメンバーはそうした影響は顕在化していないと反論した。

これらの議論を踏まえ、FOMCメンバーは、今後数四半期には利上げの影響以上に銀行の与信姿勢がタイト化するとの見方を示した一方、その程度や期間を自信をもって評価するには時期尚早との見方も共有した。

経済の先行きについては、一連の銀行破綻によって不確実性が一層高まったほか、リスクは下方に傾いているとし、金融引締めの効果、銀行問題の悪化、連邦債務上限の不確実性を要因として挙げた。物価についても、消費や雇用の底堅さ等によって上昇圧力が継続するリスクを挙げた一方、数名(a few)のメンバーは、金融環境のタイト化による支出の抑制が、インフレ圧力を軽減する可能性を指摘した。

金融政策の運営

5月のFOMCは25bpの利上げを全会一致で決定したが、累次の利上げの影響を含む金融環境のタイト化を踏まえると、今後に必要な利上げの程度は不透明になったとの見方を幅広く(generally)共有した。

政策判断の上で注目すべき要素としては、累次の利上げに伴う経済や物価への影響度合いとその時期、一連の銀行破綻に伴う家計や企業に対する与信条件のタイト化が景気や物価に与える影響度合い、2%目標に向けたインフレ率の変化等を挙げた一方、それらの多くが極めて不透明である点も確認した。

また、政策運営におけるリスクマネジメントの重要性も共有し、大多数(almost all)のメンバーが、銀行問題によって景気の下方リスクや失業率の上昇リスクが高まった一方、インフレ率の上方リスクが政策運営のカギであるとの見方を示した。

これらを踏まえて、多く(many)のメンバーは、今後の政策運営に関する選択の余地(optionality)の重要性を共有した。その上で、数名(some)のメンバーはインフレ目標への収斂が極めて遅い点を挙げて利上げの継続が必要と主張した一方、他の数名(several)のメンバーは、経済が見通し通りに推移すれば今後の利上げは不要になる可能性があるとの見方を示した。

最後に、FOMCメンバーはインフレ目標の達成に向けたコミットメントの重要性を確認した。また、データ依存のアプローチを明記することの重要性も共有し、大多数(vast majority)のメンバーが声明文の修正(some additional firmingの削除等)に同意したが、数名(some)のメンバーは、この声明文が、年内の利下げの可能性の示唆、ないし追加利上げの可能性の排除と理解されるべきではないと指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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